AirForce Magazine7月号が「Five Roads to Space Dominance」と題した記事を掲載し、2月に公表された国家安全保障宇宙戦略(NSSS: National Security Space Strategy)で示された、米国の宇宙パワーを保つための5つのアプローチを解説しています。
同誌には珍しく6ページに渡る記事で、大変読み応えがありますし、米国防政策を取り巻く諸問題の縮図の様な様相を呈しており興味深いです。
記事の筆者は、2010年まで同誌の編集長を務めた人物で、その経験と人脈を生かし多数の関係高官(リン国防副長官、シュルツ国防省宇宙政策専門官、カートライト統合参謀副議長、シェルトン米空軍宇宙コマンド司令官、ケラー米戦略軍司令官等々)から膨大なインタビューを行い、まんぐーすのような非専門家にもわかりやすく米宇宙政策の現状と課題をまとめています。
5つのアプローチとは、1宇宙のルール設定、2米国の能力強化、3新たな協力関係構築、4抑止力の強化、5勝利に向けて、の5つです。2月にNSSSが公表された際は、約14ページのペーパーを見る気力がなかったのですが、今回リン副長官が退任を表明したこともあり、同副長官が担当し苦労した功績をたどるべく記事の概要をご紹介することと致しました。
全体が長いので、2回に分けてご紹介です。
本日は、序論、1宇宙のルール設定と2米国の能力強化について、明日は後半の3つ、3新たな協力関係構築、4抑止力の強化、5勝利に向けて、をご紹介します。
序 論
●現在宇宙に約60カ国が衛星を保有しており、その数は1100を越える。米国当局は宇宙空間に漂う危険なゴミを約21000個追跡しており、その数は2030年までに3倍になると予想されている。
●衛星との通信は脆弱で、イランからキューバ、エチオピアからリビアに至るまでがその通信を妨害可能で、実際妨害を行っている。そのほかにも対衛星兵器(ASAT)やレーザー兵器、マイクロウェーブ兵器、サイバー兵器が宇宙アセットを狙っている。
●米国の宇宙産業の衰退は数ある課題の最大のモノの一つである。かつて衛星市場の7割を占有していた米国は、この10年で3割にまで落ち込んだ。
●このような環境下、米国は2月に公開部分14ページのNSSSを発表した。そこにはこれら諸環境に対応するための5つのアプローチが示されている。ソフトアプローチからハード対応まで、多様な角度から対応方向を示している。
1 宇宙ルールの設定
●宇宙戦略を外交レベルで取り組むとしてイメージされるのが、多国間での透明性の確保であり、相互信頼性の醸成である。米国は他国に対し、衛星情報や宇宙浮遊物体のデータ共有を呼びかけ、宇宙での物体衝突の警告を出そうとしている。
●宇宙の利用者が安定的な環境を享受し、利己的な行動を抑えるため、「行動規範(code of conduct)」を定めることが求められている。これは、衛星の安全を確保し、信号妨害を防止し、混雑する軌道の有効活用を促し、不信感を排除し、宇宙ゴミを減らすことを狙っている。
●ただし、この規範は米国が作るのではない。リン副長官は、EUの宇宙行動規範の採用可能性ni
言及している。
●しかしこの規範策定には根強い反対がある。2月2日、37名の共和党上院議員が大統領に、米国の宇宙プログラムに多くの要求事項を突きつける可能性があると懸念をする、とのレターを送付している。
●規範加盟国があらゆる軌道周回物体の意図的破壊(宇宙ゴミを生ずる)を禁じられ、自己防衛のための破壊をも禁じられる可能性が高いからだ。専門家は、米国が規範に加われば、ASAT計画やその他衛星破壊計画が推進できなくなる等、様々に米国の自由を縛ると懸念している。
●この規範はまた、宇宙での「軍備管理」に繋がる民意を喚起する恐れがあると懸念されている。米国は長く、ロシアや中国の宇宙での軍備管理呼びかけを拒否してきた経緯もある
2 米国の能力強化
●米軍の他の装備品と同様に、宇宙アセットも同様の課題、極端な能力追求による価格の高騰、開発の遅延、必要数の確保困難等々の悪循環を招いてきた。2009年ゲーツ前長官が、開発が遅延し2400億円も投資して成果の目処が無かった衛星システム計画をキャンセルしたように。
●そして修正の方向は、適正な要求性能、適正に低い価格、より高い抗たん性、である。仮に回路の一部分が故障してもシステム全体が停止しないような配慮が求められる。より高い軌道、複数のアセット配置、複数衛星をリンクで結んで任務分担等々のアイデアがある。
●アセットの柔軟性も必要。30年も寿命はいらない。10年程度でよいから数が欲しい。18ヶ月単位で変化に対応できる柔軟性が必要。
●打ち上げ手段にも改革が必要。現在打ち上げは76回連続成功の輝かしい状態にあるが、費用は限界を超えて上昇を続けている。原因は打ち上げの非効率な調達にある。
●長期的にブロック単位で予約調達できれば、関係企業も計画的に部品等を安価に調達でき費用を下げることが出来るのに。定期的に打ち上げを予約し、何を打ち上げるかは後で考えるべきとの主張もある。
●本件は、悪戦苦闘し、世界でのシェアを10年間で7割から3割に落としている米国の宇宙産業界を活性化させるためにも重要である。国防省は健全で、競争力があり、柔軟で健康な宇宙業界を求めている。
●宇宙関連製品の輸出規制も米国産業の足かせとなっている。技術保護を目的とした規制が産業界の競争力を殺ぐ結果となっている。
///////////////////////////////////////////////////////
宇宙を独占してきた米国自身のプライドとの戦い・・・ここでも「自身の成功の犠牲者」にならないよう、発想の転換が求められているようです。日本も「米国の成功」の陰で成功を享受してきたわけですから、陰の成功の犠牲にならないよう考え方を変えなければならないのでしょう・・・。
しかし宇宙分野での競争激化は耳にしていましたが、米国宇宙関連産業のシェアが7割から3割に激減とは・・・殿様商売だったのでしょうか?
「衝突警告677回中国産宇宙ゴミ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-06-14-1
「前半:サイバーと宇宙演習の教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-01
「後半:サイバーと宇宙演習の教訓」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-02
「宇宙態勢見直し作成中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-15-1
「国家安全保障宇宙戦略:NSSS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-05