10月3日付『読売新聞』「地球を読む」に、東大教授北岡伸一氏が「『ノー』と言える防衛政策」との囲み記事を寄稿されています。今後の議論の基礎になると考えましたので紹介し、更に若干個人的意見を補足したいと思います。
まず北岡氏の情勢認識は・・・
●尖閣諸島沖にの中国漁船と海保庁巡視船との衝突を巡る中国の激烈な外交は、力による現状変更を試み、禁輸など常軌を逸した激しいもので、到底許されるべき外交ではない。
●そして今事案は、中国の平和的台頭などは容易に期待できないことが明らかになった。
北岡氏主張の「日本の対応」・・・
●日本の対応として重要なのは、強い言葉ではなく、防衛政策の強化である。中国の様な国に対し力の背景のない外交は意味がない。相手の不当な要求に静かにはっきり
とノーと云うことが必要であり、そのために備えが必要。
●「安保懇」提言の早期実行
-まず必要なのは、安全保障の議論を内閣中枢において絶えず総合的に行って置くこと。
-武器輸出3原則の廃止ないしは、緩和が必要である。
-集団的自衛権を行使可能と明確に態度表明すること。
●上記施策により、国論が一致して国難に対応することこそが、日本の断固たる態度を示す最も望ましい方法である。
●十分な力の備え意をした上で、穏やかに話し合わなければならない。力なき言葉は無力である。このため臥薪嘗胆して自衛力を強化しなければならない。(以上が新聞記事)
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北岡氏が引用している「安保懇」提言とは、8月27日総理に提出された「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」〔座長:佐藤茂男京阪電鉄CEO〕の事を指しており、「心ある人々」から高く評価されているところです。
本ページでも、茂田宏氏のブログを引用して紹介させていただいたところです。
「安保・防衛懇「報告書」を見る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-08-31
「武器輸出3原則の偽善」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-09-15-2
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ただ気になることは、仮にこの提言が受け入れられ、国として防衛政策を真剣に議論し始めたとき、防衛省や自衛隊幹部から「まっとう」な施策メニューが提案されるかどうかです。
例えば・・・「F-22が喉から手が出るほど欲しい」と言って置きながら、SAPIOの10月20日号に「国産戦闘機の開発を急げ」との意見を出している過去の方や、陸上自衛隊の組織防衛のみに力を注ぐイラクで話題を集めた方、最近何かとネット上で中国批判にあわせて政府批判を行っている複数の自衛官OBなどが、防衛省や自衛隊幹部の思考回路を端的に示していると思います。
つまり、これまでの防衛力整備の延長線上でしか考えられない、世界の脅威や情勢の変化を分析しつつ(顧みて)我が国の防衛力整備を行う習慣の無い(無かった)組織文化の中で育った人たちに、中国や極東の脅威変化に備える態勢変換が可能か?との疑問です。
言い換えれば、政治家の無策や防衛政策に胡座をかき、無事定年を迎えて「天下る」ことだけをることだけを日々念じている高級将校に何が期待できるか・・との素朴な疑問です。
また、偏狭な組織文化や特定の職域の利益を優先し、時代の変化に目をつぶる習性を身につけた人々から、何か有効な施策が生まれるだろうか・・・との疑念です。
不遇な防衛政策の中で汗を流してきた事は認めるとしても、戦後60年以上に渡り、米軍を参考にしながらそれらしい形を「ぼんやりと」歩んできた人たちが、米軍の大きな変革をその背景にある脅威の変化に適応できるか・・との問題です。
その凄まじき「官僚化」「硬直化」「セクショナリズム」は、最近批判にさらされる公務員制度の中でもトップレベルにあると考えられ、まず適応できない・・問題意識すら持ち得ない状況にあると考えられます。
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Air-Sea Battle外圧に期待・・・
残念ながらその壁を打破するには「米国からの外圧」しかないようです。特に防衛省・自衛隊が顔を背けているゲーツ改革やAir-Sea Battle導入を好機ととらえ、下克上や価値観変革の力となることを期待せざるを得ません。
「ゲーツ改革のまとめ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-17
「ゲーツの取得開発改革指針」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-09-15-1
「米が武器輸出・共同開発の方針転換へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-22
●例1 → 防衛省は、中国の軍事的台頭や北朝鮮の核、ミサイル開発に対応するため、米国製の無人偵察機グローバル・ホークを3機導入する方向で検討に入った。年末に策定する新たな「防衛計画の大綱」に基づく中期防衛力整備計画(中期防2011-2015年度)に盛り込みたい考えだという。
最近、F-15偵察機化試改修事業に係わる契約(F-15用偵察システム/光学・赤外線偵察ポッド等)で東芝が納期猶予申請をしたため、防衛省は、要求性能を達成できないと見込んで納期猶予を申請しなかったことで、グローバルホークに乗り換える理由付けとするのであろう。
●例2 → 海上自衛隊が潜水艦の耐用年数を延長するなどの施策を進め、運用潜水艦数を2隻増加する方向
上記の例など、通常の官僚的思考からは到底生まれ無いもので、特に有人偵察機導入の削減につながる無人機の導入など、これまでの主流組織文化が受け入れなかった動きです。いろいろ期待はありますが、陸上戦力については当然メスを入れて欲しいものです。なんと言っても暇ですから・・彼らは・・統合運用開始で最も明白になった事実の一つでしょう。
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皆さん注意です。中国脅威論や中国への嫌悪感が高まっている事を利用して、とんでもない旧思考の装備品や組織防衛を図る輩が出てきますから。
本当に何が必要なのか・・・それはこのページの読者の皆さんならお察しでしょう。
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(追伸)
ちょっと話題から外れますが・・・今回の尖閣事案を「後知恵」で個人的に振り返ってみると・・・
●民主党政権は国民から強烈な批判を浴びることになり、安全保障の重要性を新ためて感じたであろう。
●日本国民が中国の本質を学ぶ機会であったとも考えられる。Holylandの愚妻や娘までもが中国の態度と船長釈放に関する日本政府の対応に激怒(なぜかHolylandが叱られる羽目に・・)しており、庶民感覚に中国が深く刻まれたものと評価できる。
●中国は、おおむね国際社会から批判的かつ懐疑的な目を向けられることになった。(今後の中国の行動に影響を与えるほどのインパクトがあったかどうかは不明ながら・・・)
●副次的ながら、ロシアと中国が共同で領土問題について日本と対峙する姿勢を見せたことにより、ロシアの本質的性格についても国民の目にさらされた。
●開催中の上海万博で日本館の行列に変化はなく(待ち時間3-4時間)、日本企業所属の中国人研究者が中国フィールド調査で冷遇されることもなかった。一部の例であるが、マスコミが報じるほど中国国民の反応は一様では無いとも見える。
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