対中国:ASEAN諸国の対応

syouji.jpg防衛省防衛研究所の紀要(昨年12月号)がwebサイトに公開され、庄司智孝氏が対中国を見据えたASEAN諸国の対応をベトナムを中心にまとめています。
22ページの論文で、短くするのが難しいのですがはじめにと結びの部分をピックアップしてご紹介します。
米国防省の公式発表ばかりを見ていると、中国包囲網が着々と・・になってしまいますが、アメリカが望むような「囲い込み」はなかなか難しいようです。
地域の状況を端的に述べると・・
●中国の一方的な政策に対し、中小国から構成されるASEANが結束を試み、かつ米国などの域外国の関与を促す多国間枠組の対話によって中国に南シナ海政策の再考を促す、という図式が続いている。
南シナ海沿岸国は対応策として
SouthChinaSea.jpgベトナムは軍事的なオプションを用いた「囲い込み」ではなく、ASEANを中心とする多国間対話枠組において同問題をアジェンダに上げ、ASEANの集団的外交力と域外国の関与を適宜活用することによって事態の打開を図ろうとしている。また米国への慎重な接近によって中国の台頭に対するヘッジを強めようとしている。
●ベトナムは中国との関係において、協力関係の維持と、中国が南シナ海で見せる拡張主義的な傾向を警戒するという2つの政策のバランスを取る必要があり、その対中姿勢は複雑な様相を呈する。ただそのバランスを基本的には維持しつつも、近年ベトナムの対中警戒心がより強まっていることを各種の政治的言説から読み取ることができる
フィリピンも中国の動きに警戒感を強め、ASEANを中心とした外交活動を強化するほか、米国との安全保障協力を推進している。
マレーシアに関しては軍事装備面での増強が見られるが、政府の公式発言からすると目立った動きはない。
インドネシアはASEAN議長国として、ASEAN関連会合における多国間協議を積極的に進めている。
●ASEAN諸国は、問題の平和的解決に向け今後も多元的な外交を展開することになるであろうが、その際、ASEANとしての統一性をいかに維持するかが課題となるだろう。
ただしここで留意すべきは・・・
south chinaS.jpgASEANの南シナ海政策は域外国の関与を取り込んだ中国の「囲い込み」ではないという点であり、とりわけ可能な軍事的オプションはきわめて限定的である。
●ASEANの集団としての外交力とASEANを核とする多国間対話枠組みを効果的に活用し、そこに特に米国ら域外国の「適度な」関与を促しつつも、ベトナムをはじめとするASEANの領有権主張国は専ら中国と決定的な対立状態になることを回避している。
●中国の力は増大することが予想され、中国の南シナ海政策は「非対立的な強硬姿勢」(non-confrontational assertiveness)を貫き、軍事・外交両面で活発化している。東南アジア諸国は従来中国の台頭を「警戒的な楽観主義」(cautious optimism)をもって迎えていたが、中国の強まる主張を前に、楽観主義はより警戒的な態度へ変化している。
●それでも多国間対話枠組を通じて南シナ海問題の平和的解決を模索することが、ASEANにとってほぼ唯一の方策であり、それはASEAN・中国間の各種会合での協議を中心としつつ、ARF閣僚会合、ADMMプラス、東アジア首脳会議といった米国をはじめとする他の域外国の参加を求める拡大多国間対話枠組みを適宜活用する。
ASEANはこうして、中国と他の域外国との関係の間に適切なバランスをとることに腐心している。
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south chinaSe.jpg参考文献には、ベトナムを中心として各国のメディアを丹念にフォローした後が見られ、ご興味ある方のお役に立つのでは・・・
ちょっと前までは、南シナ海沿岸国の軍備になど誰も興味を示さなかったと思いますが、ここに来て必須の基礎知識になりつつあるように思います。
繰り返しますが、論文の最初と最後を舐めただけなので、くれぐれもご自身でご確認下さい。
「パネッタ長官初のアジアツアー」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-10-22
「マレン議長がアジア政策を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-07-27
「インドネシアと関係強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-07-23
「マレーシアと関係強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-11-10
「ASEAN Plusに参加」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-10-11
「南シナ海進出を如何に防ぐ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-07

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