1日、米空軍のWelsh参謀総長が下院軍事予算関連委員会で証言し、民間航空分野での操縦者需要が高く米空軍パイロットの流出問題が現実のものとなっていると語りました。また、今後の影響分析や空軍操縦者の養成数増大等々に取り組んでいると説明し、併せて「手当」の増額を求めています
空軍パイロットの民間航空会社等への「流出」や「その願望」は、給与格差に加え、勤務環境や家族への負担等々の視点から考えれば「避けられない」事ではありますが、空軍の地上勤務要員の大半が操縦者の養成や能力維持向上に多大な労力をつぎ込んでいる現状もあり、「操縦者」VS「非操縦者」間の心理的亀裂の深層要因となっています
特に民間への流出を「国家としての人的資源の有効活用」とかの「美辞麗句」で表現されると、陰口や陰鬱な不満を生むことになります。
脅威の変化が顕在化し、戦闘機の位置づけが微妙な今日この頃、特に空軍を支配する戦闘機操縦者の口から本件が語られる時、「さざ波」が「重力波」のように発生するわけです。
「さざ波」が共振しないことを祈りつつ・・・
3日付米空軍協会web記事によれば
●1日、Mark Welsh米空軍参謀総長は下院の「Appropriations Committee」で証言し、長年その存在が認識されながら対処が不十分だった米空軍操縦者確保・引き留め問題が、現実の問題となっていると語った
●まず参謀総長は、「2015年には、主要な民間航空会社は約3500名の操縦者を新規採用したが、この大量採用ペースは今後9年~10年継続するだろう」との見通しを示した
●そしてWelsh大将は「米軍パイロットは訓練され経験も豊富なことから、民間航空会社にとって魅力的で最適な人材となっている」と語り、「空軍操縦者の継続勤務率を65%に維持する必要があるが、2015年には55%に止まった」と説明した
●また同参謀総長は「一人前の若手空軍操縦者は、民間機の機長に数年で転換可能で、平均給与が軍時代より2.5倍になる」との現状を説明した
●Welsh参謀総長は本件への対策として、RAND研究所に民間航空会社の操縦者需要予測と影響分析を依頼しており、併せて空軍操縦者養成数を教育機関の定員一杯にし、地上勤務ポストに就いている操縦者の配置を再検討していると説明した。
●また、米空軍として有人機及び無人機操縦者の「継続勤務手当:retention pay」を$35,000に増額するよう要望すると述べた
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「手当を$35,000に増額」することの直接的効果は限定的でしょうから、要するに現役操縦者への「お手盛り施策」の一環とも考えられます
「無人機操縦者」との新たなカテゴリーも、「操縦者」VS「非操縦者」間の心理的隙間で複雑な位置付けにあります。有人機操縦者からすると地上勤務者で有り、「非操縦者」からすると「特別手当」をもらえる別の人種です
更に下士官が無人機操縦者になる道も新設され、この辺りの人間模様が下士官を含めて更に複雑さを増すことになります
操縦者確保が行き詰まれば作戦運用に影響が出ますから、Welsh参謀総長としては大きな課題ですが、より俯瞰的に世界の空軍世界を見れば、「操縦者」VS「非操縦者」の古典的&永遠の課題と、「無人機操縦者」が加わる新たな人間模様が底流に透けて見える問題でした
無人機操縦者の問題関連
「下士官を無人機操縦者に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-19
「問題点と処遇改善の方向性」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-11
「空軍長官が現状を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-17
「無人機操縦者の離職止まず」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-31
「無人機操縦者手当を2倍以上に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-01-17
「無人機は事故率6倍」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-21-1