これこそ紆余曲折の典型例でしょう
15日付米海軍協会web記事によれば、米海軍初の空母艦載無人機として空中給油機能をメインにすることになったCBARS(空母ベースの空中給油システム)と呼ばれていた機体の名称が、11日に「MQ-25A Stingray」となることが米軍内で決定されたようです
正確には、製造企業が決定するまでは「ZMQ-25A」で、決定後に「Z」がとれるらしいですが、2018年に関連企業に提案要求書を発出し、2020年代に運用開始を予定しているようです。つい数年前までは2018年頃の運用開始を計画していたはずが、予算制約もあり大きく後退しています
そもそも初の空母艦載無人機は、2006年のQDRではUCAS(Combat Aerial Vehicle)と表現され、ステルス性を備え敵地深く侵入して攻撃する機体がイメージされていました。
しかしその後、米海軍内の操縦者族の巻き返しで、ステルス性は程々に対テロ攻撃用の偵察と軽攻撃能力を保有すればよい程度に格下げされ、2011年頃からはUCLASS(空母発着偵察&攻撃システム)と呼んで米海軍が要求性能をまとめました。海軍内部では「RAQ-25A」(RAQは偵察&攻撃無人機の意)と密かに読んでいたようですが・・・。
この案にはUCASのイメージを望む国防省や議会から反対の声が挙がり、2014年夏から国防副長官を中心とする再検討(SPR:strategic program review)が行われましたが、2017年度予算案が発表される直前の2016年2月頃、空中給油任務が主で多少の偵察能力も備えるCBARSとしての方向が決定された「模様」です
公式に発表があったか把握していませんが、この決定は海軍へのF-35C導入とFA-18の追加購入を予算上優先するための判断で、中東で酷使され損耗が激しいFA-18補完と、同機が飛行の1/3を当てる空中給油任務から解放する狙いを持っています
この結果、空母に艦載無人機を装備する方向では前進しましたが、ステルス無人艦載機として攻撃に使用する構想は、大幅「先送り」になりました。米海軍の戦闘機族が「職域防衛」に勝ち取った形ですが、国防省や海軍省高官、研究者や議会有識者も限られた予算という大前提を前に、他に選択肢がなかったのでしょう・・・。残念です
15日付米海軍協会web記事によれば
●海軍は将来、この機体により多様な任務能力を付加したいと考えており、名称を認証する米空軍と相談し、マルチ任務無人機を意味する「MQ」を冠することになった
●Joseph Mulloy海軍戦力融合部長は、「空中給油能力がしっかりし、少し偵察機能も必要だ。兵器搭載は後で、空飛ぶトラック役に集中する」、「当面はハイスペックな能力は幾つか削減し、徐々に成長させて生存性などは後に付与することになろう」と米海軍協会ニュースに語った
●2014年夏から本年までの検討の結果、UCLASS計画を無人空中給油機にすると再設定した際、米国防省はあわてて用意したCBARSとのあだ名を用いたが、米海軍幹部に歓迎されなかった。
●米海軍トップのRichardson作戦部長は2月12日、「その名をとても愛しているかと言われれば自信がない」「よりよい名前を用意することになるだろう」とコメントしていたところ
●空母艦載無人機への要求は大きく変化したが、UCAS計画やUCLASS計画のデモ機として空母離発着を成功させたX-47Bの技術は引き続き活用され、地上からの司令装置や無人機との連接部分に関してはこれまでの研究成果が生かされることになる
●機体部分の提案要求の原案は、恐らく2016年末までに4つの企業(Boeing, Northrop Grumman, Lockheed MartinとGeneral Atomics)に提示され、正式提案要求書は2018年には発出されることになろう
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今の予算状況からすれば、今後のF-35の価格高騰や米海軍の新戦略原潜や新空母調達を考えれば、「MQ-25A Stingray」の行く末は「波高し」と言わざるを得ません。
「兵器搭載や生存性向上は後で」と言われても、「そんなことには誰も責任は負いません」と言っているように聞こえます
おそらく、空母の存在意義や現在の運用法を根底から脅かすような「事件」や「被害」が発生し、やっと目が覚めて「長距離」無人艦載ステルス攻撃機の重要性や必要性が叫ばれるのでしょう。
人間はなかなか進歩しませんね・・・
UCLASS関連の過去記事
「UCLASSはCBARSへ?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-02
「UCLASS選定延期へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-05-1
「米海軍の組織防衛で混乱」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-01
「国防省がRFPに待った!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-07-12
「関連企業とRFP最終調整へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-19
「会計検査院が危惧」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-05-10
「X-47B空中受油に成功」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-05
「なぜUCLASSが給油任務を?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-02-1