3日、加州のレーガン財団が主催した会議で「領土回復を目指す勢力への抑止:「Restoring Deterrence in an Era of Revanchist Powers」とのパネル討論が行われ、Work副長官やハリス太平洋軍司令官や陸軍参謀総長も加わり、中国やロシアに対する抑止について語っています
そんなに画期的な発表があったわけではありませんが、中国とロシアの抑止に関する、今の国防省の考え方や取り組みを端的に表現していると思うのでご紹介します。
最近、トランプ氏の大統領就任を控え、レーガン大統領の誕生時との類似性から論じる方が増えているように思いますが、このレーガン財団が毎年この時期に主催する「Reagan National Defense Forum」には、昨年も国防長官を始めとする国防省の幹部が勢揃いしており、レーガン氏への国防族の思いのほどが窺えます
Work副長官は「第3の相殺戦略」と絡めて
●John Mearsheimerは大国(a great power)の定義として、米国のように圧倒的な通常兵器と核攻撃を生き延びる核戦力で核抑止力を持つ大きな国と表現した。
●米国は、勢力争いを自然な国家の状態と見なしている中国とロシアを抑止するため、3つの要素が必要である。戦略核抑止、通常兵器による抑止、そして日々継続的に繰り広げられる戦略的闘争への対応である
●仮に、戦略核抑止を「at the Top」とすれば、通常兵器による抑止は「in the middle」で、日常的な闘争は「at the bottom」である。通常兵器と日常の闘争の関連を「危機管理」とすれば、戦略核抑止と通常兵器による抑止のリンクは「エスカレーション管理」と考えられる
●そして我々が取り組んでいる「第3の相殺戦略」は、包括的な戦略的安定を追求する中で、通常兵器による抑止に焦点を当てたものである
ハリス司令官は抑止の定義に言及し
●抑止を方程式で表現すると、「能力」と「決意:resolve」と「意図表明:signaling」のかけ算で表現される。そして3つの要素全てが揃わなければ、抑止は機能しない
●「能力」について問われれば、我々には備わっていると思う。危機が迫ったときの「決意」についても、我々にはあると思う。しかしこの2つの要素に疑問がなくても、「意図表明:signaling」が十分でなければ抑止は完全に機能しない
●また「能力」に関して言えば、軍事力はその一部に過ぎず、全ての省庁が保有する能力全てがこれに該当し、国際社会の中で中国とロシアと向き合う必要がある
●そして「私の担当する太平洋地域を暗視装置で見れば、我々の取り組み全てが、この複雑な環境において大統領が必要な施策を遂行できる能力を提供する事につながっている」
Milley米陸軍参謀総長は
●過去15年間の戦いでは、4軍全てが対テロや過激派対応に集中して対応してきた。これらのために特化し、今や他の脅威対処に必要な能力とのギャップが明らかになりつつある
●米国(米軍)は依然として比較優位を保っているが、相手との差は明らかに急速に縮小しており、危険な状況に立ち至っている
●望むと望まざるとに関わらず、中国やロシアや北朝鮮やイランやテロリストは、国際秩序に挑戦してくる。我々は必要な能力を確保して抑止しなければならない
●そしてこの抑止は力によってなし得るモノで、規模と能力の組み合わせで得られるモノだ。これまでその様に努力してきたし、将来の指導者も同じようにするだろう
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久々の共和党政権誕生に向け、レーガン大統領との類似性が指摘されるトランプ政権に向け、「第3の相殺戦略」を着実に進め、オバマ政権の態度が煮え切らなかった「意図表明:signaling」もしっかりやり、本格紛争用の戦力強化にガッツリ取り組んで欲しいと訴えているようです
そして世界や同盟国の間に不安感が広がる中にあっても、何となく米国防省内部にはどっしり構えるムードが漂っているような気がします。
既に3日の時点では、Mattis氏が次期国防長官にノミネートされたことは明らかになっており、オバマ政権の「細部介入」に嫌気がさしていた国防省幹部にも「光明」が見えているのかも知れません
Mattis次期国防長官の関連
「Mattis氏が次期国防長官」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-02
「トランプ氏がMattis氏と面談」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-21
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「カーター長官基調講演」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-13
「副長官が相殺戦略を説明」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15