中東に新たな不安定化の動き
日本の皆さんの関心は薄いと思いますが・・・
8月28日、今年2月に選出されたハマスの新リーダー「Yehiyeh Sinwar」が初めて記者団を前に会見し、5年前2012年にシリア支援を巡る対立が原因で断絶状態になったイランとの関係が復活し、ハマスがイスラエルと対峙するための軍事及び資金援助が再開されたと語りました。
なおハマスは、イスラエルだけでなく国連やEUからテロ組織に指定されている組織で、これまでに誘拐、自爆テロ、狙撃等により数百人のイスラエル人を殺害しているガザ地区を拠点とする過激派組織です。
一方イランは公然とイスラエルの破砕を国是と掲げる国家で、イスラエルのガザ地区で反イスラエル闘争を先導するハマスを支援し続けていましたが、シリア内戦で弱体化したアサド政権の支援を求めるイランに対し、ハマスがこれを拒絶した事で断絶に至りました
一方ガザ地区では、パレスチナ自治政府からハマスが実権を奪った10年前から、対ISIL作戦の話題に隠れる形で、パレスチナ自治政府が同政府職員の給与を削減したり、自治政府の要請との形でイスラエルがガザへの電力供給を一日8時間程度に抑えたりして締め付けが強化され、失業率5割や貧困が拡大しています
具体的にどの程度のイラン援助が復活したか55歳のハマス新リーダーは言及しませんでしたが、「断絶」前は毎月50億円以上の支援があっと言われており、またSinwar新指導者の発言の雰囲気から、相当程度復活したと想像されます
またハマス新指導者は、ガザ地区と国境を接するエジプトが、従来はイスラエルと対ハマスで協力していたが、イスラム過激派流入阻止の点からハマスと国境管理面で協力姿勢を示しているとも言及し、当地域での国家間関係に微妙な変化の兆しを示唆しています
日本で本件にご興味のある方は少ないと思いますが、ISIL弱体化の後に訪れるであろう中東域での新たな勢力争いを考えるうえで、また再び動き出すであろう反イスラエル活動を考えるうえで、更にイランの影響力を考えるうえでも重要な出来事ですのでご紹介します
8月28日付Defense-News記事によれば
●28日のハマス新リーダーの初の記者会見は、国連事務総長Antonio Guterres氏がイスラエルやパレスチナを訪問するタイミングに合わせるかのように行われた。なお事務総長は28日にイスラエルに入り、29日に西岸地区を、30日にガザ地区を訪問する予定である。ただしハマス側との接触の予定はない
●Sinwarハマス指導者は、イスラエル兵の誘拐や殺害の罪で約20年イスラエルの刑務所にとらわれていた人物で、ハマスが2006年から拘束していたイスラエル兵と交換で、2011年にイスラエル側から解放された約1000名のハマス活動家等の一人である
●Sinwar氏は会見で、「イランからの支援は、イスラエルへのより大きな戦いに備えるために、つまりパレスチナの開放を勝ち取るために、ハマスの軍事力を再構築し蓄積するためのものである」と強調し、
●「数千人の同士が、日々ロケット弾を製造し、密輸トンネルを掘り、潜水ダイバー戦士を鍛えている」、「イランとの関係はこのためにあるのだ」と語った。
●しかし一方で新指導者は同時に、イスラエルとの4度目の戦いを開始する意図はないとも語り、むしろ困窮するガザ地区の人々の救済をまず行うとも語った
●そしてSinwar氏は、隣国のエジプトがシナイ半島根拠のイスラム過激派対策としてハマスの支援を求めていることを受け、エジプトとの関係を改善して国境封鎖の緩和を実現しつつあると語った
●「エジプトとの関係は劇的に改善した」とSinwar氏は語り、エジプトが最近、ガザのエネルギー問題対策として燃料を提供してくれたとも明らかにしつつ、「ハマスは、イスラエルを除く全てのドアをたたいて問題解決に取り組む決意だ」と訴えた
●イスラエルとの捕虜解放交渉については、「仲介者を介して開始する準備があるが、条件が完全に整い、解放された者達の無罪が保証された後にだ」と語った
●ハマス新指導者の会見に対し、イスラエル軍のパレスチナ担当司令官Yoav Mordechai少将は、ハマスがイスラエル兵2名の遺体を返還しないことや、イスラエル民間人2名を誘拐していることを厳しく非難し、更にハマス自身がガザの住民や民間援助団体を悪用して活動していると強調し、
●「テロ組織であるハマスは、ガザ地区の住民の困窮に関わらず、イスラエルからの援助を優先的に入手して住民を犠牲にすることに全く躊躇がない」と語った
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イランの新たな動き、ハマスの再始動、エジプトの動向などを、ハマスの新リーダーの発言を通じてご紹介しました。
なおハマスは、過激な反イスラエル活動だけでなく、イスラエルの制裁により困窮するガザ地区住民向けの支援活動を活発に行っており、新たな戦力となる若者を引き付ける大きな力となっており、組織の巧妙さが際立っています
当時のシャロン首相が2000年に神殿の丘を訪問するまでは、西岸地区への入植を加速するまでは、イスラエルとパレスチナはそれなりに共存方向が見えていたんですよ。
しかしパレスチナ人の人口急増に危機感を感じたのか、狂信的なユダヤ人や入植者が悪いのか、もちろんテロに走る過激派の存在も「がん」なのですが、全く光明が見えませんねぇ・・・
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