米本土の巡航ミサイル対処をCSIS提案で議論

従来の大量戦闘機投入による追尾・識別・対処から決別
「Five Layers of Defense」方式で経費を従来案の半分に
AI活用の敵の動向分析、OTHレーダー、管制機関レーダー活用
地域限定の集中監視網、高リスクエリアにのみ戦闘機とAEW

Russia cruise2.jpg7月14日、CSISが米本土の巡航ミサイル防衛に関するレポート発表会&パネル討議を行い、従来の戦闘機大量投入や特殊センサー導入による対処ではなく、Tom Karako研究員らが煮詰めた、より多様な手法を組み合わせつつ対処エリアを絞る「5段階の防衛:Five Layers of Defense」方式を提案しました

同提案は北米軍や北米防空司令部(NORTHCOM/NORAD)の過去の検討を基礎に発展させたもので、現在のNORTHCOM/NORADの検討方向と同じだと7月14日付米空軍協会web記事は紹介しており、少し前まで巡航ミサイル攻撃は核攻撃レベルに至った場合にのみ行われるので核抑止で十分との思考が主流だったが、巡航ミサイルの発達&多様化により、米本土を360度全周から襲う脅威の同ミサイルへの警戒感が高まっている模様です

Russia cruise3.jpg具体的な脅威として、ロシア製の空中発射型ステルス巡航ミサイルAS-23(通常弾頭Kh-101、核搭載Kh-102)が部隊配備され、米国の早期警戒レーダー網の外側やロシア領空内から発射して米本土攻撃が可能になったことや、2030年頃までには中国軍も同様の兵器を保有するとの見積もりがあるようで、CSISのレポート発表会は複数のパネル討議を含む約4時間の大型イベントとなっています

Tom Karako研究員らが提案する「5段階の防衛:Five Layers of Defense」レポートでは、①AI活用の敵の動向分析、②OTHレーダー、③公的管制機関レーダー、④地域限定の集中監視網、⑤高リスクエリアにのみ戦闘機とAEWとの「5段階」で構成され、戦闘機と特殊センサー中心で20年間に総額9兆円から60兆円必要だと言われてきた従来対処構想の半額の、20年間で4兆円で体制構築可能だとの主張が展開されているようです

7月14日付米空軍協会web記事によれば「5段階の防衛」は
Russia cruise.jpg第1段階(first layer)では、人工知能を活用して多様なセンサー情報を総合分析し、「敵の行動の日常パターンの変化:a change in pattern of life」を見極め、敵の巡航ミサイル攻撃の兆候を察知する
●爆撃機や潜水艦基地の通常の動きからの変化をとらえるため、通常の状態や変化のパターン情報を蓄積してAIに学習させ、通常からの離脱の兆候を見出すような分析をAIに実施させ、米本土の準備体制強化のトリガーとして活用する

第2段階(second layer)では、オゾン層で探知波を反射させて遠方監視可能なOTHレーダーで「21世紀版のDEWライン」を構築し、数千km先で敵の侵攻をとらえる
●OTHレーダーには従来防空レーダーのような分解能は期待できないが、より遠方で敵攻撃の兆候を把握でき、他の詳細情報入手可能な宇宙センサーなどをOTHレーダー情報を基に指向して情報制度を高めることが可能となり、対処アセットを効率的に指向可能となる

Russia cruise4.jpg第3段階(third layer)では、連邦航空局FAA保有の航空路管制レーダーや他の官民センサー情報も取り込んで融合し、米軍保有のレーダー等センサー情報補完に活用する
第4段階(fourth layer)は、米本土の全体全てを防御エリアとする従来の考え方を捨て、優先防御エリアPAD(Prioritized Area Defense)を絞り込んで対処する選択である。パネル討議では、どこを重視防御エリアにするかの議論が数十年行われてきたと紹介されている

Kh101 as-23.jpg●CSISレポートでは、以下の3地域の沿岸エリアをPADに選定する提案がなされており、一つは大西洋岸の北東部から中部沿岸、次に太平洋沿岸の大部分、最後に一部の南部地域、となっている
●当該PADエリアには、塔の上に設置されたレーダーや光学センサー19種類で500㎞範囲をカバーするセンサネットワークを構築し、迎撃用アセットとして中射程と長射程の地対空ミサイルを配備する(戦闘機を配備する従来構想とは異なる)

第5段階(fifth layer)では、「Risk-Based Mobile Defense」と呼ぶ脅威が飛来しそうな方向に移動式の防御アセットを展開させる対処である。例えば北極圏飛来シナリオでは、戦闘機とE-7早期警戒管制機を前方展開して重点待ち受け態勢を整える手法である

CSIS Cruise2.jpg●以上の「5段階の防衛」は、従来の単にキャッチャーミットを持って待ち構えるだけでなく、より能動的に敵の発射準備段階から、時間の縦深性を持って対応しようとする考え方である
●これまでの大量の戦闘機とセンサーで対処する方式では、大量の戦闘機を拘束し、かつ多額の費用が必要となるが、「5段階の防衛」は約半分の予算で実現可能で、余った資源を他の重点分野に振り向けることができる

CSIS Cruise3.jpg●更にこの「5段階の防衛」は極超音速兵器や無人機対処にも発展活用の可能性があり、また極超音速兵器用に開発が始まっている「hypersonic Glide Phase Interceptor」用のMK41 Vertical Launching Systemを、長射程迎撃兵器として利用する案もCSISは提起している
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第1~第3段階部分は、日本の自衛隊も大いに参考にしてはどうでしょうか? もちろん第4段階のPADも第5の「Risk-Based Mobile Defense」も頭の体操の材料になると思います。以下のCSISイベントの映像でも見て、頭をリフレッシュして頂きたいものです

CSIS Cruise.jpg特に航空自衛隊は、最近サイバーや宇宙に手を出し始めていますが、対中国の最前線にありながら、従来の防空体制には全く変化がありません。実質的に「座して死を待つ」体制で、信じ難いながら「あぐら」をかいている状態ともいえましょう

なお、ロシアのステルス巡航ミサイルAS-23はウクライナ紛争に既に投入され、残骸から米国製半導体や電子デバイスが32個以上見つかって話題になっていました。ロシアが弾薬切れらしく、無駄に近距離攻撃に使用していたようですが・・・

CSISの当該イベントwebサイト
https://www.csis.org/events/new-time-homeland-cruise-missile-defense

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