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野放しな宇宙兵器を管理する議論の枠組み構築に向けた一歩
部分的核実験禁止条約と宇宙条約しかない現状から前進したい
5月27日、CSISのTodd Harrison研究員が「International Perspectives on Space Weapons」との33ページのレポートを発表し、世界各国の関心が高まる宇宙ドメインにおける兵器議論の枠組みを構築するため、また可能ならば宇宙兵器管理の枠組み構築の第一歩になればとの願いを込め、「宇宙兵器の6分類」を議論のたたき台として提示しました
Harrison研究員は問題認識として、宇宙兵器を制限する現存の唯一の枠組みである部分的核実験禁止条約(Partial Test Ban Treaty)や宇宙条約(Outer Space Treaty)が「宇宙の兵器化:weaponization of space」を制限しているが、幾つかの国が数十年前から宇宙兵器と呼ばれるものを保有していることは否定できない事実であると指摘し、
一方でこの問題を議論しようにも、何が「宇宙の兵器化:weaponization of space」や「宇宙兵器:space weapon」なのか定義の合意も皆無な状況で、更にこの定義を定める条約的枠組みを構築する動きもほとんどない現状を挙げています
そこで同研究員は、まず米国と西側同盟国間(一般国民を含め)で宇宙兵器について議論する際の実用的な区分として「6分類」を準備し、まず宇宙ドメインで急いでやるべき、またはやりたいことの議論を行う際の、「航海」を手助けしたいと考えたようです。
同研究員の言葉を借りれば、「人々は何十年も、宇宙の兵器化はダメだ、宇宙兵器はダメだと言って立ち止まっているが、この暫定枠組みで見てみれば、既に実用化されているものが厳然と存在していることに、より明確に気づく」ためのものです。特別驚く分類ではありませんが、まんぐーすのような初心者にはありがたいのでご紹介します
5月27日付C4isrnet記事によれば
●Harrison研究員は、「kinetic か non-kineticか」及び、どこ(地球内または宇宙)からどこへ作用を及ぼすかを組み合わせ、「6分類」を作成した。ただし、地上にある宇宙関連施設(衛星との通信施設など)を地球内から攻撃するパターンは、宇宙を経由していないので除外している
●Earth-to-space kinetic
・地球から宇宙アセットに発射する物理的破壊を狙ったミサイルなどで、2019年にもインドが実験している。この兵器は目標破壊後に「宇宙ゴミ」を宇宙空間に放出・残置することが大きな問題と言われている。通常弾頭と、理論的には核弾頭が使用される。
・既に、米、露、中、印がこの能力保有を示している。米露は1960年代に宇宙での核実験を行ったが、ロシアは今年4月にも能力試験を行っている
●Earth-to-space non-kinetic
・地球から宇宙アセットへの電波妨害、レーザーによるセンサーかく乱、サイバー攻撃で、その効果は多様であるが、一時的な機能妨害や停止から、恒久的な機能喪失までに及ぶ。
・米露中及びイランを含む、多くの国がこの能力を保有している
●Space-to-space kinetic
・宇宙空間で衛星が他の衛星に接触して機能を妨害したり破壊したりする。この目的専用の衛星も含まれる。ここでも物理的接触により生じる「宇宙ゴミ」が問題となる。ロシアは冷戦期に繰り返し、この種の兵器を宇宙軌道に置く試験を行っていた
・核兵器の使用も理論的にはあるが、影響範囲が大きく、周辺の宇宙アセットにも被害が及ぶ可能性がある。
●Space-to-space non-kinetic
・軌道上の衛星から、高出力マイクロ波や妨害電波などにより宇宙アセットの機能を阻害する。公開情報でこの兵器の使用が明らかになったことはない。
・この兵器が使用されたことを外部から確認することは困難であるが、2018年にフランスがロシアに直接、この手段で軍事通信を傍受(または妨害:intercept)しようとしたと非難している。
●Space-to-Earth kinetic
・古くからフィクション映画で用いられている、宇宙アセットから地上目標(地球内目標)を攻撃するイメージである。
・宇宙から地上や地球内に金属片を落として重力エネルギーで破壊力を得る手法や、大気圏突入装置に弾道を搭載する手法等が考えられる。米国がかつて検討したといわれているが、このような兵器が試験された記録は公開情報にはない
●Space-to-space non-kinetic
・衛星など宇宙アセット(地上から発射された弾道ミサイルを含む)を、電波妨害などで機能喪失させる手法。
・米国が議論していた衛星からレーザーを使用して弾道ミサイルを無効化する構想もこの範疇に含める。しかし、この手法が使用された記録は公開情報にはない
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CSISの同レポート紹介ページ
→https://aerospace.csis.org/international-perspectives-on-space-weapons/
「公開情報では確認できない」との表現が多数見られますが、サイバーと同様に観察・監視するのが難しい世界だということでしょう。
「Earth-to-space non-kinetic」能力を「米露中及びイランを含む、多くの国がこの能力を保有している」というのは、衛星通信電波の妨害は容易だということなのでしょう。
Harrison研究員は、宇宙兵器や宇宙の軍事化の定義にコンセンサスが得られなくても、「宇宙兵器の開発は将来に向け加速する。しかしこの際各国は、防御用の兵器だと主張してその開発を説明するだろうが、その能力は他の方向ににも使用可能な能力であると認識すべきだろう」と結んでいるようです。要注意ですね!
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