防衛研究所が日本台湾交流協会と共同研究
ペロシ下院議長の台湾訪問時を分析し「失敗」と
台湾は中国にとっての「試験場」
防衛研究所が、所属研究者による論文集である安全保障戦略研究(2023年12月号)を発表し、日本台湾交流協会との共同研究事業としてまとめられた論文『中国が目指す非接触型「情報化戦争」 ―物理領域・サイバー領域・認知領域を横断した「戦わずして勝つ」戦い―』を掲載しています
防衛研究所の中国研究室・五十嵐隆幸研究員と日本台湾交流協会・荊元宙氏による同論文は、「サイバー領域と認知領域の定義を確認し、中国の活動を整理したうえで、それに物理領域を加えた全ての領域で横断的に繰り広げられる非接触型の「情報化戦争」について、台湾を事例にその実態を理解する手がかりを考察」することを狙いとし、
事例として、2022年8月2日から3日のペロシ米下院議長による台湾電撃訪問時に、台湾社会が見舞われたサイバー攻撃と、ペロシ離台後の人民解放軍による軍事演習を取り上げ、
「中国は台湾に対して領域横断的な非接触型「情報化戦争」を仕掛けたのだが、それは失敗に終わった。現時点で中国が台湾に対して繰り広げる領域横断的な非接触型「情報化戦争」の形態を見る限り、平素より対策を講じ、過剰に反応しなければ、その効果を無効化もしくは低減可能であることを台湾は証明した」と結んでいます
更に同論文は、「また、2014 年から始まったロシアとウクライナの間の紛争を見ても、サイバー領域や認知領域での戦いが戦争全体の帰趨を左右したとは言い難く、むしろその限界が示され、それだけでは戦争に勝てないことが証明されている」と分析しています
同論文は、ペロシ米下院議長の台湾訪問から8月10日の中国による台湾周辺での軍事演習終了までの間の、中国による猛烈な「サイバー領域と認知領域」での非接触型「情報化戦争」の事例を細かく紹介し、4日以降の軍事演習についても概要をフォロー&紹介していますが、
『日本や欧米などのメディアは「第四次台湾海峡危機」として動向を注視したが、中国による台湾対岸で軍事演習に台湾の人々は「慣れ」てしまっており、「強要」の効果を失いつつあった。実際、台湾の人々は、圧倒的多数がその軍事演習を「怖くなかった」と語り、軍事演習下でも普通の生活を送っていた。台湾がパニックになっていたら中国の思うつぼだったが、威嚇で屈服させようとする中国の思惑は台湾に通じなかった』と結んでいます
ただし論文は、『「人海戦術」で自国民の命を顧みなかった中国でも、今は少子高齢化で軍隊は募集難に苦しみ、「兵士の命」の重要性が増している。ゆえに中国は「戦わずして勝つ」との究極の目標を目指し、領域横断的な非接触型「情報化戦争」の能力構築に努力を継続する』とし、『中国にとって台湾は、中国が領域横断的な非接触型「情報化戦争」の能力を国家総動員で構築していくための「試験場」になっている』と記し、西側の油断を戒めています
また、今後の本分野へのAI技術の活用の可能性に注目し、『最先端の AI 技術で言語や文化の壁を克服し、認知領域での優勢を獲得することで、物理領域と情報領域における優勢をより確保することへと繋がり、それが領域横断的な非接触型「情報化戦争」の到達点になる』とコメントしています
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なお、中国の「情報化局地戦争」の範囲に関して同論文は、以下のように説明しています。
『「領域」についての認識は、米国や NATO 諸国のみならず、中国でもほぼ共通しており、本稿では(米国防省が示している) CDS(領域横断的な相乗作用(Cross Domain Synergy) の区分を準用し、物理次元に存在する陸、海、空、宇宙の 4 領域は「物理領域」、情報次元は Information と Intelligence との混同を避け、かつ、実態にそぐわせて「サイバー領域」、人間の心の中を「認知領域」として議論を進めていく』
その他にも同論文は、学術的論文として、中国の「情報化局地戦争」概念をその経緯も含めて詳しく説明しており、ご興味のある方は論文をご覧ください
日本に対する中国の「情報化局地戦争」について、防衛研究所が分析&対外発信しない徹底した姿勢は、「中国安全保障レポート2024」や「NIDSコメンタリー」や今回の「安全保障戦略研究(2023年12月号)」から、よぉーーーーく理解できました。
安全保障戦略研究(2023年12月号)の全体
https://www.nids.mod.go.jp/publication/security/security_202312.html
論文「中国が目指す非接触型「情報化戦争」」
https://www.nids.mod.go.jp/publication/security/pdf/2023/202312_02.pdf
防衛研究所の「異様な」対中国姿勢がわかる公刊物
「中国の影響工作/概要解説」→https://holylandtokyo.com/2023/12/21/5362/
「異様な中国安全保障レポート2024」→https://holylandtokyo.com/2023/11/28/5299/
防衛研究所による各種論考紹介記事
「サイバー傭兵の世界」→https://holylandtokyo.com/2020/08/05/515/
「量子技術の軍事への応用」→https://holylandtokyo.com/2022/01/14/2577/
「先の大戦・あの戦争の呼称は」→https://holylandtokyo.com/2021/08/13/2103/