ブログ「東京の郊外より」支援の会を立ちあげました!
→https://community.camp-fire.jp/projects/view/258997
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
ロシアは全戦力近代化を7割完了
中国は2020年代末には米国と同レベルに
中露それぞれに別々の抑止戦略が必要だとも
7月30日、米空軍協会ミッチェル研究所でのオンラインイベントに米戦略軍司令官Charles A. Richard海軍大将が登場し、中国やロシアの急速な軍事増強と近代化の状況を端的に紹介しつつ、中露それぞれに異なる抑止対処を迫られ、サイバーや宇宙での戦いも交えた抑止概念の再構築が求められていると語りました
同司令官は中国やロシアの軍事増強と近代化状況を非常に直感的にわかりやすく説明し、それに伴い戦略軍が担ってきた「抑止」の概念を、武力紛争に至る直前の「グレーゾーン」領域のとらえ方等を巡り、整理しなおす必要がある点を強調しています
「21世紀の抑止」が如何にあるべきかについては長く議論が続いており、この場でご紹介しただけでも4年ぐらい遡ることができます。しかし、だれが何を行っているのかさえ把握と立証が困難なサイバーや宇宙ドメインの重要性が高まり、SNS上での平時からの情報戦をも含めれば、国家目標を達成する手段の多様化とその抑止の考え方は極めて複雑になりつつあり、簡単に結論が出そうな雰囲気はありません
7月30日付米空軍協会web記事によれば同司令官は
●ロシアの戦力近代化について
— ロシアは過去15年以上に渡りロシア軍のすべての側面の近代化を進めており、その範囲は、兵器など戦力の近代化に留まらず、ドクトリン、指揮統制、警報体制、訓練演習、即応体制の在り方等々にまで及んでいる。
— 同大将は「簡単に言えば、ロシアがどの分野で軍の近代化に取り組んできたかを説明するのは難しい。あまりにもその範囲が広範で多岐にわたることから、近代化を進めていない分野を挙げる方が容易だとも表現できる。基本的に全分野で近代化が進んでいるのだ」と語った
— そして「ロシア軍の近代化は、トータルで約70%完了したと評価しており、米国に脅威を与える点で全側面にわたるステップアップがあったとみることができる」とも表現した
●中国は米国と肩を並べる勢い
— 中国は2020年代末までには米国と戦略的対等レベルに至る道を進んでいる(on a track to become a strategic peer to the United States)
— 中国は「息をのむほどの」軍事力増強を急速に進めてきており、2013年までは沿岸警備部隊を保有する決定さえしていなかったのに、今では255隻もの大艦隊を保有するに至っており、武力紛争未満での争いを勝ち抜く「完璧な装備」とも呼ぶべき戦力を整えている
— 中国が今後取り組むリストには、核戦力、戦略的能力の強化がある。中国は空中発射能力の導入を図ることで核兵器の3本柱を完成させつつある。また地上のサイロ式ICBMや移動式ICBM能力の近代化に投資している
— 中国の急速な戦力整備は驚くべきものであり、常に米国よりも迅速に進めている。彼らはミニマムレベルの核抑止戦力保持方針を掲げているが、戦力の実態は、方針の言葉をそのまま信じられない規模である
●今後の抑止を考える上で
— 米国の抑止戦略の基本に変化はなく、敵が得る利益よりも大きなコストを敵に負わせる体制の維持を目標としている。しかし、抑止戦力の使用や使用の可能性については変化しつつある。この変化をどのように把握し理解すべきかに取り組んでいる
— 米国は遠くない将来、2つの異なる同レベルの核兵器保有国と対峙することになるだろから、2つの異なる抑止策を考える必要に迫られるだろう。戦略コマンドはまた、サイバーと宇宙ドメインを抑止にどう組み込んでいくかについて、両ドメインへの戦略攻撃をどう定義するかについてと共に検討しているところである
— 米国はこのような状況に直面した経験がない。戦略軍は他の米軍と共にこの状況を分析している。しかし戦略レベルでの作戦は、通常戦力による作戦に影響を受けるものであり、武力紛争に発展する直前までのグレーゾーンまでを踏まえよく考える必要がある
— (グレーゾーン付近は、)単純に階段を上るようには考えにくい。階段が壊れていたり、非線形であると考えなければならない。敵の意思決定における複雑な算段が、すぐさま我に影響を与え、危機状況においてはそれが顕著だろうと考えられる。米軍は統合戦力として、これについて共通認識を持てるよう取り組んでいるところである
//////////////////////////////////////////////////////
サイバーや宇宙ドメインへの影響は、発信源特定が困難でありながら、社会・金融・通信等インフラに甚大な混乱を引き起こす可能性を秘めており、民主主義社会の対処は意思決定プロセスを含め考えるだけで困難な状況が想定できます
一方で、市民社会を顧みる必要のない中国やロシアにとって、サイバーや宇宙ドメインは、いかにも手が出しやすい・操りやすいツールともいえましょう。
これを日本から見ると事態はさらに複雑で深刻で差し迫っています。中国が尖閣を確保した場合に米国が動けるかに関する「尖閣デカップリング」とか「尖閣ジレンマ」とか呼ばれる(?)戦略問題に、日本は明日にでも直面する可能性があります。すぐそこのある危機ですよ・・・。Clear and Present Dangerです。
21世紀の抑止概念を目指す
「米議会で専門家を交え中国抑止を議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-17
「3本柱はほんとに必要か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-22
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03
「新STASRT条約は延長の危機」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-02-21