米海軍は当面イルカ&アシカ部隊を維持へ

無人水中艇が発展する中でも依然として不可欠
年間予算僅か60億円弱の精鋭部隊とか

Dolphins Sea Lions6.jpg2022年12月31日付Military.com記事は、米海軍が1959年から立ち上げに着手した水中哺乳類「イルカやアシカ」を使用した「機雷探知」「海中侵入者の探知」「水中遺失物操作」部隊に関し、近年の無人水中艇の発達で廃止が検討され始めているが、まだまだ無人水中艇機材の能力が水中哺乳類には及ばないことから、(新たに動物を捕獲することはない模様だが)当面維持されるだろうと紹介しています

現在米海軍は、サンディエゴのPoint Loma海軍基地のNaval Information Warfare Center-Pacificで、「Marine Mammal Systems」と呼ばれる77匹のバンドウイルカ(Bottlenose dolphins)と47匹のヒゲアシカ(whiskered sea lion)が所属する部隊を年間約60億円弱で運用し、艦艇やヘリや爆発物処理チームと共に「機雷探知」「海中侵入者の探知」「水中遺失物操作」任務に従事させています

Dolphins Sea Lions4.jpg2023年度に米海軍は、この3つの任務の「機雷探知」を水中無人艇に移管しようと検討しましたが、低コストで無人水中艇より優れたイルカ&アシカ部隊の廃止を禁止する法案を米議会が成立させ、この動きを阻止したとのことです。米海軍の現場部隊関係者からもイルカ&アシカ部隊の有用性を支持する声は高く、能力面からも廃止の方向には近い将来進めないだろうと記事は紹介しています

過去にも断片的にこの「イルカ&アシカ部隊」を紹介したことはありましたが、非常に秘匿度の高い部隊でよく実態がわかりませんでした。そんな中、大みそかの記事が比較的詳しく紹介していますので、これを機会に「イルカ&アシカ部隊」を学びたいと思います

2022年12月31日付Military.com記事によれば
Dolphins Sea Lions3.jpg●1939年にイルカのショーを見せる水族館が現れ、イルカなど水中哺乳類の優秀さを米海軍が利用しようと1959年に本格検討が開始され、数年後に「Marine Mammal Program」が本格スタートした

●当初は、サメ、エイ、ウミガメなども候補として検討されたが、最終的にバンドウイルカとヒゲアシカが対象に選ばれた。バンドウイルカは長い鼻に備わった「biological sonar」が優れ、ヒゲアシカは濁った水中でも優れた視力と聴力を発揮することで、無人水中艇のセンサーに比して優れた「対象物」識別能力を発揮している

●またイルカとアシカは、水深300m程度まで普通に活動可能で、人間が潜水病の懸念がある深度でも自由に活動可能な点で優れているほか、海上交通が多い場所や「藻や海藻」が生い茂る場所、更には海流の流れが速い水中無人艇が活動困難な場所でも活動可能である

Dolphins Sea Lions7.jpg●3大任務「水中遺失物操作」「海中侵入者の探知」「機雷探知」
—「水中遺失物捜索(MK 5 MMS)」はアシカが行い、艦艇からの落下物等を海底で見つけ、引き上げロープをひっかける役割をになっている

—「侵入者阻止(MK 6 MMS)」はイルカとアシカの両方が行い、艦艇や港湾施設に水中から接近する不審者を発見して人間の対処チームに知らせたり、タグを取り付け目立つようにする。またイルカやアシカが体当たりで不審者を阻止する。水中で自由に動けるイルカとアシカの侵入者阻止能力は、他の手段には代えがたい

—「機雷対処(MK 7 MMS)」はイルカが行い、電磁センサーで探知が難しい埋没機雷や電磁センサー対処能力を持つ機雷などにイルカがマーカーを付け、爆発物処置チームに知らせて処分する

Dolphins Sea Lions5.jpg●安価で開発が容易な機雷は現在でも広く利用されており、WW2後に19隻の米艦艇が機雷の被害を受け、ほとんどがイルカやアシカが活動可能な比較的浅い海域で発生している。米海軍のイルカ&アシカ部隊が機雷対処に海外派遣された事例で公表されている作戦には、1970年代のベトナム戦争、1987年のバーレーン近海での艦艇防御、2003年のペルシャ湾北部での掃海任務が記録されている

●また作戦派遣ではない通常訓練時に、加州の港で130年前の古い機雷を2013年にイルカが発見して爆発事故を未然に防いだと報道され話題になった

Dolphins Sea Lions8.jpg●米海軍はいずれ無人水中艇がイルカやアシカにとって代わると考えているが、いつまでたっても「5年後に実現可能」との表現が使われている。多様で多数の海上海中浮遊物の中から危険な機雷や侵入者を迅速に正確に識別する能力は水中哺乳類が圧倒しており、人間にタッチして知らせるインターフェイス面でも「exquisite capability」を発揮しているのが現状である。

●予算には、バンドウイルカの持つ生物センサーの仕組み解明や分析が含まれており、部隊創設以来1200本以上の研究論文が発表されている。その結果は電磁ソナー開発や水中信号処理システムの開発を通じて、米軍だけでなく広く民間の海洋活動に生かされている

生き物を軍事利用することへの批判に対し
Dolphins Sea Lions.jpg●イルカやアシカは浮遊式の「いけす」で普段生活しているが、閉じ込められているわけではない。毎日いけすから出て訓練を行うほか、自由に泳ぎ回る時間を与えられ、与えられる餌以外に自然界の餌を自由に追いかけることや、逃げようと思えば可能な環境を与えられている

●ただ、一度海軍に所属したイルカやアシカが自然界に復帰して自活していく事は難しく、イルカ&アシカ部隊が廃止された場合、米海軍は寿命40-60年のこれら動物を生涯面倒を見ることを海軍長官名で規定している。

●毎年、寿命等で毎年1-2匹のイルカやアシカが死亡し、海軍保有の頭数は命年減少しているが、作戦活動の中でイルカやアシカが死亡したことはない(推測ですが、米海軍は新たにイルカやアシカを捕獲して頭数を維持する考えはないようです)
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Dolphins Sea Lions2.jpg記事が取り上げる複数の専門家は、口をそろえてイルカやアシカ部隊の「多様な環境で運用可能な柔軟性」「無人水中艇では代替不可能な高い探知識別能力」「圧倒的な費用対効果」等々を訴え、無人水中艇がその能力を上回る時代が近く訪れると考えている者は誰もいません。

ただ記事には全く記述はありませんが、動物愛護の時代の流れから、イルカ&アシカ部隊を積極的に維持していく事は難しい時代なのでしょう。記事はロシア軍が重要港湾の防御にイルカ部隊を使用していると紹介していますが、最近のロシア軍の荒廃ぶりから、今後が気になるところです

米海軍イルカ部隊関連
「2018年RIMPACにイルカが参加」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-08-02
「米露がイルカ兵器対決?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-23

水中戦に関する記事
「21年初に本格無人システム演習を太平洋で」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-10-1
「潜水艦も無人化を強力推進」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-03
「国防省が空母2隻削減と無人艦艇推進案」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-22
「CSBAが提言:大型艦艇中心では戦えない」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-10
「特殊作戦軍が大型?潜水人員輸送艇を」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-29
「水中戦投資への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-28
「米軍の潜水艦優位が危機に」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-02-13
「UUVの発進格納技術」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-29
「潜水艦射出の無人偵察機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-07-1
「機雷対処の水中無人機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-05-30-1

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