台湾が徴兵期間を4か月から再び1年間に

2018年に1年から4か月に短縮も情勢緊迫を受け
台湾国民の7割以上が徴兵延長を支持
ただ台湾軍が抱える旧態然とした軍課題は根深く

蔡英文 徴兵.jpg12月27日、台湾の蔡英文総統は国家安全会議を招集し、18歳以上の男子に義務づけている兵役の期間を現在の4か月間から1年間に再延長することを決定し、記者会見で決断に至った思いを「誰も戦争など望んでいない。台湾国民も台湾政府も、国際社会もそうだろう。しかし、平和は空から降ってくるものではない。台湾は専制主義拡大の最前線に存在しているのだ」と国民に語りました。

現在は4か月間の兵役を義務づけていますが、これを2024年からは1年間に延ばし、2005年1月1日以降に生まれた男子に適用するとしています。27日の発表に際して総統府報道官は、兵役期間の再延長は約2年前から検討していたと説明しており、台湾国内では2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を機に、一層その機運が高まった模様です。

Taiwan Forces4.jpg台湾では、1950年代から80年代に2~3年間の徴兵制が敷かれていましたが、その後の国際情勢の変化や少子化などを背景に、90年代以降兵役期間は段階的に短縮され、2008年からは1年間になっていました。また、装備品の高度化等もあり、併せて徴兵制から志願兵制中心の態勢への移行も進められ、兵役1年間は2018年で最後となり、その後は現在の4か月間に短縮されていました。

台湾の世論調査でも1年間への再延長への支持は高く、台湾国民の73%が賛成で、中国寄りの政策を掲げる国民党支持者からも広く支持を受けているとのことです。ただ、さすがに若者の支持を得るのは容易でなく、20-24歳の賛成者は35%で、反対が37%との調査結果が出ていたようです

Taiwan Forces3.jpg現在、台湾軍約18万8000名の9割は正規兵で、徴兵兵士の占める割合は1割程度ですが、台湾が徴兵制から志願兵制度への移行で生じた欠員で、陸海空軍全般で兵員充足率は約8割で、若手が必要な前線部隊では6割程度にまで落ちているようすが、徴兵1年間に戻して充足率がどの程度回復するのかは不明です

ただ、具体的に4か月から1年に戻すための現場の対応は単純ではなく、細部は国防相が今後細部を詰めるようで、蔡英文総統の後継選挙が行われた後の2024年から新制度導入には、「責任の先送り」との声も聞かれるようです

蔡英文 徴兵3.jpg徴兵期間の延長は台湾の決意を示す兆候ですが、台湾軍の抱える体制全体の問題は根深く、その一端を2021年2月に米中経済安保評議会で証言を求められた米国専門家(Michael Hunzeker, assistant professor at George Mason University’s School of Policy and Government)の指摘からレビューしたいと思います

2021年3月の記事
「台湾軍改革を阻む組織的抵抗勢力」からご紹介

蔡英文 徴兵4.jpg●台湾軍は、人的、訓練面、装備面、動機づけの面で中国軍と対峙するに適した態勢になっていない。また台湾政府が主導する国防改革への国防省や軍上級幹部の抵抗で改善が進まず、時間的余裕もない
●(徴兵制から志願制への移行で生じた、充足率の低下については前述のとおり。また徴兵兵士への訓練期間が4か月では短すぎる)

●装備面では、中国軍の台湾周辺での軍事活動活発化に伴い、台湾海空軍の艦艇や航空機による緊急対処行動が増加する中、装備品の更新が進まないことで、装備品の維持が困難に直面しており、稼働率が低下している
●軍事ドクトリン面では、依然として中国と対称な戦い(symmetric response)を追求し、実際想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を未だに追求している

Taiwan Forces2.jpg●これら台湾軍の課題に対し、蔡英文政権は「ODC:Overall Defense Concept」を掲げ、「多層的で非対称:multilayered asymmetric force」な軍構築を目指そうとしており、その方向性は台湾の脅威環境を考えればより良い方向だ

●ただし、ODCは軍や軍人OBや国防省高官からの反対に直面し、反対の理由は極めて非論理的な「俗人的な反対、官僚組織的な抵抗、原理主義的ともいえる不同意」から来ている
●同時に政権自体も、徴兵制の復活等を含む政治的に微妙な内容にも触れているODCを、積極的に推進する意欲に欠けているように見える

Taiwan Forces.jpg●仮に、ODCが完全実施の方向に向かったとしても、対処時間は限られており、装備品の転換だけでも大変だが、更に時間の必要な作戦ドクトリン、訓練、兵站、文化などの変革を考えると、厳しい状態に置かれている
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2021年3月の記事「台湾軍改革を阻む組織的抵抗勢力」からご紹介した内容は、そのまま日本にも向けられるべき「正論」であり、「厳然たる事実」です。ご紹介した「実際想定される有事に、限定的な機能しか発揮できない高価なアセットを中心とした装備体系を未だに追求」との指摘が、日本のF-35等にぴったり当てはまると思いますが・・・

蔡英文 徴兵5.jpg最近発表された「防衛3文書」が素晴らしい出来栄えでも、蔡英文政権の「ODC:Overall Defense Concept」と同様の運命をたどる可能性を否定できません。残念ですが・・・

2014年にCSBAが台湾に提言した「非対称な戦力構成の勧め」や、台湾と同様の問題を抱える自衛隊(特に航空自衛隊の戦闘機命派)に関する過去記事も併せてご覧ください

台湾軍の根深い問題と改革
「台湾が統合強化と権限分散の軍改革へ」→https://holylandtokyo.com/2021/05/26/1705/
「台湾軍の対中国体制に危機感」→https://holylandtokyo.com/2021/03/08/155/

CSBA提言の台湾新軍事戦略に学ぶ
まとめ→https://holylandtokyo.com/2020/11/08/381/
その1:総論→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27
その2:各論:海軍と空軍へ→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27-1
その3:各論:陸軍と新分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-12-27

10年前からチマチマ訴えてきたのですが・・・
「脅威の変化を語らせて下さい」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2012-10-08
「中国軍事脅威の本質を考えよう」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2012-12-30

くたばれ戦闘機命派
「織田邦男の戦闘機命論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-06
「F-3開発の動きと日本への提言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
「戦闘機の呪縛から脱せよ」→http://crusade.blog.so-net.ne.jp/2013-04-16
「大局を見誤るな:J-20初公開に思う」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-11-02


https://community.camp-fire.jp/projects/view/258997

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