27日、ロシア議会は新START条約の5年延長を承認。プーチン大統領はこれを「正しいステップだ」と歓迎の意を公式の場で表明。
ロシア政府は、数日後に延長手続きが完了すると。
トランプ政権時は「1年延長。加えて条約以外の核開発も含めて1年間凍結」案で戦っていたが、バイデン政権は「無条件」で延長を選択しました。
片手落ちの条約でも「ないよりまし・・・」との判断でしょうか・・・
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最新の追記情報
バイデン大統領は21日(日本時間22日)、2月5日に期限が切れるロシアとの新START条約について、5年間の延長を目指す意向を明らかに。
サキ大統領報道官は記者会見で、「条約で認められている通り、米国は新STARTの5年延長を求める意向だ」と発表。「ロシアとの関係が現在のように敵対的なときにこそ、この延長がより大きな意味を持つ」と表現
提案を受けたロシアのDmitry Peskov報道官は「われわれは条約の延長を歓迎するのみだ」とし、条約の延長をするかどうかの判断は「提案の詳細次第だ」と
→→→(まんぐーす注)トランプ政権時の昨年10月頃は、米側が「とりあえず1年延長、その間は(New START範囲外の核兵器も含め)現状変更しない」との条件を付けていたことを受けた発言と推測
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バイデン政権誕生の翌日にロシアに提案か
延長歓迎ムードも、条約外で中露が好き放題状況を忘るべからず
20日各種メディアが、核兵器管理の最後の枠組みである米露間の新START条約について、10年間の有効期限が切れる2月5日を前に、誕生直後のバイデン政権がロシア側に、現行条約の規定にある5年間延長の申し出を行ったと報じています
当初WP紙が最初に報じた内容を、Defense-Newsが独自ルートで匿名の政権関係者に確認したところ、バイデン大統領就任式翌日の1月21日午後に、バイデン大統領のJake Sullivan安全保障担当補佐官が在米Anatoly Antonovロシア大使に対し、5年間延長を提案したとのことです
この提案が真実であれば、NATOや米国同盟国から歓迎されるだろうと報じられており、例えばNATOのJens Stoltenberg事務総長は21日記者団に、「核弾頭について(条約が失効して)制限がなくなることは避けるべき。このままでは新START条約が失効してしまう」との危機感を示し、米国とロシア双方に、まず同条約を延長手続きを行い、その後に条約の枠組み拡大など発展的な改定を検討すべきと訴えているようです。
今後の公式な米国政府の発表等が待たれるところですが、ロシアが極超音速兵器や戦術核や中距離ミサイルを配備して好き放題な中、トランプ前政権が「とりあえず1年延長、その間は現状変更しない」案を出して昨年10月にはまとまりかけたのに、大統領選挙情勢等からプーチン大統領が「無条件でとりあえず1年延長」との「ちゃぶ台返し逆提案」を持ち出したドロドロの交渉経緯もありますので、少し復習しておきましょう
●新START条約は米露間で2011年2月5日に発効したもので、双方の戦略核弾頭上限を1550発とし、その運搬手段である戦略ミサイルや爆撃機配備数上限を700に制限する条約。有効期限は10年間で、最大5年の延長を可能とし、条約の履行検証は米露両国政府による相互査察により行うこととなっている。。
●核兵器管理の条約には新STARTとINF全廃条約が存在していたが、1987年12月8日に米露が署名し、相互に射程500kmから5500kmの地上発射弾道ミサイルの廃棄と保有禁止を約束するINF全廃条約は、ロシアが条約を履行していないとして、トランプ政権が2019年8月2日に破棄通告。
●INF全廃条約破棄を受け、新START条約が核兵器管理の唯一の枠組みとなったことから、多くの専門家が同条約の延長すべきと主張も、トランプ大統領は本条約を「オバマ時代の悪いディールだ」と呼び、新START条約の延長はせず、中国も含めた米中露の3カ国で核兵器管理の合意を追及すべきだと発言。
●一方ロシアは、新START条約の規定に沿って5年延長を提案していたが、トランプ政権提案の露中米3カ国取り決め追求については、米露と比較して少ない核兵器しか保有しない中国が、保有核兵器削減を求める可能性のある議論を拒んでいる現実を踏まえ、「非現実的だ」と突っぱねていた。
●条約消滅の危機が迫る中、米側は米露中での新条約案を一旦わきに置き、「とりあえず1年延長、その間は(New START範囲外の核兵器も含め)現状変更しない」案を持ち出し、2020年10月2日のジュネーブでの米露交渉ではロシア側も同意していたとトランプ政権のRobert O’Brien米大統領補佐官は主張
●しかし2020年10月16日、米側の「とりあえず1年延長、その間は現状変更しない」案に対し、プーチン大統領が「無条件でとりあえず1年延長」ならOKとちゃぶ台返し反応を示し、O’Brien米大統領補佐官が「話にならない(non-starter)」「大統領選の様子見か!?」と不信感をあらわに
●2020年11月20日、ロシア外務省が突然、米国提案の「とりあえず1年延長、その間は現状変更しない」案を受け入れると発表し、米国務省報道官が「歓迎する。すぐにも合意手続きを進める用意がある」と反応
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昨年11月20日に「とりあえず1年延長、その間は現状変更しない」案をロシア側が受け入れ、「すぐにも合意手続きを進める用意がある」と米国務省報道官が語ったとの報道があった以降、どのような動きで今年1月21日の報道に至っているのか把握していませんが、このような一筋縄ではいかない交渉案件だということです。
より大きな視点で新STARTの位置づけを考えてみると、中国が核弾頭搭載可能な中距離弾道ミサイルを配備し、ロシアが戦術核や核搭載可能な中距離ミサイルや極超音速兵器を実質好き放題配備する中、INFが失効して階層的な軍備管理枠組みが前提だった新STARTは米国にとって不完全な条約になっています。
不完全でも基礎なのだから、新STARTはそのままにしておくべきだという議論と、不安定な基礎の上に積み上げても仕方ないから、一度更地にして土台から作り直すべきだという意見があるべきですが、世界の雰囲気には、あわただしかったトランプ時代から少し落ち着きたい・・・だからとりあえず新START延長してくれ・・・との思いが強いようです
でも、米国の「とりあえず1年延長、その間は現状変更しない」案を巡り、「ちゃぶ台返し」で「無条件」提案を返してきたロシアの姿勢を忘れてはなりませんし、仮に5年間延長がまとまったとしても、「不完全」な状態に置かれるだけだということを肝に銘じておくべきでしょう
新START期限切れ関連
「ドタキャン後にまた受け入れ表明」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-10-17
「延長へ米露交渉始まる!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-18-1
「Esper新長官アジアへ中距離弾導入発言と新STARTの運命」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-08-04
「IISS:対中国軍備管理とミサイル導入は難しい」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-09
ロシアの兵器開発とINF条約関連経緯
「第3の超超音速兵器Zircon」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-01-21
「トランプが条約離脱発表」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20-1
「露は違反ミサイルを排除せよ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-06
「露を条約に戻すためには・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-20
「ハリス司令官がINF条約破棄要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-29
「露がINF破りミサイル欧州配備」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15