日本専門家RAND上級研究員がDefense-Newsに寄稿
3月24日トップ記事で読者アクセス1位記事
台湾有事の日本の課題を4つの視点で
3月24日付Defense-Newsが、RAND研究所の日本専門家による「ウクライナ侵略は日本への警鐘だ:Ukraine should provide Japan’s wake-up call」との寄稿を掲載し、「台湾有事に備える日本の課題」を4つの視点「自衛隊の規模・態勢」「軍事対処の法的問題」「不足する軍事能力」「海外からの補給支援体制」から指摘し、当日の読者アクセス1位記事となっています
寄稿者のJeffrey W. Hornung研究員は日本問題の専門家で、George Washington大学で「日本の湾岸戦争とイラク戦争時の意思決定過程」をテーマに博士号、SAISで日本政治で修士号、フルブライト奨学生として東京大学留学、笹川財団の研究員、国防省ハワイ研修センター助教授などを経験し、日本の新聞TVにも多数登場出演の方です
日本人の安全保障専門家でも、日本の台湾有事の際の課題は山のようにあって表現が難しいでしょうが、簡明な説明に挑戦されています。色々なご意見はありましょうが、ご紹介しておきます
自衛隊の態勢は十分か?
●日本は人口減少の最中にあり、自衛隊の戦力は人的に少なく年齢構成も若くない。またその訓練演習は現実的なシナリオに沿っているとはいえず、政策担当者は自衛隊が十分な戦闘準備態勢を整えるに必要な訓練演習の在り方を吟味する必要がある
●自衛隊には一応予備役のような仕組みはあるが、小規模で技量レベルは未知数だ。徴兵制が憲法上不可能である中、紛争ぼっ発時の人員不足を補う手段を考えておくべきである
軍事有事に対応する法的枠組み
●紛争発生時には迅速な政治決断・対応が求められるが、日本の現法制では、日本への直接攻撃がない限りは実質的に具体的な作戦行動がとれない形となっている
●例えば、敵対的行為開始以前に基地外の土地に陣地形成するためには地主の同意が必要だが、このような規制を柔軟に運用できるような枠組みを政治が準備し、対処に時間的余裕がない中国の台湾侵攻に備えることを可能にしておく必要がある
必要な軍事能力の整備
●中国は、大量の各種ミサイルや海軍や空軍部隊を台湾に投入する準備を進めてきているが、これら戦力は直ちに日本への脅威であり、日本はこれら中国戦力対処を優先した軍事能力整備をすべきである
●優先すべき能力には、例えば多量の防空及び対艦ミサイル、多連装ロケット調達等が考えられる。台湾に比べ、日本は中国から離れていることを利点とすれば、水上及び水中艦隊の整備や、戦闘機部隊維持も考えられる
●中国が緒戦で大量投入する弾道ミサイル対処能力に加え、中国の巡航ミサイルや航空戦力対処のため、移動可能IAMD(mobile integrated air and missile defense)にも注力する必要があろう。既存のPAC-3の他、THAAD、より機動性の高い米陸軍保有の「High Mobility Artillery Rocket System」や「Tactical Missile System」にも着目する必要がある
●東シナ海での争いを考えると、兵站補給面での体制が日本は脆弱である。自衛隊の補給拠点は日本本土に所在し、東シナ海や台湾から離れており、かつ脆弱である
●更に、日本本土から台湾や東シナ海周辺への海空輸送能力や、空中及び海上給油能力、兵器弾薬の備蓄所も増強が不可欠だ。日本の政策担当者は輸送能力や兵站不足を真摯に見つめなおすべきだ。
●おおすみ型輸送艦3隻とC-130やC-2輸送機の現能力で、PAC-3や対艦ミサイルが十分輸送可能か? 今の給油艦や空中給油機でハイエンド紛争を支えることが可能か? 中国による緒戦のミサイル攻撃を防ぐ、隠蔽や掩蔽などの努力が十分か? など謙虚に見つめなおすべきだ
海外からの支援枠組みがあるか
●ウクライナが何とか持ちこたえているのは海外からの軍事援助があるからだが、日本の限定的な国内軍事サプライヤーを考えると、有事の兵站補給は多くの問題に直面する
●台湾有事の際には米国も当事者であり、米国も日本に十分な支援が可能とは限らない。平時から日米間で必要な軍事物資の優先調達等について議論しておく必要がある
●ウクライナのケースでは、ウクライナはNATO加盟国ではないが、自国への影響や地理的な近さもありNATO諸国がウクライナを軍事物資支援しているが、日本とNATO諸国間には物理的な距離があり、アクセス可能な極東拠点が限定されることもあり、海外から迅速かつ継続的な支援を受けることは容易ではない
●日本は、米国の主要な同盟国と戦略的に緊密になるために大きな努力が必要になるが、同時にこれは米同盟国と同じ網に絡まれる(enmesh itself with these states)ことになる点を考慮すべきである。具体的には共同作戦計画の立案、日本の基地の共同使用、日本の基地への物資事前集積など検討が考えられる
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この寄稿は、「ウクライナ危機は、戦争がいつでも起こりうることを示した。日本は、中国の脅威に何時でも対応できるよう、確実に準備しておく必要がある」との一文で結ばれています
Hornung研究員は、日米両国の関係者とのつながりが深く、両国関係者の日ごろの地道な努力を知るからこそ、日本の抱える有事の問題点を「オブラートに包むように」指摘しています。でも指摘は極めて的確だと思います
日本の実態のひどさを、その知識を駆使して強烈に米軍事メディアに書きなぐることも可能だったでしょうが、そこは控えて米国関係者による日本への圧力をやんわりと期待しての寄稿かと邪推いたしました
RANDのJeffrey W. Hornung研究員紹介ページ
→https://www.rand.org/about/people/h/hornung_jeffrey_w.html
日米軍事関係の記事
「米空軍輸送機で陸自空挺団540名が降下訓練」https://holylandtokyo.com/2022/02/15/2720/
「米軍態勢見直し完了発表もほぼ非公開」→https://holylandtokyo.com/2021/12/01/2485/
「米会計検査院による日本駐留評価」→https://holylandtokyo.com/2021/03/23/167/
「在日海兵隊が対中国「飛び石」機動演習」→https://holylandtokyo.com/2020/10/26/441/
「海兵隊司令官が在日米海兵隊削減を示唆」→https://holylandtokyo.com/2020/09/28/488/
「日本など同盟国に国防費GDP2%以上を要求」→https://holylandtokyo.com/2020/09/21/484/
「日米が協力すべき軍事技術分野4つ」→https://holylandtokyo.com/2020/04/30/741/