アジア最古の米比同盟の基礎をなすVFA
米軍の比での軍事作戦や訓練を可能にする法枠組み
比によるワクチン確保のための「駄々っ子外交」か
7月30日、訪比中のオースチン国防長官と会談後の記者会見でフィリピン国防相が、昨年2月からフィリピン大統領が破棄の意向を示していた「訪問米軍に関する地位協定(VFA:Visiting Forces Agreement)」について、比大統領が同協定継続の意向を示したと明らかにしました
1998年に結ばれた「訪問米軍に関する地位協定(VFA)」は、アジア最古で70年の歴史を持つ米比同盟の基礎をなす重要な協定で、米軍がフィリピン国内で合同演習や軍事作戦を展開することを可能にする法的枠組みを提供する極めて重要な合意です
昨年2月に比のドゥテルテ大統領は、世界から人道無視との非難を受けた麻薬撲滅戦争を指揮する側近のビザ(査証)を米国が取り消したことに激怒し、VFAを破棄すると宣言しましたが、宣言後180日で消滅する同協定破棄の米国への最終通知の延期を続け、米国との交渉カードのように使ってきました
7月30日付Military.com記事によれば
●30日にオースチン国防長官との会談後にLorenzana比国防相は記者会見で、「比大統領は米国とのVFAを破棄しないことを決定した」、「破棄通知レターは出さない。元通りに戻ることにした」と表明した
●オースチン長官はこれに対し、「両国は、気候変動やパンデミックなど様々な課題に直面しており、インド太平洋地域の安全、安定、繁栄に強固な米比同盟は不可欠である。その点でVFAの完全復活は共に目的を達するために大きな力となるだろう」と歓迎の意を述べた
●米国とフィリピンは毎年300にも及ぶ大小さまざまな軍事訓練や活動を行ってきており、昨年はコロナ感染で訓練等が大幅に縮小されていたが、VFA破棄表明後も比からの最終通知がない間に、両軍間でBalikatan演習などの準備協議が行われていた
●また匿名の比軍高官によれば、米国はVFA騒動の間にも、フィリピンに継続して南シナ海人工島や同海域における中国軍活動に関する画像情報などISR情報を提供し続けており、同情報のお陰で比が中国に対する警戒活動や外交上の抗議を行うことが可能になっている現実がある
●Lorenzana比国防相は会見でドゥテルテ大統領の「心変わり」の理由は承知していないと述べたが、昨年12月にコロナ感染爆発に苦悩する同大統領が、ワクチン2000万回分を米国が提供しなければVFAを破棄すると発言し、最近320万回分のJohnson & Johnsonワクチン提供を受けていることと結び付けて変化の理由を説明する専門家もいる
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初のASEAN3か国訪問で、シンガポールとベトナムに続いてフィリピンを訪問したオースチン長官は、29日夜にドゥテルテ大統領を表敬し、その翌日のLorenzana比国防相との会談後にVFA維持が表明されたわけですが、「米国がフィリピンを見捨てることはない」と見切ったフィリピンによる「駄々っ子外交」だと識者は見ています
米国も淡々と対応し、「またか・・・」的な反応でお決まりのステップを踏み、落ち着くところに落ち着くのがパターンのようです。
太平洋戦争時に、フィリピンから出撃した日本の特攻隊が連合軍を撃退してフィリピン独立を助けてくれた恩義を感じ、現地に自費で特攻隊慰霊碑を建て、毎年地元首長として慰霊行事を行ってきたドゥテルテ大統領ファンのまんぐーすですが、対米国「駄々っ子外交」には冷や冷やしてしまうので、お手柔らかにお願いしたいと思います
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