海兵隊のトマーホークや改良SM-6予算2021年度予算
今後計画する無人発射装備ROGUEへの資金を懸念
10日、Phil Davidson太平洋軍司令官が下院軍事委員会で、2021年度予算(今年9月末までをカバー)で米海兵隊が求めていたトマホーク対艦巡航ミサイル50発や射程延伸型SM-6対艦対地ミサイル(計約140億円)が米議会で認められなかったことに関し、中国軍事脅威への対処能力を削ぎ、対中国抑止力を低下させると不満を述べました
同週に同司令官は、米議会での様々な証言機会に、「中国による猛烈な軍事力投資により、このままでは2026年までに米国は優位性を失う(China’s military investments could leave the U.S. outmatched in the region by 2026)」、9日には上院軍事委員会で「6年以内に台湾を併合する」と具体的時期まで出して危機感を訴えていたところです
海兵隊は、トマホークやSM-6の発射機を、現有の車両Joint Light Tactical Vehicleの荷台に搭載し、同車両を無人化して「ROGUE:remotely operated ground unit expeditionary」システムとして装備し、第一列島線上や西太平洋の島々に柔軟に移動させながら使用して、中国海軍艦艇などを攻撃する残存性の高いアセットとして活用することを構想しており、米海空軍戦力の脆弱性を補完するものとして存在感発揮を狙っています。
米陸軍も似たような構想を持っており、加えて射程1000nm(1800㎞以上)の砲の開発も構想するなど、地上部隊の存在感アピールを続けていますが、これまで遠方攻撃を担ってきた米空軍幹部は、「高価な遠方攻撃だけでは破産する」「予算厳しき折、きちんと議論すべき」と批判的に各所でコメントしているところです
12日付Military.com記事によれば
●10日Davidson司令官は、海兵隊が要求してきた地上発射の長射程&中射程対艦ミサイルの予算約140億円が2021年度予算で認められなかった件について、「このような予算カットが続くことは、中国脅威対処に今求められている能力整備への希望を削ぐことになる」、「そして対中国の抑止力を減ずることになる」と下院軍事委員会で訴えた
●また中国の急速な軍事増強について同司令官は、「この状況を攻撃的な態勢整備だと言わずして、中国が現在行っている軍事能力増強を説明することはできない」、「中国は我々に対し、ルールに基づく国際秩序を、中国的な考え方に置き換えると告げているようなものであり、今世紀半ばまでに彼らが成し遂げると宣言していることでもある」と訴えた
●同司令官は、米海軍艦艇や米空軍航空機がより自由に移動するために欠かせない能力だと、地上配備長射程兵器の重要性を議員たちに訴え、「敵が、我が攻撃兵器の場所を特定することを困難にすること、これがまさに抑止につながり、敵にコストを負担させることになる」と説明した
●海兵隊の本構想を強力に推進しているDavid Berger海兵隊司令官は、海兵隊の能力整備計画文書の中で、機動力ある対艦攻撃能力獲得について、「全ドメイン関与、抑止、海上制圧、戦力投射のすべての面に貢献するもの」と表現し、更にロケット砲連隊整備がこれに続くと説明している
●また「長射程精密誘導の機動力持つ対艦ミサイル兵器が、海軍作戦の成功と抑止への基盤能力だ」とも述べている
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対中国軍事作戦を大統領直属で指揮する太平洋軍司令官としては、作戦基盤が少なく脆弱な海空軍戦力依存では心もとなく、機動力を伴った地上火力部隊に期待を持つのは致し方ないことでしょう。
しかし米議会からすれば、4軍内で「内輪揉め」している状態で、気前よく予算を認めるわけにもいかず、特に民主党が優勢の下院では・・・むなしくDavidson司令官の声が響いたのかもしれません
個人的には、米空軍がF-35への投資を絞り込み、米海軍が空母や大型艦艇への投資を見直すことを含む対中国の新たな態勢構想や作戦構想を説明することで、米議会を含むコンセンサスを得る方向しかないと思うのですが・・・
「米軍人トップ:現実を見よ、予算増加は見込めない!」
→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-12-03
Davidson司令官の動向
「太平洋軍司令官が追加要望事項レポート」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2021-03-03
遠方攻撃を巡り米軍内に不協和音
「米陸軍は2023年から遠方攻撃兵器で変わる」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-09-09
「遠方攻撃をめぐり米空軍が陸海海兵隊を批判」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-22
「米空軍トップも批判・誰の任務か?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-04-02
「海兵隊は2つの長射程対艦ミサイルを柱に」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-06
米陸軍の目指す長距離攻撃能力
「射程1000nmの砲開発」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-26-1
「射程1000nm砲の第一関門」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-15