米空軍は大丈夫なのか?:空軍協会機関誌掲載の投稿に唖然

「研究開発投資を削減し、飛行時間確保に資金をシフトせよ」等の投稿掲載が物議
戦闘機と爆撃機の有事出撃可能回数を中国と比較し改善訴え
飛行時間確保と作戦機の稼働率と新型機種導入加速のみを要求する姿勢にため息
「脅威の変化」を前に「過去の栄光」の姿を追い求める哀れさ

12月4日付米空軍協会webが退役米空軍大佐による投稿「米空軍が次の戦争に備えてなすべきこと」を掲載し、冷戦末期の作戦機数や出撃可能回数を頂点として、その後は米空軍の航空作戦能力が低下し続け、今や重大脅威を抑止または撃退するに必要な、決定的な航空戦力優位性を確保できていないとの訴えや、

現在の焦点である中国軍との比較においても、訓練飛行時間で劣り、また仮に中国正面への戦力機動展開が順調に行われても、作戦機の出撃可能数は中国軍の足元にも及ばないと現状を分析し、国防省高官と米議会は研究開発費を空軍作戦機の即応体制向上にシフトするなど、大幅な米空軍への予算増額を直ちに実施すべきとする主張を紹介しています

投稿の要旨をピックアップすると
●現在の米空軍操縦者の飛行訓練時間は過去の水準を大幅に下回り、既に規模が縮小して旧式装備比率が増えている部隊では、即応性や航空作戦能力を維持できないほどに予算が削減されて、部隊の空洞化を更に加速する方向に向かっている。

●冷戦末期の1987年当時、米国と同盟国は任務可能な戦闘機を1423機欧州に配備し、ソ連侵攻時は1日に7100回出撃が可能だった。また必要に応じ、30日以内に約1300 機弱が米本土から欧州に展開可能な態勢にあり、この戦力を含めると1日に 11661回の出撃が可能だった
●当時ソ連は戦闘機と爆撃機併せて 5000機弱を保有していたが、機体性能は劣り、飛行訓練量もNATOの半分しかなく、米国側は規模の差を質で十分カバー可能と分析されていた

●しかし、今の中国脅威は遥かに大きい。「第2列島線上の拠点から出撃する米空軍と同盟国アセット」は1日 1050回しか出撃できないが、中国空軍は戦闘機と爆挙機を合わせて4倍以上の 4600回出撃可能だ。また中国軍パイロットは米軍より飛行訓練時間が長く、米空軍の飛行回数は 1980年代のソ連軍操縦者よりも少ない
●また、米本土から対中国のため増援展開する部隊は、機動展開に関する経験と能力が不足しており、湾岸戦争を学んだ中国軍は、米側の機動展開をあらゆる手段で妨害するだろう。ただ、仮に中国軍の機動展開妨害の効果が無かったとしても、米側が 1日に出できる戦闘機と爆撃機の数は、中国軍の半分にも満たないであろう

●このような厳しい現実を直視するとき、米側による台湾防衛の可否は、「中国軍の経験不足に期待するしかない状況」にある。現状をくつがえし、かつての米空軍の即応体制を再構築するには、少なくとも10年必要となろう。そしてそのためには、研究開発投資を短期、中期、長期の即応態勢強化にシフトする必要がある。量と能力と態勢の再構築は同時にかつ直ちに開始する必要がある
●新しい空軍参謀総長が上院公聴会で訴えたように、パイロットには週3回の飛行訓練が不可で、第4世代機から5世代機への移行には非常に重要だし、B-21、CCAドローン、F-47、F-35、F-15EX、E-7、EA-37B電子攻撃機など、新型機を取得することも、米空軍戦闘部隊の再建に極めて重要

●この提言には多額の費用が必要で、およそ年間5兆8000億円が求められる。研究開発費から流用可能なのは1兆2千億円程度だから、残りは米議会の決断に期待しなければならない。
●その資金が捻出できなければ、アジア太平洋地域は中国の手に渡るだろう。米国民の選択肢はシンプルで、米空軍を一流に復活させる投資を決断するか、将来の戦いで敗北のリスクを負うかである
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米空軍宇宙軍協会は米空軍宇宙軍を応援する組織で、現役空軍兵士が声を上げて訴えることが難しい課題や要望事項、また空軍や宇宙軍を取り巻く環境の変化を広く世界に周知することを通じ、米空車や宇宙軍への支援を盛り上げることを主なる活動目的にしている団体です。

その機関誌webサイトは、週に30本程度の記事を配信して米空軍や宇宙軍関連の出来事や動きを報じていますが、過去の傾向からすると、週に1~2本程度取り上げられる投稿記事は、様々な環境変化の中で、米空軍や宇宙軍が真に訴えたいことを「代弁」する役割を担っています。

今回ご紹介した「投稿記事」は、新しい空軍参謀総長Wisbach大将が前職時から継続して訴えていることで、その主張を退役大佐が直接的表現でストレートに「代弁」したものと「まんぐーす」は理解しましたが、極端な「過去の栄光」追求振りに、また「時代錯誤」振りに困惑するばかりです。

米空軍と対峙する者は、「冷戦末期」や「湾岸戦争時」の米空軍の圧倒的航空戦力優位を目の当たりにし、米空軍と正面から対決を挑んでは勝機が無いことを悟り(又は財政的に破綻すると悟り)、電子戦やサイバー戦や宇宙戦、弾道&巡航ミサイル攻撃、テロやゲリラ的な不正規戦、メディアやSNS活用の認知戦、そして最近のドローン戦に活路を見出そうとしています

そんな中、「脅威の変化」や「敵状の変化」に一切触れず、過去に米空軍が謳歌した「通常戦カ正面対決での優位性確保再興」を訴え、しかも、「脅威の変化」や「敵状の変化」に対応するための「研究開発投資」を、「過去の栄光復活のための投資」にシフトせよとは、何を考えているのでしょうか?

中国側の圧倒的な地理的優位や過去20年以上にわたる中国軍の戦力増強状況から、「第2列島線上の拠点から出撃」せざるを得ない現状や、「中国軍の経験不足に期待するしかない状況」をしっかり認識しているなら、戦闘機や爆挙機パイロットの飛行時間増加が最優先事項ではないはずです。Kendall前空軍長官やAllvin 前参謀総長時代の「低高度制空」の重要性や「脅威の変化」に敏感で冷徹な議論が懐かし過ぎます。

トランプ政権誕生による「負の側面」が、突然の「F-47 導入決定」や「Golden Dome着手」など、米軍正面に突出して現出している事にめまいがいたしますが、高市政権が防衛投資の増額に動きだし、防衛強化に(東北大震災の復興特別税と差し替える形での)所得増税を行う動きの中でも、絶対に戦闘機などへの誤った投資増額に向かわないよう、目を光らせてまいりたいと思う次第です

Allvin前空軍参謀総長らの思考
「70年間空爆での死者は無かったが」→https://holylandtokyo.com/2024/08/20/6181/
「航空優勢再考に言及」→https://holylandtokyo.com/2024/06/07/5938/

偏った経歴のWilsbach大将関連
「飛ぶことが命:新空軍制服トップ」→https://holylandtokyo.com/2025/11/21/13248/
「経歴紹介』→https://holylandtokyo.com/2025/10/03/12931/
「戦闘機のボス ACC 司令官へ」→https://holylandtokyo.com/2023/05/11/4614/
「稼働率に代わる新指標」→https://holylandtokyo.com/2025/06/04/11583/
「ACE 構想の生みの親」→https://holylandtokyo.com/2022/06/24/3374/

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