中国空母「福建」のEMALS と操縦者育成の課題

9月22日に3機種の発着艦に成功と中国がアビール
米空軍が苦労するEMALS運用成熟にはまだ時間必要か
更に新しい空母用パイロット養成方針にも注目

10月3日付防衛研究所は、「NIDS コメンタリー」枠組みで航空自衛隊の戦闘機パイロットである相田守輝2等空佐による『中国空母「福建:Fujian」と新艦載機の発着艦:発展経緯と残された課題とは何か?』との論考を掲載し、9月22日に中国が2機種の戦闘機(J-35 ステルス戦闘機とJ-15T戦闘機)とKJ-600早期警戒機(米海軍E-2Dそっくり)による中国空母3番艦「福建」での発着艦成功を発表した機会をとらえ、

米海軍が新型空母フォード級で電磁カタバルト(EMALS:Electromagnetic Aircraft Launch System)初導入を試みている現在進行形の運用法確立の苦難を参考にしつつ、従来のスキージャンプ方式の空母艦載機運用から空母3番艦でカタパルト運用に挑戦している中国海軍の現在位置と課題を、限られた資料と推測を交えて紹介していますので取り上げます

「福建」での発着艦をアピールし、9月3日の軍事パレードにも登場の3機種
●J-35 ステルス戦闘機
・「独自開発の新世代艦載戦闘機であり、近海防衛から遠海防衛へと役割を拡大する上で画期的な航空機で、空対空のみならず海上及び陸上目標を含む様々な攻撃任務も遂行可能」と中国がアビール。
・ステルス性は未確認も、米海軍のF-35に続き、世界で2番目のステルス艦載戦闘機の可能性


●改良型J-15T 戦闘機
・2012 年に空母1番艦「遼寧」と共に導入されたが、事故が多発した国産艦載戦闘機J-15を改良したJ15の「T型」。EMALS 用に首部分を強化し、電子装備品も近代化された模様
・J-35ステルス戦闘機とともに「ハイロー・ミックス」で戦力を形成し、空母の遠洋戦闘能力向上を目指すもの

●KJ-600 早期普戒管制機
・従来は艦載ヘリが担ってきた早期戒任務を固定機で実現することで、高高度から遠方までの警戒監視を目指す機体であるが、米海軍のE-2D「ホークアイ」早期警戒機に酷似
・米海軍E-2Dより性能面では劣ると推定も、中国海軍の空母運用の大きな進歩の一側面

中国空母運用の技術的・人的課題
●米海軍も苦労のEMALSと着陸拘束装置(アレスティングフック)運用
・EMALS の特徴は、電動式であるため艦載機の打ち出しパワーを柔軟に調整可能で、様々な機体の仕様に対応可能な点であるが、様々な搭載形態や機体タイプに対応する適切な射出パワーの把握には、膨大な実証データの収集・苦積が必要で、米海軍は現在も四苦八苦している状態

・同様に着陸拘束装置(アレスティングフック)運用に関しても、様々な機体形態や着艦時の残燃料に応じたアレスティング制動装置の設定を調整する必要があり、適切な設定値把握に、これまた膨大な実証データを収集・知蓄積する必要がある
・空母「福建」は中国初のカタパルト搭載空母であり、しかも初のカタパルトが高度な制御技術が必要な電磁式の EMALSであることから、「福建」の本格的実戦投入には相当の時間が必要と考えられる。

●空母艦載パイロットの養成
・中国は空母1番艦「遼寧」導入時、艦載機バイロットを確保するため、まず海軍と空車の両方から最優秀層を厳選し、5機種以上の操縦経験、かつ総飛行時間は 1,000 時間以上の中堅パイロット以上を集めて「機種転換方式」で部隊建設を開始し、「教官なし、教材なし、経験なし」の状態から、多くの犠牲者を出しながら今日に至っている。

・空母が3隻体制となった今後は、「中堅を他部隊から引き抜き」の「機種転換方式」では部隊を支えられないため、20歳くらいの若手パイロット候補生を早い段階から空母艦載機要員として指定し、初等の練習機しか経験のない飛行時間 100時間未満の「卵操縦者」から艦載機パイロットを養成する方針転換が決定された模様で、今後も長期的な飛行訓練と経験の積み重ねが不可と推測される

相田守輝2佐のまとめ
●空母「福建」でのJ-35、J-15T、KJ-600 発着艦成功は、中国が空母航空戦力運用で新たな段階に到達したことを示すもの
●EMALS カタパルト運用は、より兵器やセンサー搭載量の多い航空機の柔軟な運用を可能とするもので、運用に成功すれば、中国海車にとって海上戦闘能力を大きく向上するシステム導入となる

●ただし、現時点では「実戦配備の完成」ではなく「課題対処のスタートラインに立った」状態で、EMALS やアレステイングフックの信頼性向上、膨大な実証データの菩積、さらに艦載機バイロットの量的拡充と質的成熟など、克服すべき課題は多い
●空母「福建」とその艦載機が真の即応態勢を備えるには、数年単位の実証を経る必要があるだろう
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空母「福建Fujian」での3機種運用映像(約9分)

空母1番艦「遼寧」にJ-15戦闘機が試験着艦し、中国史上初めての空母着艦成功と騒がれたのが2012年11月で、それから13年が経ちました。

空母「福建」とEMALS等の新装備、それに新しい艦載機が実戦に供しうるレベルに達するには「数年単位の実証」が必要との分析ですが、「中国経済の崩壊に伴う中国の崩壊」が、中国空母の運用勢確立にどのような影響を与えていくのか、一つの指標として見ていきたいと思います

EMALS 搭載新型フォード級空母で苦労する米海軍
「6年遅れで不具合修復」→https://holylandtokyo.com/2022/01/05/2571/
「計画責任者更迭」→https://holylandtokyo.com/2020/07/09/568/
「お披露目で EMALS 故障」→https://holylandtokyo.com/2020/06/19/627/
「3年遅れで米海軍へ」→https://holylandtokyo.com/2017/06/05/7265/
「トランプ:EMALSはだめ」→https://holylandtokyo.com/2017/05/22/7313/
「フォード級空母を学ぶ」→https://holylandtokyo.com2013/07/27/8762/
「EMALSとは」→https://holylandtokyo.com/2010/12/25/9742/

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