初飛行から70年を記念し、機体能力を世界にアピール
単一任務での連続飛行距離と滞空時間記録を樹立
14時間9800㎞の飛行で米本土48州全てを飛行
同機で殉職したパイロットの家上空も慰霊飛行
U-2は、1950年代初頭、ソ連の軍事力、特にロケット技術の写真を撮影可能な、つまりソ連上空をソ連の防空ミサイルが到達不能な高高度で飛行可能な航空機を求めていたCIAの要求に応じてロッキードが開発したもので、1955年「7月31日」に極秘裏に初飛行を行った機種です。
その後、U-2は1980年代に大規模改修が計画され、結局ロッキード社が機体を「再製造」し、機体は4割大型化され、ISR任務に応じて交換可能なモジュール式偵察パレットを搭載可能となりました。また新型GE F118エンジンの搭載によって、搭載重量は以前の最大3倍に増加しました。
後の1990年代と2010年代にもU-2は大幅改修を行い、その多くは非公開ですが、より高度なセンサーが追加され、より迅速かつ容易に収集情報処理可能なデータ入手が可能となった模様です
冷戦期に活躍したU-2を退役させ、RQ-4無人高高度偵察機等で代替する案が何度も米空軍内で持ち上がりましたが、U-2のみが使用可能な「超高解像度Wet-Filmカメラ:Optical Bar Camera」が搭載できたことや、RQ-4は任務変更に再プログラムが必要なところ、有人機U-2は柔軟に対応可能なこと等から、退役が先延ばしになっていきました。
ただデジタルカメラの発展により同Optical Barカメラも2022年には引退し、また米空軍の偵察システム全体が有人機から宇宙配備アセットと無人システムへ移行を目指していること、敵防空網の射程拡大、そして部品枯渇等に伴う運用コスト増と稼働率の低下(2024年度で約6割)から、現在31機が現役(単座27機、教育用複座4機)のU-2自体も、2026年に退役することが決定されています。
2025年7月31日の連続飛行距離と滞空時間記録の樹立飛行は
●複座型TU-2Sで実施され、その飛行プランは当日の操縦者が11年前から温めていたもの。加州Beale空軍基地を離陸後、米本土の48州全ての上空を飛行するもので、U-2で殉職した搭乗員の自宅上空の慰霊飛行も行なわれた
●U-2は戦闘機の約2倍の高高度約7万フィート(約21㎞)飛行するため、パイロットは与圧服着用で飛行して飛行中の給水や食事は特別なチューブを使用してのみ可能で、操縦席も非常に狭いため、従来の連続飛行は最長時間11時間であった。空軍は今回の飛行を「パイロットの生理的限界」を見極めるものと発表している
●また7月31日の飛行では、U-2部隊に新規導入された「mission planning software」の試験も行われ、「導入後、これほどの長期間飛行で、かつ複雑な考慮を要する任務に使用されたことがなかったことから、新ソフトの応用可能性を飛躍的に拡大させた」とも空軍は発表している。
●複座型TU-2Sに搭乗した2名は、空軍でU-2操縦などに27年間従事して退官後、NASAの開発試験パイロットを経験し、現在はシビリアンとしてU-2操縦教官も務める記念フライト立案者のCorey Bartholomew氏と、コールサイン「Jethro」のみが公開されている空軍中佐パイロットによって行われた
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U-2の70周年記念フライト解説YouTube投稿(5分弱)
U-2偵察機は、その目的のための独特な機体形状で、機首が長く、狭い操縦席で操縦者の動きが制限される操縦が最も難しい機体の一つで、同時に、滑走路から機体がどれだけ離陸しているかを確認するのが困難との信じがたい機体です。そのため着陸時には、別のU-2パイロットが滑走路を自動車に乗って並走し、機長に地面と機体との距離を無線で知らせながら、着陸をサポートする方式で現在も運用が続いています
またU-2は、1956年から1960年にかけてソ連領土上空に侵入する大胆な偵察飛行を敢行していましたが、1960年5月にソ連ウラル地方上空で撃墜され、米側はGary Powers操縦者死亡と判断したところ、ソ連が生存捕獲を発表して、首脳会談でフルシチョフが米側を「激詰め」したりで大きな話題となりました。後にGary Powers氏は両国の捕虜交換で帰国しています。
更に1960~70年代にかけては、中国上空で5機が撃墜され、いずれも台湾人が操縦していたことが判明していますが、CIAが行っていた極秘任務で、詳細は今も秘密のままとなっています。
別名「Dragon Lady」との、少し近寄りがたい雰囲気の秘密のベールに包まれたU-2偵察機で、知られざる「歴史の証人」でもあるU-2の、最後を飾るであろう記念ミッションでした。
より詳しい米メディア記事
→https://www.twz.com/air/inside-the-u-2s-record-setting-70th-anniversary-mission-with-one-of-its-most-experienced-pilots
U-2関連の記事
「AIがセンサー操作のU-2初飛行」→https://holylandtokyo.com/2020/12/18/346/
「装備改革を先導するU-2」→https://holylandtokyo.com/2017/12/13/7109/
「U-2は引退せず:RQ-4と共存へ」→https://holylandtokyo.com/2017/05/30/7321/
「ACC司令官:RQ-4よりU-2が良かった」→https://holylandtokyo.com/2014/10/03/8263/
「引退できない・・・」→https://holylandtokyo.com/2010/06/23/9935/

