ウ軍ドローン奇襲の衝撃:米空軍は基地を守れるか

6月11日国防長官が議会で米軍体制の見直し発言も
厳しい現実と根本的に難しい対策の現状を

6月1日にウクライナ軍がロシア各地の爆撃機等基地に行った無人機による奇襲攻撃とその破壊力は米国防省関係者や米議会にも衝撃を与えており、6月11日に上院軍事委員会で証言したヘグゼス国防長官とDan Caine新統合参謀本部議長も、米軍に対して基地防衛体制の現状と国内外基地に迅速導入可能なドローン対処技術のレビューを行うよう指示したと証言しています

本件に関し6月15日付米空軍協会web記事が、過去1年間に各種研究機関が「米軍の基地防空体制は不十分」と指摘した多数の研究レポートの指摘を紹介しつつ、中国が過去10数年で西太平洋地域の全ての米軍基地等を攻撃可能なミサイル配備数を20倍以上に増強した中で、米軍が戦闘機や爆撃機や長距離砲や戦闘車両等の主要装備ばかりに優先投資し、基地防空や施設防護や被害復旧等への投資が遅れている様子を紹介しているので取り上げます。

根本には、過去20年以上に渡り米軍が取り組んだ対テロ作戦が、「敵から攻撃を受けない聖域からの作戦実施が可能」な状態下で行われ、米軍の各レベル指揮官の頭に「敵からの攻撃」に対する意識が欠如していることや、10万円から1000万円単位の安価な無人機やミサイル攻撃で、1機数十から100億円以上の戦闘機や攻撃機が使用不能になり、1発数億円する迎撃兵器で安価な敵兵器を迎撃せざるを得ない「破綻した構図」があるのですが、とりあえずは記事を「つまみ食い」紹介します

6月15日付米空軍協会web記事によれば
●昨夏のミッチェル航空宇宙研究所論文、1月7日のハドソン研究所レポート、そして最近のRAND報告書は、いずれも特に太平洋地域において、米空軍基地の防衛はミサイルや無人機防御が不十分だとそろって警告している
●そして米空軍に、独自の対ミサイルや対ドローン防衛装備、滑走路の迅速な修理体制、耐爆風航空機シェルターのほか、作戦機の離陸を支える滑走路復旧部隊の増強など受動的な対策にも多額の投資を行うべきと提言している

●米空軍内部でも、退任したKendall前空軍長官は「このままではF-22、F-35、F-47は離陸できない」との危機意識の元、米空軍の分散機動運用を柱とするACE構想実現に不可欠な米空軍基地防衛予算確保のため、米陸軍のPAC-3やTHAAD数には限界があり今後の急速な増強も期待できないとして、次期制空機F-47を予算枠から除外して2026年度予算案を作成していたと退任直後に語っており、危機的状況は一部では認識されていた

中国の急速な各種ミサイル増強
●背景には、ロシアはウクライナで大量の弾道&巡航ミサイルを消費し、弾薬確保に長期間要する見込みながら、中国はグアム島までの範囲を(大陸から2000マイル以内)を攻撃可能な射程2000マイルや3500マイル級の弾道ミサイル数を、過去10数年で20倍以上増強(例DF-21級は20発から500発へ)しており、西太平洋の米軍根拠基地全てを攻撃可能な状態にある。
(RANDレポートでは、2012年以降、ミサイルの保有数は発射装置で5倍以上、ミサイルの総数で4倍近く増加)
●また、米空軍の分散運用は敵の作戦を複雑にするものの、中国の衛星監視網は西太平洋地域をカバーしており、機動展開先も「聖域」ではない

米陸軍と空軍の防空任務分担ゴタゴタ
●1940年代の陸海空軍の任務分担取り決めを基に、同取り決め覚書を持ち出して米陸軍の防空への取り組み不足を指摘し、「陸軍はまず、陸軍部隊の地上防空を優先してきた」、「陸軍は長距離攻撃能力より防空兵器に投資せよと」と批判する米空軍関係者もいるが、米陸軍幹部は陸軍部隊でも防空カバーがない部隊が多数なる中でも、グアム島防空を始め陸軍はギャップ保管のため防空に資源を投入していると反発し、何らかの合意に向かう兆しはない

費用対効果の悪い防空兵器
●1発の価格がPAC-3で5億円強、THAADミサイルは12億円強と高価で、1発や1機が10万円から1000万円単位の敵の安価な無人機やミサイル攻撃対処には非効率だとの意見の中、米空軍は空対空ミサイルAIM-9XやAIM-120を活用したC-130輸送機で展開可能なNASAMSシステムを検討すべきとの提言もある。
●なお陸軍は、IBCS(統合防空ミサイル防衛システム:Integrated Battle Command System)で、各種センサー情報と射撃装置を連動する運用を推進していると主張している

●理想的には、レーザー兵器やマイクロ波兵器、機動性が高くレーダーと連動した30mmから155mm弾丸使用の機関砲、更には発射後に目標を追随する機動弾(maneuvering projectiles)に期待する報告もあるが、長年の研究開発を経ても実現には至っていない

航空機シェルターや滑走路復旧能力強化
●米空軍は敵攻撃に強いインフラ強化予算を増やし、2024年年度予算では2000億円を確保しているが、RANDが指摘するように、米議会の関心の高まりも利用し、更なる増額を図るべき。過去20年間で中国は数百の航空機用強化シェルターを整備したが、米国は数か所でしか整備していない

●設備十分なシェルターが約6億円で建設可能である。ミサイル防衛用に発射される命中確率が100%ではないPAC-3が1発6億円近く、1目標に2発発射されることが一般的な運用から考えると、バランス良い投資配分を再検討すべきではないか。
●また、緊急滑走路修理チームが必要とする緊急滑走路修理キットと運用要員の人件費は約9億円と見積もられており、これら分野への投資の在り方を、航空機への投資と絡めて総合的に判断する時期に来ているのではないか
////////////////////////////////////////////

「前置き」で述べたように、長期間の対テロ任務の中で米軍の各レベル指揮官の身体から「敵からの攻撃」に対する意識が失われたことや、10万円から1000万円単位の安価な無人機やミサイル攻撃で、1機数十から100億円以上の戦闘機や攻撃機が使用不能になる脅威の劇的変化に追随できていない戦闘機命派の存在や、1発数億円する迎撃兵器で安価な敵兵器を迎撃せざるを得ない「破綻した構図」と知りつつ方向転換できない「これまた戦闘機命派」の大罪が背景にあるのですが・・・

もちろん、米空軍をしてこの状態なら、我が国の空軍は更に強い危機感を持っていると信じたいのですが・・・

ウ軍の露爆撃機等への奇襲攻撃
「米空軍応援団があたふた」→https://holylandtokyo.com/2025/06/06/11771/

Stimson Center による当然の帰結レポート
「日本やグアムの滑走路には期待できず」→https://holylandtokyo.com/2025/01/06/10547/

米空軍関係者の本音は、
「幹部の発言:嘉手納には期待なし」→https://holylandtokyo.com/2024/05/22/5868/
「嘉手納F-15撤退を軍事合理性で」→https://holylandtokyo.com/2022/11/09/3904/
「F-35調達数削減の予兆」→https://holylandtokyo.com/2023/07/18/4823/
「新空軍2トップはF-35削減派」→https://holylandtokyo.com/2023/05/19/4648/

記事で言及のRANDレポート
https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA3142-1.html

世界の安保・軍事情報を伝えたい ブログ「東京の郊外より」支援の会
米国を中心とした世界の軍事メディアが報じている、世界の標準的な安全保障情報や軍事情報をご紹介するブログ「東京の郊外より・・・」を支援するファンクラブです。ご支援お願いいたします。
ブログサポーターご紹介ページ
お支援下さっている皆様、ありがとうございます!そのお気持ちで元気100倍です!!!●赤ちょうちんサポーターの皆様(3000円/月)●ランチサポーターの皆様(1000円/月)mecha_mecha様kenj0126様●カフェサポーターの皆様(...
タイトルとURLをコピーしました