過ぎし栄光の亡霊「空中戦競技会 William Tell」再び

2023年に19年ぶり復活のドッグファイト中心の戦闘機部隊競技会
ベトナム戦争終了後、空中戦での米空軍機による撃墜は1999年コソボでの1例のみも
(リビア作戦や湾岸戦争では、空母艦載機による撃墜事例のみです)

飛行時間削減傾向の中での飛行隊現場の「士気高揚」策か・・・

1月23日付米空軍協会web記事は、米空軍戦闘コマンドACCが部隊対抗の空中戦競技会(空中戦だけでなく、地上整備員チーム対抗の再発進準備協議会等も含む)である通称「William Tell Air-to-Air Weapons Meet」を、3月6日から約10日間にわたりジョージア州の基地で開催することになったと報じています。

日本でもお馴染みのスイス民話ウィリアム・テル(弓の名手)の名を冠したこの競技会は、戦闘機による空中戦が「まだ」花形だった冷戦初期の1954年に第1回目が開催され、その後隔年で開催されて来たイベントですが、冷戦終了と空中戦の重要性低下を受けた競技会開催予算の優先度の低下から、1996年を開催が「休眠状態」に入り、2004年に同競技会50周年を機に1回だけ復活開催されましたが、その後はしばらく実施が見送られていたものです。

「空中戦の重要性低下」というとご立腹の方もいらっしゃるかと思いますが、多くの空中戦が生起したのは1960~70年代のベトナム戦争時代までで、その後は1980年代のカダフィー大佐率いるリビア封じ込め作戦時に訓練実績がほとんど無いリビア軍機(旧式MIGやSU)や、湾岸戦争(1991年)で逃走するイラク空軍機(旧式MIG)を、米海軍や海兵隊機が撃墜した記録が数例あるだけで、

ベトナム戦争後に米空軍機による空中撃墜は、1999年のコソボ紛争時のF-15戦闘機によるセルビア空軍MiG-29撃墜の1例のみです。(改めて歴史を振り返ると、ベトナム戦争後は前方展開した空母艦載機だけが空中戦闘で敵機を撃墜しています)

以上のような空中戦闘の歴史的経緯を受け、1996年の開催以降は「休眠状態」にして事実上葬られたはずの「空中戦競技会」ですが、戦闘機飛行訓練予算が右肩下がりで継続減少し、パイロットの士気低下が現場で問題視され、民間航空会社へのパイロット流出問題も顕在化する中、当時退役間近だった「戦闘機族のボス」Mark Kelly戦闘コマンド司令官が「置き土産」として2023年に19年ぶりに強引復活させたものと言われている競技会です。

そんな「空中戦競技会:William Tell Air-to-Air Weapons Meet 2026」について記事は、
●19年ぶり復活の2023年競技会の次は、隔年開催の伝統に習い2025年9月開催を目指していたが、「予算上の問題と全般情勢:due to budget challenges and current events」により延期された。(イスラエルやイラン情勢も背景か)
●2026年3月6~15日に開催の協議会には、(2023年の)F-35、F-22、F-15E Strike Eagleに加え、F-16戦闘機も参加
●空中戦だけでなく、地上要員は、武器搭載、航空機整備、そして情報分析活動分野での競技に臨む。

●主催担当であるACC作戦部長は、「航空優勢は本質的に人間的(Air superiority is inherently human)で、兵士の根性、正確さ、プロ意識により構築される」、「William Tell競技会は『鉄は鉄を研ぐ』機会であり、兵士の進化や問題解決力向上を促し、結束を強め、プレッシャーの下での重要能力発揮を促すものだ」と競技会の意義を表現している

前回2023年時との比較で不明な部分は
●2023年時に実施された、「12機のF-22、F-35、F-15チームが最大40機の敵機と戦う競技」や「バナー標的への空対空ガン射撃」競技が含まれるのかは不明
●2023年時に報道されていた、「F-16やミラージュF-1で仮設敵機役を行う民間会社「Top Aces」「Textron subsidiary ATAC」の参加や、F-16を無人機に改修したQF-16の参加」についても不明
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2023年の「William Tell」開催時には、競技会の説明に中に「アジア太平洋での先端戦闘機との戦いを想定し・・・」との対中国を強く意識した表現があったのですが、以下にリンクをご紹介する「空軍戦闘コマンドによる競技会実施発表」の中に、そのような表現は皆無で、

前述のACC作戦部長発言にあるように「航空優勢は本質的に人間的(?)で、兵士の根性、正確さ、プロ意識により構築」、「鉄は鉄を研ぐ(皆で切磋琢磨して能力向上を)」といった、兵士の気概を醸成することを狙っているような「抽象的」な表現がばかりが目を引きました。

さすがに米空軍戦闘機の最前線部隊でも、本格紛争においても「空中戦」を主たる戦いの場とは想定していないようですし、ベネズエラ作戦でのように、敵航空戦力を離陸する前に「無効化」することを最善としているのでしょう。(敵も同様に、弾道&巡航ミサイルや無人機攻撃やサイバー戦や電子戦等で、米軍航空戦力が離陸する前に無効化しようとしていることを、どの程度認識しているかは判然としませんが・・・)

更に邪推ですが、最近若者に人気がなく志願者が急減し、若手操縦者の民間航空会社への転職が増加する中、また訓練飛行時間が右肩下がりで現場士気低下傾向の中での、パイロット募集&パイロット引き留め策の一つとも、「William Tell」競技会を理解しています

空軍戦闘コマンドによる競技会実施発表(1月22日付)
https://www.af.mil/News/Article-Display/Article/4385204/accs-william-tell-air-to-air-weapons-meet-returns-in-2026/

過ぎし栄光の亡霊「William Tell」競技会
「19年ぶりに空対空戦闘競技会復活へ」→https://holylandtokyo.com/2023/06/12/4735/

人工知能AIが人間操縦者を圧倒する現実
「DARPAがAI無人機空中戦試験」→https://holylandtokyo.com/2023/02/27/4326/
「企業AIが模擬空中戦でF-16操縦者を圧倒」→https://holylandtokyo.com/2020/08/19/528/
「米空軍研究所AFRLは2021年に実機で」→https://holylandtokyo.com/2020/06/10/620/
「無人機含む空中戦を支えるAI開発本格化」→https://holylandtokyo.com/2020/05/22/678/

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