「fly, fix, fight」が合言葉の不安な米空軍参謀総長就任

米空軍航空機の老朽化と稼働率低下問題ばかりを語る新トップ就任
ペンタゴン勤務無き戦闘機族のボスが就任式典で

史上最長の43日間に及んだ「米国政府機関の閉鎖」が11月12日に一旦解消されたことを受け、実質的には11月3日から前任者Allvin大将の後任として米空軍参謀総長職に就いていたKenneth S. Wilsbach大将が、11月18日にTroy Meink空軍長官が司る「参謀総長就任式典」に臨み、初めて公式の場で米空軍制服トップとしての所信を述べ、米空軍全体に配信済のスローガン「fly, fix, fight:戦って勝つために、飛んで整備して即応態勢を維持せよ」を何度も繰り返し強調しました。

このメッセージは、10月9日の上院での承認公聴会でWilsbach大将が証言した内容と呼応するもので、米空軍はより多く飛行する必要があり、空軍兵士と航空機にとって明白な課題だが、機体平均年齢が30年以上の中で稼働率が約5割の現状の中、かつ予算急増が望めない状況で、装備近代化と即応態勢維持のための両面投資の難しい取捨選択バランスをとる必要を訴えていたことと表裏をなすものです。

Wilsbach大将は約10分の就任あいさつの中で・・・
●米空軍は重大な岐路に立っている。我々は即応態勢を改善しなければならない。
●我々の主目的は変わることは無い。我々は戦争を戦い勝利するため、装備を整え、飛んで勝ち抜くのだ(we fly and fix to fight and win our nation’s wars.)
●空軍兵士としての主たる責務は、毎日準備を整え、信頼される能力を発揮し続けることだ(core responsibility as Airmen to stay ready, be credible and capable every single day)

●命令を遂行するには、常に即応態勢を重視する必要がある。態勢が整っていない空軍兵や航空機は能力を損なう。訓練された部隊態勢から航空機の稼働率向上に至るまで、米空軍全体の信頼性の回復が不可欠(Restoring reliability across all aspects of our force, from trained combat formations to better aircraft availability, is vital.)
●米空軍は現有兵器だけに依存することはできず、combat aviationの世界最先端を維持するため、近代化と革新の両面で未来を追求するため、F-47やCCAやB-21等の重要装備の取得や戦力化を前倒しし、米国の優位を確実にする(both modernizing and innovating to stay at the vanguard of combat aviation. Accelerating our acquisition timelines for critical capabilities like the F-47 or Collaborative Combat Aircraft or the B-21・・・ will ensure our dominance)

なお本式典を紹介する18日付米空軍協会web記事は
●Wilsbach大将は、前ポストの(戦闘機族のボスと呼ばれる)空軍戦闘コマンド(ACC)司令官として、またその前の太平洋空軍司令官として、米空軍作戦機の大半を統括する立場から、 即応態勢を重視してきた。
●前ポストや前前ポストでは、中国軍の急速な近代化を詳細に把握し、その活動への対処を日々熟慮していただろうし、6月のイラン核施設攻撃では、7機のB-2爆撃機を含む約125機の作戦機による大規模航空作戦の裏側まで知り尽くし、問題も把握しているであろう。

しかし、米空軍参謀総長の任務は部隊の作戦指揮ではなく、訓練と装備の最終責任を負うことである。米空軍には、F-47やCCAやB-21等の重要装備導入以外にも、巨額の費用と既に遅延しているICBMシステム換装事業など課題が山積している・・・とコメントしています
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真に組織の将来を憂い、組織改革や意識改革を進めようとした制服リーダーAllvin大将を任期途中で「追い出し」、時代に逆行するような参謀総長を担ぎ出した「米空軍」という組織の将来を率直に危惧します。そしてこの米空軍新トップの発言を悪用し、世界の空軍リーダーが「有人戦闘機」や「その搭載防備」への投資優先に傾くことを恐れています

15年前に当時のゲーツ国防長官は、敵が米空軍戦闘機と空中戦を挑む思考を捨て、サイバー戦や電子戦や弾道&巡行ミサイルやドローン等々の「非対称な戦い」に活路を見出そうしている「脅威の現実や変化」に目を背け、有人戦闘機や有人爆撃機への投資ばかりを優先する米空軍の幹部を叱責し、「空軍は単に飛んでいたいだけなのか?」と揶揄しましたが、その言葉をWilsbach大将には捧げたいと思います。

Allvin前空軍参謀総長らの思考
「70年間空爆での死者は無かったが」→https://holylandtokyo.com/2024/08/20/6181/
「航空優勢再考に言及」→https://holylandtokyo.com/2024/06/07/5938/

偏った経歴のWilsbach大将関連
「経歴紹介:次の空軍参謀総長は」→https://holylandtokyo.com/2025/10/03/12931/
「戦闘機族のボスACC司令官へ」→https://holylandtokyo.com/2023/05/11/4614/
「稼働率に代わる新指標」→https://holylandtokyo.com/2025/06/04/11583/
「ACE構想の生みの親」→https://holylandtokyo.com/2022/06/24/3374/

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