太平洋空軍、ACC、AMC、宇宙作戦軍司令官がパネル討議で
「権限の下位委譲」と「物資の事前集積」を中心に語る
同演習は「first-in-a-generation exercise:一世代ぶりの演習」とも表現され、空中戦闘、空輸、空中給油、航空医療避難、およびその他任務をカバーする5つの演習を、Department-Level Exercise(DLE)と呼ばれる規模の他軍種や地域同盟国軍の参加を得て実施されたもので、数十年ぶりの作戦進捗速度、規模、範囲で、中国との戦いを想定して7月から8月中旬にかけ実施されたものです。
9月24日付米空軍協会web記事が取り上げている同パネル討議の概要は、きわめて表面的なものであり、演習の教訓と呼ぶにはあまりにも抽象的な内容ですが、それでも米空軍の核となる主要コマンド司令官が限られた発言機会の中で言及した「エッセンス」でもありますので、ご紹介しておきます
【権限の下位委譲について】
●PACAF司令官→一時は南北5,000マイル、東西6,000マイルにも及ぶ50の拠点を運営していたが、旨くやれば『これはできる』と感じた。ただし、一つの作戦センターで全体を継続的に指揮統制するには範囲が広すぎ、特に電子戦やサイバー攻撃で作戦センターが孤立するリスクがある中では、課題が多い
●PACAF司令官→特に兵站と維持管理に関し、意思決定権限をできるだけ指揮系統の下位に委譲すべきである。作戦センターは攻撃火力の指揮統制に多く集中することになるため、兵站と物資補給に関し、具体的には燃料や弾薬の配分先、滑走路修理方法など、戦力の効果的発揮に繋がる部分は最下層指揮官たちに権限委譲を行い、力を発揮してもらう方が効率的だ
●PACAF司令官→また最前線部隊の防御や、如何にハブとスポーク間で戦力を再構成するかに関しては、各分散部隊の所在を具体的に把握している航空遠征航空団の指揮官が判断すべきだ
●PACAF司令官→他軍種や同盟国間との連携も忘れてはならず、指揮統制システムは、パートナーや同盟国も柔軟に参加でき、権限の下位委譲が可能なものである必要がある
●AMC司令官→権限を委譲する側と委譲された側の双方が、委譲のリスクを認識しておくことを大前提として権限委譲推進に賛同する。演習間に地域拠点間の空輸を担うC-130輸送機の運用を、太平洋戦域全体で一元統制するのではなく、日本とグアムの部隊に配備して権限委譲したが、非常に効率的に活用されたことが確認できた。
●宇宙作戦コマンド司令官→担当エリアの広さと作戦の複雑さを思うと、実質的に単一の指揮所からコントロールすることは困難である。演習のある局面である問題が浮上し、急遽大佐をリーダーとする対処チーム編成を指示したが、人員不足で「大尉」しか要員を確保できない事象が発生した。しかしその大尉の獅子奮迅の仕事ぶりは素晴らしく、固定観念を捨てた任務への取り組みが必要だと痛感させられた
●ACC司令官→(ACE構想に基づき)太平洋の分散拠点からの航空戦力運用を想定したBamboo Eagle exerciseとして、アーカンソー州からハワイ州までの15か所以上に分散して配置されている100機以上の航空機を、ニューメキシコ州の作戦センターから指揮統制させる訓練を実施したが、種々の演習状況から、上級指揮所との通信が途絶した場合に備え、指揮官の意図に即して作戦活動を各前線部隊で継続する訓練強化&継続の必要性を痛感した
【物資の事前集積に関して】
●AMC司令官→AMCはC-17を222機、C-5を52機、そしてC-130Jを約150機保有しているに過ぎず、有事に輸送要求が急増する中での対処可能範囲は限られていることから、必要性が予期される装備品は、今から直ちに移動させ「事前集積」しておくべきだ。保管用倉庫の完全な準備を待つのではなく、今すぐに可能な現場集積を開始していただきたい
●AMC司令官→演習で改めて浮かび上がった課題は、急遽投入した装備品の維持整備にも追加の輸送が発生し、古い航空機のケースではその所用が激増すること、また太平洋地域では車両の整備にも想定より多くの輸送所用が発生する等々の現実。同時に、これらに備えた各部隊の少しの準備で、負担が大きく改善される可能性も明らかになっており、対策が急務である
●PACAF司令官→REFORPAC演習での機動展開は、全てAMCの支援を得て可能になったが、展開部隊が即座に行動可能な体制になるには、綿密にかつ賢明に、装備品の事前集積場所や品目を精査しておく必要性を痛感している
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「権限の下位委譲」と「物資の事前集積」・・・どれも軍事作戦遂行上のキーワードとして、戦史でもしばしば取り上げられる教訓ですが、なかなか平時には「解決に導く力」が働かないのが軍事組織の常です
上記は米空軍上級指揮官の振り返りですが、当然我が自衛隊部隊にも深く関連し、自らを振り返るべき視点ですので、今後の米軍との防衛交流や演習訓練を通じて、演習教訓の共有に努めていただきたいと思います
史上最大規模REFORPAC 演習
「演習が概要と参加規模」→https://holylandtokyo.com/2025/07/11/12128/
「夏の太平洋演習は超大規模」→https://holylandtokyo.com/2024/11/13/6465/
「米空軍大改革の演習」→https://holylandtokyo.com/2024/09/09/6251/
REFORPAC 演習の部分紹介
「セスナ改良無人輸送機をテスト」→https://holylandtokyo.com/2025/09/22/12727/
「患者空輸医療部隊が難題に」→https://holylandtokyo.com/2025/08/29/12516/

