米空軍がパイロット募集の身長基準を廃止

従来は身長の範囲を決め、範囲外の応募者には特別な例外規定で対応してきたが・・・

female pilot.jpg5月13日、米空軍は従来定めていたパイロット募集に際しての身長範囲基準「162.5㎝~195.6㎝」を廃止し、広くパイロットになりたい人の応募を募る方式に変更すると決定しました

米空軍ではパイロットの民間航空会社等への流出等によるパイロット不足に対処するため、これまでも身長範囲基準以外の人を採用する道を「例外規定」として2015年に設け、基準外の希望者の身体測定を精密に行い、操縦席やコクピット操作が可能な人をより細かく見極め、機種を限定して採用する取り組みを行い、2015-2019年の間で223名の「例外規定」応募者の87%を採用しているそうです

なおこの例外規定で、最低で150㎝、最高で205.7㎝の人の受け入れ実績があるようです
しかし米空軍省内にボランティアを集めて設置されたWTI(Women’s Initiative Team:リーダー女性中佐)の調査で、米国の一般女性の場合、身長基準外の割合が44%に上るが、「例外規定」を活用しての応募が一つの「心理的な壁」となり、多くの志ある女性に手を挙げることをためらわせ、結果として有能なパイロット適正者を排除していることが明らかになったことから、今回の身長基準廃止につながったようです

height.jpg昨年11月には、操縦者養成を担う第19空軍司令官Craig Wills少将が、操縦者不足への対策を2019年夏に再検討する中で「我々が考えていたよりも、身長基準がパイロット希望者が応募を断念する要因として、他に比して極めて大きな原因だった」、「単に身長の問題で応募しなかった者が多数いた」と気づきの点を語り、「例外規定」を積極的に活用してほしいと対外的にアピール作戦を開始すると語っていましたが、それでは不十分だと判断し、身長基準自体の廃止に踏み切ったようです

もちろん、募集時の身長基準をなくしたからと言って「操縦の安全に目をつぶる」ということではなく全ての航空機のコックピットをレーザー測距機であらゆる側面から精密に測定し、応募者が対応可能かの見極め基準を明確にし、同時に応募者の詳細な身体データ(身長や座高だけでなく、おしりから膝までの長さ、膝からくるぶしまでの長さなどなど詳細な人体測定数値、unctional reach, wingspan, body mass, weight-to-height ratio, waist-to-hip, hip-to-knee and more・・)を機体データと照合するソフトを導入し、操縦に支障のある不適合者は採用しない厳格性は維持するということです

つまり、乱暴な「足きり」「門前払い」をなくし、少々手間はかかるが希望者一人一人をしっかり把握し、適合性や適正をしっかり見極めてその能力を生かす方法に変えるということです

22日付米空軍協会web記事によれば
female pilot 2.jpg21日付米空軍発表によれば、米空軍操縦者のダイバーシティ(多様性)を増す取り組みの一環として、5月13日付で米空軍は操縦者募集基準から身長範囲を廃止した
従来の「shorter than 5’4″ or taller than 6’5″は基準外、64-77 inchesの間(162.5㎝~195.6㎝)を受け入れ」では、平均的な米国女性(20-29歳)の44%を排除することになっており、これを改める

米空軍省のGwendolyn DeFilippi人的戦力担当次官補代理は、「我々は米空軍で働こうとする人たちの前に立ちはだかる、バリアを見つけ排除することに注力している」、「この規定変更は大きな一歩である。特に、これまで応募をためらっていた小柄な女性やマイノリティーの人達にとって」とコメントしている
規定変更の契機となった調査を行ったWITリーダーのJessica Ruttenber中佐は、「調査結果は、たとえ現在の例外規定で操縦者になれる資格がある者でも、女性の場合は多くが応募せずに終わっていることを示している」、「身長基準の撤廃により、より多数で多様な応募者を米空軍は得ることができるようになる」と語っている

height4.jpg米空軍はこの他にも操縦者不足対策として女性の活用を推進しており、Goldfein空軍参謀総長は、妊娠により飛行停止となった期間にも、地上でシミュレーター教官やスタッフ業務に柔軟に配置転換を可能にする検討を行うとしている
●また、男性を意識して設計されることが多い操縦者用装備についも、例えば、G-スーツ、飛行服、小用器具、サバイバルキットなどを女性用のサイズで準備することに取り掛かっている
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あくまで米空軍の公式な立場は、「パイロット採用数を確保するために基準を緩和しているのではなく、能力と意志がある者がその力を生かせる体制を目指している」ということですが、操縦者の空白ポストが2000もある状況ですから、規則の変更にも積極的です

コロナ関連で民間航空会社が厳しい状況に置かれ、空軍から民間航空会社への転職も難しくなっているでしょうから、米空軍が取り組んできたパイロット採用や要請数増の施策が今後どう調整されていくのか気になります

米空軍パイロット不足関連
「Fly-only管理の募集中止」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-03-15
「5年連続養成目標数を未達成」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-02-19
「採用の身長基準を緩和」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-11-18
「操縦者不足緩和?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-06-12
「操縦者養成3割増に向けて」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-21-1
「下士官パイロットは考えず」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-19-3
「F-35操縦者養成部隊の苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12-3
「下士官パイロット任務拡大?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-22
「仮想敵機部隊も民間委託へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-01-09-1
「さらに深刻化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-10

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