米空軍が作戦機稼働率に代わる新指標を検証中

「比率」ではなく「整数」で示すとか
新指標は作戦運用上の理由で非公開方針
従来の稼働率が継続的に低下する中で・・・
米議会や専門家の反応や如何に???

5月9日付米空軍協会web記事が、米空軍の戦闘機など主要作戦機を管理するACC(Air Combat Command:空軍戦闘コマンド)が、2024年の航空機稼働率が過去10年で最低値に落ち込む中、管理する作戦機の状態を各級指揮官がシンプルに的確にわかりやすく把握するため・・・との理屈で、従来の指標に代わる「整数」で示す新たな指標(RIM:Readiness Informed Metrics)を2024年から試行し、今年4月からはACC全部隊に適用開始したと報じています

従来の指標である航空機稼働率は、部隊が保有する当該機種全機数の中で、「複数ある当該機種に期待される任務のうち、“少なくとも1つ”の任務を遂行できる機体数」の割合で、例えばF-35やF-16やF-15Eの場合、空中戦任務だけが可能で、近接航空支援CASや対地対艦攻撃(航空阻止)や敵防空制圧SEAD等の重要任務が不可能な場合でも、「稼働状態」とカウントされる指標です。率直に申し上げれば、「甘々な基準」だと思います。

米議会や一般国民向けに公開されてきた指標は、上記で計算される「航空機稼働率:Operational Readiness Rate」だけですが、米空軍内ではそのほかにも、様々な部隊保有作戦機の即応態勢指標となる膨大なデータを追跡・報告しているとのことで、例えば、任務可能状態にするため要整備な機体比率や、一定時間内にどれだけ早く修理可能かを示す数値などは、故障修理率(break and fix rates)として秘匿管理されているとのことです。

ちなみに、公開されてきた「航空機稼働率」は、末尾の過去記事でご紹介してきたように、最近は年々低下し続けており、2024年秋の米会計検査院GAOレポートによれば、2023年度統計で公表された主要作戦機15機種の中で、軍が掲げた2023年度目標稼働率を達成した機体は「ゼロ」で、2018年度以降で目標を達成したのは、F-15CとF-16Cが共に僅か半年間だけだったとの悲惨な状況が続いています。

この状況に関し米空軍は、「コロナの影響でサプライチェーンが混乱」とか、「海外派遣が継続して機体が酷使されている」とか、「派遣→米本土で態勢立て直し→派遣準備訓練との部隊活動サイクルの中で、全ての部隊を一律に航空機稼働率で評価するのは不適切」等々の理由を並べ、新たな指標の設定に取り組み始めていました。

検討の結果生み出され、4月から全ACC部隊に展開開始されたのが、以下にご説明する新指標(RIM:Readiness Informed Metrics)で、ACC司令部整備兵站部長のJennifer Hammerstedt准将が、「高度な計算が必要で、専門家しか理解できない指標ではなく、各級指揮官が各部隊の状況を明確に把握可能で、必要な航空機数と実際に使用可能な機数と比較可能な指標」とアピールしつつも、「非公開」となる以下の「3つの整数指標」です

部隊保有の航空機総数(修理部品待ちの非稼働機や補給処整備中の機体除く
←「Total aircraft in a fleet」
当該部隊の現在の任務遂行に必要な航空機数
←「The number of aircraft needed to fulfill operational requirements」
現在の任務遂行要件を満たす使用可能な航空機数
←「The number of aircraft available to meet those requirements」

同准将は新指標RIMに関し、重要なのは「Operational Requirements」(当該部隊が現時点で求められる任務)と、その任務遂行に必要な機体数の設定だと語り、同じ部隊でも、その部隊の状態(海外展開中でフル稼働が求められる状態か、展開終了後に母基地で戦力再編成期間の状態か、次期展開に備え訓練中か等)により、求められる「任務遂行に必要な機体数」は継続的に変化すると説明し、

同じ使用可能航空機数が15機の部隊でも、その部隊の当該時点での「任務遂行に必要な機体数」が10機なら5機の余裕があり、必要数が18機なら3機不足だと「各級指揮官にわかりやすく提示可能」と自画自賛していますが、肝心かなめの「当該時点での任務遂行に必要な機体数」を、どのように誰が定義するのかに関しては言及しませんでした。

なお9日付米空軍協会web記事は、同准将が新指標を「作戦運用上の理由から非公開」にすると説明したことに関し、「米空軍は、作戦機運用部隊の作戦上の懸念と、米議会や国民への説明責任を果たすためのデータ公開のバランスを取る必要がある」とコメントしていますし、「修理部品待ちの非稼働機」を除外する「問題隠し」姿勢に「?」状態のまんぐーすです

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作戦機の稼働率問題は、2018年に当時のマティス国防長官(退役海兵隊大将)が、主要戦闘機(F-22、F-35、F-16、FA-18)の稼働率8割を達成せよと指示しましたが、一時的にF-16とFA-18が達成したのみで、同長官退任後は「単純な稼働率80%目標は、部隊任務達成度合いに比例しない」と海空軍が反発し、主要作戦機の「稼働率」は現在に至るまでずるずると低下し、放置され続けています。

海兵隊で現場経験の長いマティス長官は、新型戦闘機や戦闘機搭載の新装備や新兵器開発ばかりに資源投入し、中東を始めとする前線で稼働機確保に苦労する前線部隊の苦労を顧みないペンタゴン勤務の米海空軍戦闘機族の姿勢に立腹し、「怒りの稼働率8割指示」を出したのですが、「面従腹背」を決め込んだ戦闘機族はその姿勢を変える事は無く、現在に至っています。

個人的な解釈で申しあげれば、米空軍ACCは「作戦機の稼働状態を、今後は極めて恣意的で、如何様にも操作可能な指標で把握し、ぐたぐた批判する外部には公開しない」と決定したわけです。このような前線部隊を軽視する姿勢は、必ずや部隊の不満爆発や大きな事故につながると懸念します。

米空軍作戦機の稼働率低下問題
「2024年は過去10年で最低」→https://holylandtokyo.com/2024/11/27/6455/
「F-35稼働率3年連続急降下」→https://holylandtokyo.com/2024/07/18/6077/
「米空軍機稼働率22年と23年比較」→https://holylandtokyo.com/2024/07/03/5968/
「20年と21年の比較」→https://holylandtokyo.com/2021/12/07/2465

マティス国防長官と海空軍の戦い
「8割目標を放棄」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-08
「海軍FA-18のみ達成」→https://holylandtokyo.com/2019/09/26/6655/
「空軍はF-16のみ達成」→https://holylandtokyo.com/2019/09/10/6645/
「稼働率8割への課題」→https://holylandtokyo.com/2018/12/11/6840/
「マティス長官が8割指示」→https://holylandtokyo.com/2018/10/12/6888/

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