連続して中国軍の能力を疑う論文とレポート発表
共産党による歪んだ統治と腐敗の影響は根深く
取り上げられているのは Timothy R. Heath 研究員による「中国軍の主目的は戦争を戦うことではなく、中国共産党の権力を維持することであり、その結果、軍隊は実力よりも忠誠心を優先するようになり、有事に機能するとは考えにくい」と主張する1月27日発表の論文「中国軍の疑わしい戦闘準備態勢:The Chinese Military’s Doubtful Combat Readiness」と、
Mark Cozad 氏と Jennie W. Wenger 氏が「中国軍は急激な少子化とその硬直的な組織等から若者に不人気で、特に中国の一流大学や理系の人材を引きつけるのに苦労している」と分析する、1月30日発表の報告「中国軍の将来を形作る要因:Factors Shaping the Future of China’s Military」の2本です。
以下ではます。27日発表の論文「中国軍の疑わしい戦闘準備勢」の概要からご紹介します
中国軍の組織運営の実態と戦えない現状
●中国軍の主な目的は戦争を戦うことではなく、中国共産党の統治を維持することにあり、大規模な近代化計画や艦艇、戦闘機の増加にもかかわらず、中国軍は外国と戦う能力よりも共産党への政治的信頼性を優先している
●この組織では、功績ではなく忠誠心に基づく昇進、指揮命令系統の分断と断片化や高度に中央集権化された指揮統制系統によるクーデター防止策が制度的に維持されており、戦場での軍隊の有効性発揮のために不可欠な権限移譲等がほとんどない
●中国国内でもこの問題は広く認識されており、国内メディアには、軍が統合された共同作戦を実行できないことや、戦闘態勢が欠如していることに対する痛烈な批判が満ちている
●軍部隊に指揮官と同格の地位で配置されている政治委員は、基本的な軍事知識を欠いており、多くの場合、最前線の任務に体力的にも適していないため、意思決定に支障をきたしている
●中国メディアは、潜水艦を浮上させたり、座礁した漁師を救助する前に、司令官らが党委員会の承認を求める必要があることから、軍人指揮官の権限が弱体化されている様子などの話題であふれている
●このような共産党統治が日常の中国軍では、指揮官が自発的に行動する動機がほとんど生まれず、戦闘中に迅速かつタイムリーな意思決定が可能とは考えにくい。
●軍人の昇任や登用は、党への忠誠や指示に従順で審査される。腐敗は欠陥のある武器から偽の訓練記録まであらゆるものに及んでおり、政治的忠誠の代償として容認されている。
中国軍は台湾有事の準備をしているのか?
●中国軍が装備を急速に近代化し数量を急増させていても、中国指導者が台湾を巡り米国との戦争リスクを冒そうとしている証拠はほとんどない。経済崩壊の中、中国指導者らは演説で、中国共産党統治への最大の脅威として台湾を挙げることは「ほとんど」なく、むしろ汚職、失業、犯罪、転覆工作への対策が関心事である
●習主席の台湾統一への言葉は「定型的」で「前任者たちと同じ」で、中国共産党指導者は、他国指導者が紛争前に通常行う国民支持を喚起する取り組みをほとんど行っていないし、中国軍も他国との紛争選択肢には関心がない
●中国軍や中国軍関係の学術機関からも、米軍撃退法に関する研究は発表されていない。また中国軍は台湾を占領し、統制する方法についての研究さえ発表していない
●米軍と戦う機密計画が中国軍にある可能性は高いが、それを裏付ける公開情報や研究がないため、その作戦計画がどの程度堅固なものか疑問視されている
●中国政府は、積極的に経済や軍事や政治力で台湾問題を解決するよりも、機が熟することを好むようだ。戦争の可能性は「ゼロ」ではないが、中国経済が衰退し続ければ、中国軍は政権の存続を更に優先するだろう
次に、1月30日発表の報告書「中国軍の将来を形作る要因」の概要をご紹介。
中国の経済崩壊による雇用の急激な減少で、人材確保難は緩和する可能性もあるので、注意する必要がありますが・・・
●中国人口は急速に高齢化しているが、それでも 2030年に米国人口の3.95倍になる予測がある。中国の子どもの肥満や喘息の割合は米国の子どもよりも低く、中国の若者の大多数は軍事訓練を修了できる程度の教育も受けている
●この環境は、中国軍が目指す情報化システム戦争を遂行するに必要な、不確実な状況で意思決定ができ、複雑な作戦環境で革新性と創造性を発揮可能な意欲のある将校と下士官確保に決して悪くない環境だ
●しかし中国軍は募集難に直面している。募集は理工系の大学卒業生が焦点とされているが、軍での生活は新兵には厳しく、経済的、社会的利益がほとんどないと広く認識されている。軍の基地の多くは、辺鄙な場所にあり、魅力に欠ける。
●中国軍は米軍と同様に、生活環境の向上、退役後の雇用、学生ローンの返済、その他の魅力化に投資し、新兵募集に努力しているが、中国軍に深く根付いた権威主義や質素で厳しい生活環境が広く知られており、また最近の経済崩壊で賃金カットや不払い騒ぎも報じられる中で、募集改善の見通しは明るくない
●また最近の軍の規則違反事例から明確なのは、中国軍の募集活動には汚職、強制徴兵、徴兵逃れ、入隊後の兵役拒否など多くの問題があることだ
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政府系の研究資金を多く獲得しているRAND だからこそ、注目したい研究成果です。
中国経済が崩壊し、中国共産党が政権維持と存続に勢力を振り向ける傾向が高まりそうな今、染みてくる感じの成果物です
論文「中国軍の疑わしい戦闘準備態勢」
→https://www.rand.org/pubs/perspectives/PEA830-1.html
レポート「中国軍の将来を形作る要因」
→https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA2618-1.html
中国軍の問題関連
「米国防省レポートは腐敗に注目」→https://holylandtokyo.com/2024/12/20/10484/
「中国はウクライナから何を学んだ?」→https://holylandtokyo.com/2024/12/19/10475/
「中国ロケット軍の汚職報道を考察」→https://holylandtokyo.com/2024/01/15/5436/