ヘリ重大事故率が3倍の米陸軍が根本見直し中

2023年度重大事故10件死者14名の惨状
2024年春は事故発生率が過去の3倍に
初級訓練用ヘリ機種の再検討やティルローター機対応も
コスト面からもVR訓練の在り方も含め再検討

US Army Heli all.jpg8月26日付Defense-Newsは、米陸軍でヘリコプター事故が激増し、2023年度は死亡率が2011年の米軍イラク撤退以降の最高となり、死者や装備被害4億円以上が出る「クラスA事故」10件で14人が死亡する深刻な状況で、2023年4月には全陸軍航空部隊が飛行を一斉に停止して安全確認や基本事項の再徹底を行うも、2024年も事故が止まず、2024年春には飛行時間当たりの事故発生率が過去平均の3倍に達する危機的状況だと報じています

対策として米陸軍は、「あらゆる選択肢を排除せず検討する」として多方面からアプローチを行っており、最近の事故の特徴や原因の細部分析と対策、ティルローター機訓練の再検討、初級練習機の再評価、シミュレーションやVR訓練の在り方検討、飛行を中止して安全教育に集中する時間の設定などなど、様々に議論されているようですので、「他山の石」としてご紹介させていただきます

8月26日付Defense-Newsによれば米陸軍は
McCurry.jpg●米陸軍将来コマンド参謀長のMac McCurry少将は、「過去2年間、事故率と原因要因を常に注視し、特に編隊飛行、つまり航空機同士が接近飛行する様子や任務を、任務のタスク毎に評価している。また最近では、環境条件に応じ操縦者がテールローター機をどのように操作するかに焦点を当てている」と述べた
●具体的に同参謀長は「1つの考慮点は、適切な基礎訓練用航空機を保有しているかである」と語り、陸軍が2013年後半にベル社のTH-67単発訓練用ヘリを退役させ、訓練機を双発のLUH-72Aラコタ軽多用途へリコプター約200機に置き換え、運用コストと操作の複雑さを巡り激論を呼んだ決定に言及した。そして「全てが検討の対象となっており、訓練用機首も訓練法も全てが検討されている」と語っている。

US Army Heli uh-60.jpg●また同少将は飛行部隊維持全体と安全確保の両立にも視点を広げ、「航空部隊運用にはコストが掛かる。操縦者訓練には多額の費用が必要で、そのため、コスト面、飛行の基礎面、そしてティルトローターを搭載した将来の航空機の導入による影響などから、現在、最適な前進方法について多くの分析を行っている」と語り、
●更に、「シミュレーションやVR技術の向上で、航空訓練に仮想現実や拡張現実が普及する中、実機に乗らなくても訓練効率を向上可能な部分はどこか? どの訓練項目が最新技術で最適化されるか?」を再確認すべきとも同少将は語っている。また最近まで陸軍航空運用検討センター司令官だった人物は、「ヘリ部隊が有人・無人アセットが混在する複雑な組織へ変化する中、搭乗員のための新たな組織的訓練モデルを検討している」と述べている。

US Army Heli FLRAA.jpg●米陸軍は今年初め、「Aviation Standup」と名付けた基本や基礎に立ち返る安全強化の取り組みを発表し、その狙いを「事故発生時に悪い流れを断ち切り、改めて部隊運用の基礎的な部分に焦点を当てる」と説明し、「必ず何らかの効果が出る」と同参謀長は説明している
●米陸軍は2022年12月に将来型長距離強要機(FLRAA)にベル製の次世代ティルトローター設計機を選択し、一方で今年初めに(既に3000億円以上開発に投入済だった)攻撃・偵察任務用有人ヘリ(FARA)開発を中止して、この役割に無人機投入を決定したが、同少将は本件に絡め「今後 1年以内に、陸軍航空の主要幹部を中心に、FLRAAが部隊投入される前に組織的訓練モデルをどうするか、いくつかの決定がなされる」と語っている
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US Army Heli uh-72.jpg上の記事では、将来導入のFLRAA関連でティルローター機への言及が多くなっていますが、今年7月初めにAH-64アパッチヘリが飛行訓練中に墜落して教官が死亡、訓練生が負傷した調査中の事故に見られるように、米陸軍のヘリ事故はAH-64やUH-60やCH-47や上記練習機LUH-72Aなどの既存機で発生しています

日本の陸上自衛隊でもそうですが、陸軍の主力は歩兵や砲兵や戦車部隊であり、それら部隊出身幹部が組織の本流として出世します。ヘリ部隊は近代戦で重要ですが、ヘリ操縦者が「飛行手当」をもらって歩兵等の本流幹部より「羽振りが良い」ことからイジメられ、昇任面で冷遇されています。(あまりに乱暴な表現ですが、本質はそうです)

US Army Heli ch-47.jpgまた、飛行運用と地上部隊である本流組織では作戦行動への考え方に大きな差もあり、組織文化の隔たりも大きく、飛行部隊に地上部隊幹部が口を出せない雰囲気があり、安全管理が飛行部隊で疎かになっていても、飛行部隊独自には改善が難しい閉鎖性もあります

それからもう一つ、以下の過去記事でも指摘したように、防空兵器やドローンの発達により、ウクライナや中東で顕著になり、各国軍の間で認識が広がりつつある前線での有人ヘリ運用の限界説と、そのような認識の現場部隊士気への負の影響への懸念です。航空優勢獲得に関する戦闘機の有効性への疑問と共に、ドローンによる「低高度の航空優勢確保」がもたらす、静かな、しかし大きな軍事変革の流れがもたらす影響です。

つまり、このような複雑な実態を踏まえると、陸軍ヘリ部隊の改善は容易ではありません。

前線での有人ヘリ運用の限界露呈
「小型ドローンで軍用へリ撃墜の衝撃」→https://holylandtokyo.com/2024/08/29/6213/

米陸軍迷走の象徴!? ヘリ選定のグダグダ
「3千億円投入済のFARAは中止」→https://holylandtokyo.com/2024/02/22/5567/
「Black Hawk 2000機の後継FLRAA選定」→https://holylandtokyo.com/2022/12/09/4043/
「UH-60後継の選定開始」→https://holylandtokyo.com/2021/07/16/2009/
「無人化でなく自動化推進!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-10-11

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