中国軍機が早ければ今年中にも米ADIZ接近飛行を

2月就任の北米コマンド司令官が下院軍事委員会で証言
他にバールーン米本土横断事案への対策や
米本土防空強化施策の重要性を語る

China Bomber Tanker2.jpg3月12日、2月に北米コマンド司令官(兼ねて北米航空宇宙防衛コマンドNORAD司令官)に就任したばかりのGregory M. Guillot空軍大将が下院軍事委員会で証言し、発言の流れや背景等の詳細は不明ながら「幸いにも中国軍機が米ADIZ(防空識別圏:Air Defense Identification Zone)への接近飛行を行ったことはないが、早ければ今年中にも飛来する可能性がある」、「航空機だけでなく中国の艦艇や潜水艦も米沿岸への接近能力を獲得しつつある」と語った模様で、米軍事メディアで話題となっています

Guillot3.jpgまた同司令官は、少なくとも5回に渡り中国製バルーンの米本土侵入を許しながら見失う等の失態を犯し、2023年1月には米本土を横断された後に大西洋上で撃墜することになってしまった反省を踏まえた3つの対策を議会で説明し、更には弾道ミサイルや巡航ミサイルや中露が既に保有している対処困難な極超音速兵器からの米本土防衛の難しさと重要性を語り、必要な予算配分への理解を求めています

12日の同大将議会証言を報じる12日付米空軍協会web記事は、冒頭に引用したGuillot司令官の発言しか取り上げておらず、空中給油機を伴った長距離爆撃機の遠洋飛行を頻繁に行うようになってきた中国空軍が、どのようなルートでどのあたりの米国ADIZに接近することを想定しているのか不明ですが、北米コマンド司令官としての発言ですから、ハワイやグアムへの接近ではなく、ロシア爆撃機と同様にアラスカぐらいへの接近飛行は意識しているのかもしれません

China Bomber Tanker.jpgちなみに防空識別圏は、領土から12マイル程度の領空とは異なり、「その国に出入りする航空機の国籍や役割をそのエリア内に進入する航空機に関してしっかり識別し、怪しい航空機には戦闘機等を緊急発進して対応するぞ」と各国が宣言しているエリアであり、領土から数百㎞沖合に拡大した領域で、

例えばロシア軍機は米国の領空を侵犯することはありませんが、定期的に米国ADIZに進入し、Guillot司令官が指揮する北米防空司令部NORADの指令で米空軍戦闘機の対処対象になっており、2月だけでアラスカ周辺ADIZ内を3回もロシア軍機が飛行しています。本件についてはこれ以上の情報はなく、今後の中国軍機の米国ADIZ接近に注目したいと思います

以下では同司令官が語ったバルーン事案を受けた監視の強化対策3つと、米本土防衛のため議会の理解を求めた米本土防空監視強化策についてご紹介いたします

バルーン事案を受けた監視の強化対策3つ
spy balloon5.jpg●対空監視レーダーの感度調整→バルーンのようにレーダー反射面積が小さく、高高度を低速で移動する目標を見落としがちだったが、雲などを要対処目標と誤認識する可能性は増加するものの、レーダーの感知・探知基準を修正し、きめ細かな監視を行う
●レーダー監視員は、雲やその他の自然現象を要対処目標として誤認識する可能性を踏まえた上で、怪しい探知目標の場合は注意深く追尾を継続して必要な措置を取るように徹底する
●電磁波情報など、他の米軍コマンドが保有する目標探知につながる情報を積極的に収集&共有し、米国ADIZに接近する前段階からの待ち受け態勢がとれるように、米軍全体で連携を密にする

航空機や巡航ミサイルや極超音速兵器対処
oth radar2.jpg●見通し線以遠を監視するOTHR(over-the-horizon レーダー)やLRDR(Long-Range Discrimination Radar)の導入推進が「最優先事項」である
●まだ態勢を整える初期段階であるが、1月にはミサイル防衛庁が建設したLRDRがアラスカでほぼ完成し、また米軍とカナダ軍が協力して4つのOTHR建設を目指している。LRDRの一つはアラスカに設置される予定である
●上記計画を軌道に乗せることが北米コマンドの最優先課題であり、これにより弾道&巡航ミサイルより遥かに対処が困難な、低空を音速の5倍以上で機動を伴って飛翔する極超音速兵器への対処の基礎とすることにつながる
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spy balloon2.jpg米本土を中国のバルーンが横断するのを5回も見逃し、最後の昨年1月事案では、しっかり大陸横断されてから安全な大西洋上で撃墜する判断に至っており、雲や鳥等との識別が難しい低速目標への対処が難しいのは理解できるにしても、訪米コマンドやNORADとして大失態であることは間違いありません。Guillot新司令官の前任者Glen D. VanHerck大将は、事実上の更迭&退役だと理解してよいのでしょう

中国軍機の米国ADIZへの接近飛行がどのような形で行われるのか、興味津々で続報を待ちたいと思います

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