米陸軍が評価中の様々な「ウ」の教訓

米陸軍協会総会で様々な検討状況を取材&紹介
航空戦力が活躍できなかった「ウ」の戦場ですが

ukraine war lesson2.jpg10月9日付Defense-Newsが、10月9日から開催された米陸軍協会総会の場で地上部隊担当Jen Judson記者が取材した、米陸軍が整理検討中の様々な「ウクライナの教訓」を取り上げ、「大砲」「戦車」「指揮所」「兵站」等の視点から紹介していますので、断片的ながらご紹介します

現在進行形のウクライナでの戦いで、まだまだ米陸軍も整理中の段階であり、また有人航空戦力の活躍の場がほとんどない環境で、かつ対中国のアジア太平洋地域とは全く異なる戦域状況ではありますが、陸軍長官や米陸軍参謀総長や将来戦闘コマンド司令官を始め、各専門分野を担当する高官の発言を基に構成されており、様々な示唆に富む内容ですのでご参考に供します(発言者名は省略しています。原文をご確認ください)

砲兵部隊は死活的に重要
artillery.jpg●「ウ」戦線で最も破壊力を提供しているのは通常兵器の砲兵部隊であり、砲兵部隊の精密攻撃が極めて重要であることを関係者は痛感している。これらを受け米陸軍は、2023年末までに「通常火力戦略」を新たに作成する準備を進めている
●「通常火力戦略」では、様々な現場部隊の教訓を基に、火砲のけん引式、自走式、車載型の利点や不利点、また推進薬の進歩により射程が伸びた砲弾特性を踏まえ、従来長射程砲が担ってきた分野を迫撃砲や榴弾砲で代替する等の検討や検証が行われている

●また「ウ」に提供された米国以外の国の火砲や砲弾の優秀さや優れた特性にも注目が集まっており、米陸軍が新規開発するより、外国製を輸入すべきではないかとの意見も強くなっている
●大砲への自動給弾装置など、前線兵士の負担軽減装備の重要性も再認識されている

戦車を巡る議論が活発化
tank damage.jpg●ロシア軍が開戦2か月間で400両以上の戦車を失ったことや、安価な無人機による戦車上空上方からの単純な攻撃による被害が極めて大きかったことから、大きくなりすぎて機動性に課題がある戦車に対する風当たりが強くなっている。これに対し陸軍長官は、まだ結論を出すのは尚早で、ドローンなど滞空型脅威への対策は可能だと語っている

●それでも米陸軍は、以前から進めていたM1戦車近代化改修計画を9月に破棄し、「ウ」の教訓も踏まえ、重くなり過ぎた車体の軽量化(機動性や回収の容易性)、最前線での維持整備負担の軽減、側方攻撃を意識した自己防御システムの再検討等を念頭に、新たな「M1E3」戦車追求に方向転換している
●「ウ」にまず31両のM1戦車が提供開始されているが、その前線での評価を米陸軍は注視している

機動性があり目立たない指揮所を求め
command posts.jpg●現在の戦場は、商用衛星、大小さまざまな無人機や電磁波センサーによって常時監視&偵察されており、従来の様な設営や撤収準備に半日も必要な前線指揮所では生き残れないことから、より小型で電磁波放出が少ない指揮所が求められている

●また、日進月歩の民生技術を迅速に取り入れるための「open architecture」仕様も不可欠である。最近の優れた例では、旅団戦闘チーム(BCT)の指揮機能をストライカー戦闘車両5台(35名)に集約し、市販のPCとタブレットをワイヤレス接続で活用して指揮統制機能を果たした部隊例が注目を集めている
●また通信途絶時や被害状況下での指揮統制活動を念頭に置いた準備にも、米陸軍は注目し、演習等で状況設定を増やしている

リモートによる維持整備支援が大幅拡大
remote mainte.jpg●「ウ」に大量に提供した兵器や装備品の維持整備をどうするかが当初大きな課題となったが、米陸軍がポーランド軍基地内の駐車場に設置した「リモート整備支援施設」から発信される、メールでの整備要領助言、録画映像での維持整備要領教育資料、ライブ映像でのリアルタイム支援の有効性が確認され、米軍提供装備だけでなく、欧州同盟国支援装備品にも同手法が幅広く導入された

●この手法はアジア太平洋戦域でも利用可能と考えられ、陸軍長官は「以前からそのようなアイディアは存在し、机上検討はあったが、実際に行ってノウハウを蓄積し、成果を上げた意義は極めて大きい」と高く評価している

より身近で手軽なドローン対処
counterdrone.jpg●米陸軍が5年前に作成した優先すべき近代化事業の多くはその方向性の正しさが確認されたが、新たな視点での気づきも見つかっている。防空&ミサイル防衛については、その重要性が対中国を意識して強調されてきたが、様々な脅威を念頭に重層的な防御システム構築の必要性が再認識され、柔軟に展開可能なパトリオット部隊の増強も加速しつつある

●小型ドローン対処も重要性が強く意識されてきた分野で、レーザーや電磁波利用の対処兵器開発や選定試験が行われているが、より現場に導入容易な、例えば既存の小銃に装着してすぐ使用可能な、AI活用のドローン照準用小型スコープなども「ウ」現場でニーズが高い事が確認されている
●また、前線に展開する全ての部隊が自己防御用に共通して装備するような、対ドローン兵器の提供も検討すべきとの声が上がっている
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ukraine war lesson.jpgそれぞれが断片的で検討中のものばかりですが、「大砲」「戦車」「指揮所」「兵站」「ドローン対処」の各分野で教訓とすべきある種の「エッセンス」を感じて頂けたと思います

また、別の観点から航空戦力に期待しにくい可能性がある西太平洋地域でも、参考になる点が多いようにあたらめて感じた次第です。ご参考になれば幸いです

2022年6月時点での・・・
「米陸軍首脳がウの教訓語る」→https://holylandtokyo.com/2022/06/01/3245/
様々な視点からウの教訓
「世界初の対無人機等の防空兵器消耗戦」→https://holylandtokyo.com/2023/01/27/4220/
「イラン製無人機が猛威」→https://holylandtokyo.com/2022/10/20/3787/
「アジア太平洋への教訓は兵站」→https://holylandtokyo.com/2022/06/17/3358/
「SpaceXに学べ」→https://holylandtokyo.com/2022/04/22/3173/
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる」→https://holylandtokyo.com/2022/02/09/2703/

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