デジタル設計の優等生T-7練習機が3年遅れに

【追加情報】
IOCは更に2027年春まで遅延
4月21日Hunter空軍調達担当次官が追加で明らかに、
射出座席以外にも試験段階で「wing rock」問題など複数発覚
当初24年、4月上旬26年、そして27年春へ
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小柄な女性対応可能な射出座席開発が難航
初号機提供が契約2023年から25年12月以降に
初期運用態勢確立は24年から26年以降に遅れ

T-7A 2.jpg4月14日付米空軍協会web記事が、老朽化が激しい機体年齢60歳以上のT-38練習機の後継で、最新のデジタル設計技術を駆使した開発優等生で、価格的にも米空軍見積もりを大きく下回る契約で話題を集めていたボーイング製のT-7A練習機開発について、女性を意識して小柄な操縦者にも対応した緊急脱出用射出座席の開発などが難航し、初号機提供が当初予定の2023年から早くても2025年12月までずれ込むとの米空軍発表を取り上げています

2018年に5つの提案から「ボーイングとSaab」チーム提案が選定された次期練習機T-7Aは、最近事故が多発している約400機のT-38練習機後継として早期配備を求められ、既存成熟技術を総動員した迅速開発の期待を一身に集め、実際に機体や翼の設計など主要部分の基本設計を構想から3年で完成する超迅速対応で期待に答えてきましたが、航空機の開発は一筋縄では行かないようです

T-7A 4.jpg価格面でも、最低351機調達の前提の契約で、空軍予定1兆3400億円のところ、1兆2000億円でボーイングチームが応札して落札し、この面でも「優等生」の評価を得ていたプロジェクトです

2022年12月に米空軍は、射出座席や飛行管理ソフトの開発遅れで、機体提供開始が1年程度遅れると発表しましたが、それから半年も経過しない2023年4月に、少なくとも約3年遅れの発表となり、当初2024年度予算に430億円計上されていた関連予算も「ゼロ」にすると米空軍報道官が明らかにしています

T-7A 5.JPG米空軍報道官は、2022年6月にスケジュール再検討を行っていると発表した際の説明で、「飛行試験の遅れ」「部品の品質確保遅れ」「契約下請け企業のや初期設計や不備改善の遅れ」「航空工学上の3つの問題」「射出脱出装置の問題」「コロナ関連の部品確保遅れ」に言及していましたが、今回の発表では他の問題はおおむね解決して射出座席問題が残っていることを示唆しています

射出座席問題は2022年前半の試験で明らかになったもので、射出時に座席パラシュートが開く段階でパイロットが装着するヘルメットのバイザーが激しい振動で脱落する恐れがあるとの問題です。発覚当時は試験に使用された人型人形の設置が不適切だったとか、データ計測が不適切だったとか企業側からクレームがありましたが、

T-7A.jpg2023年3月にHunter空軍調達担当次官は予算案説明時に、「射出座席は解決に向けて順調に進んでいる」と説明し、今回の再延期説明時に空軍報道官は「座席の射出ロジックを修正することで安全リスクを低減させており、2023年を通じ追加の対策を行っていき、9月に飛行試験を再開したい」と説明しています

T-7A練習機の射出座席は、従来の米空軍機の射出座席が60-70年代のパイロットの平均体格(結果として男性の体格)データから設計されていたところ、パイロット不足もあり、女性も含む空軍入隊資格基準を満たす者全てが搭乗できるように大幅な設計見直しを行っていた装備で、米会計検査院GAO等から「リスクの高い困難な開発」と以前から指摘されていた案件です

T-7A 7.jpg「初号機提供が当初予定の2023年から早くても2025年12月までずれ込む」との表現は、別の言い方にすると低レート量産開始が可能となる「Milestone C」承認が当初計画の2022年から2025年2月になる・・との表現になるようですが、既に様々な計画を「ぎゅうぎゅう」に詰め込んでおり、これ以上の前倒しは不可能と米空軍と企業は説明しており、裏を返せば「これ以上遅れる可能性が十分にある」と言うことでしょう

昨年12月と同じコメントになりますが、B-787や大統領専用機やKC-46Aで「身から出たサビ」で散々な目にあい、コロナウイルスで瀕死の状態にあるボーイング社にこれ以上の負担は酷な気がすることもあり、T-7A練習機のトラブル早期解決を祈念申し上げておきます

T-7A練習機(T-X計画)関連の記事
「1年遅れ:女性意識の射出座席が」→https://holylandtokyo.com/2022/12/19/4065/
「デ設計技術で審査短縮や新規参入促進」→https://holylandtokyo.com/2022/08/23/3550/
「中東諸国も関心」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-20
「ボーイング提案を採用」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-28

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