300機の露軍機がウクライナを行動範囲に
シリアでの残忍な都市破壊の記憶が
ただ大規模航空作戦や航空作戦センター運用経験無し
航空優勢なしでは活動せず、防空部隊は教義通り行動できず
前線との指揮通信も怪しい状況らしく・・・
3月15日付Defense-Newsが、これまでのウクライナ紛争をめぐるロシア空軍への評価について、Kendall空軍長官ほか米空軍制服幹部や、英国RUSIの航空専門家Justin Bronk氏の見方を紹介しています
米空軍幹部はおおむね、ロシア軍の侵攻がロシアの計画通り進んでおらず、様々なロシア軍の問題点も明らかになってきており、最新情報や状況を注視しているが、将来の米空軍の在り方を考える上で大きな修正が必要だとは考えておらず、ロシア軍を今後も当然フォローしていくが、新たに策定される国家安全保障戦略や国家防衛戦略においても、中国が第1の脅威である点に変わりない、との姿勢です
英国の専門家は、2015年以降のシリアにおけるロシア空軍の残忍な航空攻撃は念頭に置くべきだが、シリアでもロシア空軍は大規模戦力での航空戦力運用を行っておらず、この経験も不足していると見ています
ただし、近年ロシア空軍は350機ほど最新型航空機を導入し、既存機の近代化改修も行っており、活動の前提となる航空優勢確保や防空網の整備は不十分ながら、注意を怠るべきではないとも指摘も現状の兵力配備から無視できない状況です
Kendall空軍長官
●ロシアは“near-peer” competitorではあるが、(中国のような)米国と対等に渡り合うような状態にはない。この点で、ロシア軍への基本的な印象に変化はない
●米空軍はロシア軍活動に対処するため、領空保全措置に従事するF-15CのF-15EXへの更新、衛星偵察機能の更新、北極圏を中心とした通信能力の強化、そして核戦力の近代化に着手しており、これを淡々と進めていく事に変わりない。ウクライナ情勢から、新たな航空機調達や米空軍計画の大幅見直しは生まれていない
●ただし、ロシアは米国と通常戦力では対抗できないと結論づけ、米国と対等な位置に就くため、数年前に核戦力充実の道を選択しており、米国にとってトップレベルの脅威である位置づけは下がっていない
●一方で、ロシア空軍は通常戦力の近代化も怠っておらず、「航空脅威として警戒すべき質と量を維持している」
●ロシアも中国も専制主義国家であるが、基本的に中国の方が、米国との直接対峙に備えた近代化計画を進展させている。核兵器開発においても、米国とロシアの両方に対峙できる増強計画を進めている
●中国を自由にさせないため、2023年度予算案では先進兵器・自立化航空機・宇宙優勢確保を優先した事業を盛り込んでいるが、ロシアを無視してよいわけではなく、引き続き国家安全保障上の懸念である
Brown空軍参謀総長
●ロシア空軍の状況を見極めるべく最新の状況を注視しており、兵站や指揮統制に問題があり、制空権の確保も不調のようだが、私個人の印象として、ロシア軍への見方を変えるようなことにはなっていない
●米中央軍空軍司令官だった際、ロシア空軍のシリアにおける残忍な兵力運用や戦術を見てきており、ウクライナにおけるロシア空軍の動向を見る参考にしている
Justin Bronk英国RUSI研究員
●ウクライナを作戦行動範囲に置く約300機のロシア軍作戦機が、侵攻開始に先立ち機動展開してロシア西部や南部に集結しており、2015年の対シリア作戦で特徴的だったこれら固定翼作戦機の「heavy use」を連想させる
●過去10年間で、ロシア空軍は約350機の新型作戦機を導入しており、戦闘機Su-35S やSu-30SM、戦闘爆撃機Su-34が代表的な高性能機である。また第4世代機のMig-31や対地攻撃機Su-25の近代化改修も行っている
●ただ、シリアで複雑な作戦経験があるとはいえ、ロシア空軍は基本せいぜい2機編隊運用で、異なる機種が行動を共にすることはあまりない。また航空作戦指揮官は、数十機以上の航空戦力を脅威下で運用する計画立案や訓練・実戦の経験がなく、「航空作戦センター」のような指揮所運用も行っていない状態だ
Kelly空軍戦闘コマンド司令官
●ロシア製の防空ミサイルSAMは極めて高性能で、運用者が良ければ大きな脅威である。この点、ウクライナ軍が使用すれば性能を発揮しているが、ロシア軍はロシア製兵器と格闘している状態だ。露のドクトリン通りに活動できていない
●ロシア軍は制空権を持っている時には調子が良いが、航空優勢を失うとよくない。またロシア軍の侵略は、いい加減な製造管理のために故障が頻発している地上車両が邪魔しているようで、「製造現場での品質管理問題がロシアの長年の課題であることを、戦場の前線で我々は確認している」
Hinote米空軍司令部計画部長
●ロシア軍は、このような侵略作戦で不可欠な前線との通信と指揮統制で困難に直面しており、米国がNATOとの関係で強化すべき事項の反面教師となっている。ロシアはウクライナで通信確保が必要な事態に直面している
●つまり、「仮に宇宙へのアクセスを失えば、統合戦力は(通信手段を失って)一体性を喪失してしまう。友軍部隊が、互いの動きを把握して意思疎通することができなくなれば、上級指揮官との指揮通信を失えば、我々はなすべきことをできなくなる」との教訓である
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Kendall空軍長官が指摘のように、「通常戦力では米国と対抗できないと結論づけ、米国と対等な位置に就くため、数年前に核戦力充実の道を選択」したロシアの軍事戦略はある意味で効果を発揮しています。
しかし、指揮通信で問題を抱え、侵略部隊に随伴する(していないか?)防空部隊が機能不全で、「異機種混合運用が稀で」「2機編隊」での運用が限界の空軍では、約350機の最新鋭機も有効活用が容易ではないようです
ただ、Brown参謀総長やRUSI研究員が指摘する「シリアでの残忍な航空攻撃」が再現される可能性は残されており、ウクライナの検討を祈るばかりです
ウクライナ侵略に関する記事
「なぜイスラエルが仲介に?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-03-08
「ウ軍のトルコ製無人攻撃機20機が活躍」→https://holylandtokyo.com/2022/03/05/2787/
「ロシア兵捕虜への「両親作戦」」→https://holylandtokyo.com/2022/03/03/2776/
「欧州諸国からウクライナへの武器提供」→https://holylandtokyo.com/2022/03/02/2772/
「ウ軍のレジスタンス戦は功を奏するか?」→https://holylandtokyo.com/2022/02/28/2763/
「ウ紛争の最初の一撃は宇宙で!?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-02-17
「ウで戦闘機による制空の時代は終わる?」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2022-02-08