これまでの共同執筆体制から単独執筆へ
冒頭8ページに図表多用の「要約」
11月26日、防衛省の防衛研究所が、2011年3月に創刊号が発刊され今年で12冊目となる毎年恒例の「中国安全保障レポート2022」を発表し、中国軍の動向に焦点をあてています。
今年のレポートは、1991年の湾岸戦争以降に中国が本格的に研究を始め、2000年代半ばから提唱した「統合作戦構想」に焦点を当てていますが、中国軍が長年研究してきた情報化を基盤とする統合作戦構想について、習近平国家主席が主導した軍改革によって「構想を実現し得る体制を整備した」と述べています。
「統合作戦構想」とは、陸海空の「伝統的安全保障領域」に、宇宙やサイバー電磁波、認知領域など「新型安全保障領域」を連動させるもので、レポートでは、習近平指導部が建国以来最大の軍改革を断行し、習氏の統制力・指揮権限が強化され、統合化を重視した軍上層部の人事が行われたことなどを挙げ、先ほどの「構想を実現し得る体制を整備した」との表現を選択したと説明しています
ただ「中国の軍改革は2020年に完成することになっていた」当初計画とは異なり、軍を巡る権限争い、統合意識の希薄さ、訓練の形式主義、人材確保の難しさ、政治委員の役割と能力など、様々な課題が残されていると指摘し、今後2027年、2035年、そして2050年を一つの節目として課題克服に取り組むだろうと分析しています
もう一つ「レポート2022」の特徴は、これまで防衛研究所所員の共同執筆だったのが、今回は杉浦康之主席研究官単独の執筆となったことです。また冒頭8ページを使って図表が6-7割を占める「要約」部分を設け、ビジュアルに訴える手法を導入していることも新たな取り組みです。
以下では、「要約」部分の「結論」をほとんどそのまま、ちょっとだけ補足してご紹介します
中国安全保障レポート2022の「要約」の「結論」部分より
●人民解放軍は1990年代以降、米国の軍事理論や科学技術の発展に柔軟に対応するため、広範性を有する概念である「一体化統合作戦」構想を提唱した。
●そして伝統性(三戦、軍民融合、東軍関係の維持・強化)と新規性(長距離精密打撃能力の重視、新型安全保障領域へのシフト、智能化作戦の提唱など)を加味した独自性を追求することで「一体化統合作戦」構想の進化を目指した
●習近平の強いイニシアティブの下、軍改革により、人民解放軍は「一体化統合作戦」構想を実現し得る統合作戦体制を整備した。それに合わせて、統合作戦訓練・人材育成体制を発展させるとともに、「一体化統合作戦」構想と東軍関係の維持強化の両立を目指した
●軍改革において、人民解放軍はその統合作戦能力の進化に関し、多くの成果を獲得した。
●他方、軍改革を経ても、
1.中央軍事委員会・戦区・軍種における権限と役割の調整、
2.統合作戦意識の希薄さと軍種偏重主義、
3.統合作戦訓練の形式主義、戦区主体の統合作戦訓練と軍兵種訓練の連携、
4.高度科学技術人材の獲得・育成・維持の難しさ、
5.政治委員の指揮権限と指揮能力の在り方など、
なお多くの課題が残されており、その克服には時間がかかると目される
●人民解放軍の近代化のタイムスケジュールでは、一連の課題に対し、
2027年を短期的な目標:「建軍100年の奮闘目標を確保する年」に
2035年までに課題を基本的に克服し、国防と軍隊建設の近代化を実現
2050年までに、米軍に伍す、あるいは上回る能力を獲得することを目指す
●上記3つの年が節目の年として設定されている。これらの節目の年に、国防費の増額、新装備の導入、対外発言・対外行動の強化のみならず、統合作戦構想、組織機構改革とそれに伴う組織文化の形成、教育訓練と人材の質的向上、党軍関係などに注目することで、人民解放軍の統合作戦能力を多角的に見積もることが今後も重要となる
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「要約」の「結論」部分だけでは「よくわからない・・・」と感じた方、ぜひ「要約」8ページをご覧ください。そうすると益々「?」が生じて、約100ページの本文をのぞいて見たくなると思います。
それだけ、いろんな構想や言葉が出てきて、初めての方には難解だと思います。まんぐーすもその一人です
中国も西側軍隊の例の漏れず、いろんな構想を打ち出し、前言を軽々に否定できない中で修正を加えて「つじつま」を合わせながら、北京政府内での予算争いを戦っているようです
防衛研究所webサイトの「中国安全保障レポート」ページ
→http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/index.html
防研の「中国安全保障レポート」紹介記事
1回:中国全般→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-05-19
2回:中国海軍→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-02-17-1
3回:軍は党の統制下か?→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-23-1
4回:中国の危機管理→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-02-01
5回:非伝統的軍事分野→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-22
6回:PLA活動範囲拡大→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09
7回:中台関係→サボって取り上げてません
8回:米中関係→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-03-2
9回:一帯一路→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-02-11
10回:ユーラシア→サボって取り上げてません
11回:サイバー宇宙情報軍民→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-11-15