米大統領のアフガン政策演説に思う

Trump afgn3.jpg21日夜9時から、トランプ大統領がFort Myer陸軍基地でアフガン政策に関する政策演説を約25分間行いました。
日本でも、米本土横断の皆既日食ニュースにかき消されて小さい扱いながら、それなりに各種の分析を添えて報道されていると思いますが、まんぐーす自身の整理と頭の体操を兼ねて、概要と思うところを綴って見たいと思います
まず、マティス国防長官の情勢認識と発言など
今年6月上院軍事委員会で→→「米国はアフガンでnot winningであり、敵はsurging(勢力を増している)である。情勢に変化がなければ、タリバンにとっては今年も良い年で終わる(set to have another good year)だろう」
初夏にNATOが声明発表→→NATO加盟国はアフガン軍の支援・育成のため、派遣兵力を増強する
mattis.jpg8月18日Camp Davidに政権の安保関係者が一堂に会し、数ヶ月間にわたって検討してきたアフガン政策の取りまとめのため長時間にわたる協議を行う
8月20日夜→→「大統領は広範な南アジア戦略に関する戦略的決断を固めつつあり、戦術的で作戦的な決断を行いつつある
21日の大統領の演説後→→「大統領が発表した戦略の実行に取り組む。追加増派されるメンバーは、アフガン陸軍やアフガン空軍が、同国東部でISIS関連組織の脅威と対峙し、タリバンの巻き返しを防ぎ、アフガニスタンの安全保障を自ら手で維持するとの希望を達成することを支援する
トランプ演説の映像(約25分)

トランプ大統領の演説概要
米国史上最長の戦いに関する戦略を発表具体的な兵力等増強数に言及せず、スケジュールについても今後数ヶ月(in the coming months)とのみ表現し、「撤収の時期には縛られず、地上の状態によって判断する」と語る。
Trump afgn2.jpg●ただし関与に関する制約を減らすと説明し、最終目標をアフガニスタンにおける「永続的な勝利:enduring victory」と表現
●更に「同盟国等と協力し、相手の意思をくじき、戦力募集を干し挙げ、国境を越えての流入を防ぎ、彼らを手際よく打ち負かす」と表現
●また、強力で能力を備えたアフガン軍の養成が米軍派遣の目的だと語る一方で、アフガン問題に白紙の小切手を繰り出すことはしないとも表現
まんぐーすの情勢認識と思うこと
Dunford.jpg●マティス長官やダンフォード議長やその直属部下は、トランプ政権誕生以降、新政権の国防政策に関わる質問に対し、各種の政策文書(国家防衛戦略NDS、国家軍事戦略NMS、核態勢見直しNPR、ミサイル防衛体制BMDR等々)の検討の中で熟考中だと時間稼ぎ発言を繰り返してきたところ
「マティス長官がNPRに言及」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-15-1
「露を条約に戻すためには・・」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-20
Work2.jpg●一方で、予算管理法によって縛られ、強制削減や政府機能停止の危機と背中合わせの「綱渡り状態」は変わらず、加えて老朽装備品や関連インフラの更新や維持修理は待ったなしの状態で、トランプ大統領が年6兆円の国防予算増額を根拠なくぶち上げても、実際には現状維持だけで年10兆円の増額が必要だとWork前副長官は公式発言しているとところ(米軍予算は年間約60~70兆円規模)
「規模の増強は極めて困難」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-10
●本来このような厳しい環境になればなるほど、サイバーや宇宙など新しいドメインの新しい脅威も踏え、新たな抑止概念の整理やそれに伴う国防予算配分の優先順位議論をまず徹底的に行い、その後各論に入っていくべきであるが、米国の足元を見たロシアや北朝鮮や中国やイランやイスラム過激派が手を緩めない中、米国は危ういトランプ大統領を抱えつつ、とりあえずのその場しのぎ&時間稼ぎで何とか遣り繰り中
国防省の政治任用ポストの75%が未だ空席状態で、当分細部各論には入れそうもない状態が現実
本来あるべき根本的な議論
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止再考を」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03
「国家軍事戦略NMS検討を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-06
Goldfein.jpg一方で各軍種は、厳しい予算的遣り繰りの中でも、オバマ前大統領や民主党の締め付けから脱するトランプ政権の「軍事予算大幅増額」大風呂敷に期待し、また他軍種を差し置いても我田引水を勝ち取ろうと、「統合戦力の一翼を担い」とのスローガンとは裏腹に、自分のパイを増やそうとナリフリ構わぬ売り込み工作を推進中
米陸軍:巨大都市戦に備えよ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-22
「文書:将来の海軍発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-18
空軍は9月に爆撃機計画発表へ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-28-1
5分間でトランプに訴えたこと」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-04
●ホワイトハウス内の勢力争いだけでなく、各軍種間の予算争いも加熱する中、無い袖は触れない&米軍の前線部隊は疲弊している中、更に米国や米軍の「引き潮状態」を取り上げたいメディア対策も考える必要がある中、諸情勢を良く承知しているトリオ(マティス&ダンフォード&マクマスター)は、これまで公表してきたような文書や数字を、揚げ足を取られないように「非公開化」する方向に進んでいる
●例えば、2016年国家軍事戦略(NMS)が従来とは異なり非公開文書となった流れがそれで、この「見えない化」は今回のアフガン政策でも加速している。しかし一方で、ちっちゃな部隊展開を大々的に映像等でアピールする手法も頻発している(例:軍事面で実態として意味が無いB-1爆撃機とF-2戦闘機のツーショット公表など
「国家軍事戦略NMS検討を語る」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-06 
「3回目の航行の自由作戦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-17
Trump afgn4.jpg●そんな中でのアフガン政策は、本来は議論の最後に出てくるはずの極めて各論の話だが、現場の状況が危機迫っており、何らかの「緊急止血策」が必要なまでに追い込まれており、この時期に打ち出さざるを得なかったと推測
●一方で、足元の予算や米軍の状況を考えると大判振る舞いも難しく、作戦完了の期限を切れるほど効果的な策も打てないから、規模やスケジュールを伏せたまま「地上の状態によって判断する」と発表せざるを得ないのだろう
//////////////////////////////////////////////////////////
USS John S. McCain.jpgマラッカ海峡でタンカーと衝突した米海軍ミサイル駆逐艦マッケインの事故を見るに、米軍もゴムが伸びきった状態なのか・・・と心配になりますが、全くフォローしていないアフガン情勢も極めて厳しい状況なのでしょう
米軍の増強は4000名程度とか報道されていますが、厳しいと言わざるを得ません。そんな中、日本のメディアの「低俗さ」や「浮世離れ」を見ていると、本当に暗くなります
残暑の復活だけで気分がめいっているのに・・・
オバマ演説のトランスクリプト
→https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/08/21/remarks-president-trump-strategy-afghanistan-and-south-asia

タイトルとURLをコピーしました