16日の米露首脳会談で議題にするよう60名の有力者が
軍拡競争につながる無駄予算だと
日米共同開発のSM-3 Block IIA開発配備制限も要求
6月16日にジュネーブで予定されている初の米露首脳会談を前に、元国防長官ら60名の識者が3日、ミサイル防衛への投資を削減して米露中の軍拡競争を鎮静化するよう要求する文書をバイデン大統領あてに公開しました。
Perry元国防長官やオバマ政権時の安保担当大統領補佐官Ben Rhodes氏、バイデン大統領が上院議員だった際にともに上院議員だった元議員などによるレターは、大陸間弾道弾ICBMのミッドコース迎撃を狙うGMD(Ground-based Midcourse Defense)システム開発は失敗を繰り返して税金を浪費し、同時に中露を巻き込んだ軍拡競争を引き起こしていると訴えています
背景にはバイデン大統領が上院議員時代の2002年にミサイル防衛制限条約からの米国脱退に反対していた点や、上院外交委員長だった当時にミサイル防衛への投資を「ミサイル防衛への神学的な信頼」と厳しく批判していたことがあり、その筋の皆さんが「バイデンよ、昔はMD大反対派だったよな!」と声を上げ始めたという構図です
大統領あての書簡では、まず手始めに、日米が共同開発し、苦労の末2020年11月に模擬ICBMの迎撃試験に初成功した「SM-3 Block IIA」の製造や、同ミサイル搭載可能なイージス艦の建造を制限するよう求めているようです。
バイデン政権は先週発表の2022年度予算案で、GMD開発に約1000億円、またイージスシステム調達に約1100億円、海上発射ミサイル迎撃体開発配備に約700億円を要求しており、この書簡の要求に沿ってバイデン政権が動くとも考えにくいところですが、バイデンという人はBMDに対して上記のような態度をとってきた方だということを、これを機会に覚えておきましょう
3日付Defense-News記事によれば
●3日付で書かれた同レターはCouncil for a Livable Worldとの団体によって取りまとめられ、「(16日の米露種の会談は)米国のミサイル防衛システムと中露による攻撃兵器開発の軍拡競争を止める重要な機会だ」との認識を示し、
●「GMDシステム開発は、混迷の中で突き進んでおり、試験の失敗と多額の税金の浪費を招く極めて非生産的な様相を呈しながら、中露による米攻撃用核兵器の保有拡大という軍拡競争を加速する役割を果たしてしまっている」と現状を批判した
●また昨年10月のSM-3 Block IIAによる模擬ICBM迎撃試験の成功を「中露の戦略抑止への信頼を脅かすものだ」と否定的に捕え、SM-3 Block IIAの製造やイージス艦調達速度に制限を加えることで、軍拡競争を抑え戦略的安定を回復するようバイデン大統領に促している
●このレターをハドソン研究所のRebecca Heinrichs研究員は、「プーチンを喜ばすために、米国本土の防衛を疎かにするなどばかげた提案である」、「ならず者国家でミサイル能力改良に日々取り組んでいる北朝鮮に、チャンスを与えるようなものだ」、「米本土の防御システムを構築することは、何ら挑発的な行為ではない」と厳しく評価している
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ミサイル防衛というものは、敵のミサイルを、敵のミサイル価格の100倍以上(それ以上かも)のコストをかけて迎撃する点で、つまり、敵から大きなコストを押し付けられることを許容した点で、「敵の思うつぼ」に落ち込むことを選択した政策とも言えます
今話題のイスラエルの「アイアンドーム」にしても、PAC-3にしても、SM-3にしても、GMDにしても、敵のミサイル飛翔速度が上がる後者ほど、迎撃コストは急上昇します。
それでいて、敵のミサイルが同時多数で襲ってきたら、全てを迎撃することは不可能ですし、中露が保有する(おそらく北朝鮮も)弾道ミサイルの数量からすれば、完全な迎撃は到底不可能なことは、頭に置いておく必要があります。対応余裕時間のない日本では、迎撃成功率はさらに低下するということも・・・
トランプ時代のミサイル防衛議論
「MDRミサイル防衛見直しやっと発表」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-01-19
「MDRはまだなのか?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-25-1
「米ミサイル防衛の目指すべき道」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-12
「戦略国防次官にMD伝道者」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-07-1
「BMDRはMDRに変更し春発表予定」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-24-1
「米ミサイル防衛庁の2017年予算」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-02-12