この話は、米国内議論の枠組みを広く捉えないと
対中国にはTHAADとイージス艦コンビでは不十分と
F-35等のアセットより防御優先の米議会が支持する方向
21日、Davidson太平洋軍司令官が記者団に、太平洋軍の最優先事項として米議会に要望している「Homeland Defense System Guam」構想の一環として、2026年までにイージスアショア導入を切に希望していると語りました。
米太平洋軍は3月半ばに、議会の要求で「2021年から26年の間に必要な新たな投資」要望レポートを提出し、その最初で「360-degree persistent and integrated air defense capability in Guam」として約1800億円を要求しており、その具体的な装備として「イージスアショアシステム」を今回初めて司令官が明確にしました
3月の要望レポートは米議会から高評価を得ており、上院軍事委員長は「国防省は国家防衛戦略NDSを遂行するために、航空機や艦艇等の装備品の話ばかりしていたが、やっとその運用基盤にも目を向ける提案が出てきた」と語り、欧州に習って「Pacific Deterrence Initiative」を立ち上げようと下院とも連携して動き始めています
太平洋軍の要望は「グアム島の360度ミサイル防衛」、「長射程兵器」、「敵の長射程兵器探知追尾レーダシステム」、「分散基地の整備」、「分散運用や分散基地を支えるロジ能力の強化」、「同盟国の強化」、「演習場ネットワークの整備」などで、米議会からは「F-35なんか購入するよりこっちの方がはるかに優先で重要だ」との声が上がっており、限られた予算枠の配分に苦しむ国防省のアジア太平洋担当者からは困惑の声が上がっています
「上下院軍事委員長が対中国抑止PDI推進」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-29
日本では、「問題の」イージスアショアに関するニュースとして同司令官発言が紹介されていますが、米国ではアジア太平洋地域で中国を抑止するための投資優先議論として話題になり、国防省内では、太平洋軍の要望レポートが予想以上に議会の評価を得て、思わぬ展開に戦々恐々・・・といったところです・・・
22日付Defense-News記事によれば
●Davidson太平洋軍司令官は「Aegis AshoreはNo1優先であり、可能な限りグアム島に早く導入したい」、「国家防衛戦略を迅速に完全に遂行するために最も重要なアクションである」と語り、太平洋軍として要望していた「a 360-degree, persistent, integrated air-defense capability in Guam」の具体的装備を明らかにした
●同司令官は「Homeland Defense System Guam」の柱となるのが「Baseline 10 Aegis Ashore」だと具体的なシステムバージョンにも言及した。
●イージスアショア導入の理由について、「私が一番の導入推進者なんだが、まず第1に既に実用化されており、2926年までに導入可能なこと」を上げ、更に「将来の脅威に備えるには、現在配備中のTHAADとイージス艦の組み合わせより強力なシステムが必要だ」と語った
●そして「THAADとイージス艦の組み合わせは北朝鮮からのミサイルを想定したものだが、地域一番の脅威である中国を考える場合、弾道ミサイルや巡航ミサイル対応に、より強力で永続的な対処能力がグアムには必要だ」と説明した
●同司令官は更に、「イージスアショアが提供する指揮統制能力にも期待しており、イージスアショアとパトリオットなど他のシステムもリンクして、探知した目標への対処を総合的にレベルアップすることが可能になる」とも説明し、「2026年に運用開始するには、2021年に予算確保が必要だ」と訴えた
●太平洋軍の要望を歓迎する米議会は、欧州諸国をロシアの脅威から守るための「European Deterrence Initiative」に習った太平洋版の「Pacific Deterrence Initiative」を立ち上げて推進する動きを見せており、同司令官の要望のいくつかは受け入れられる可能性が高い
●このほかに、同盟国の能力強化や関係強化のための施策や、マルチドメイン作戦能力強化のための実験演習などの充実も同司令官は要望している。予算が認められれば位、アラスカ、加州、ネバダ、ハワイ、グアムなどの演習場を新たな手法でネットワーク化して使用し、これに日本や豪州のエリアも組み合わせ、敵の行動も含め、新兵器や第5世代戦闘機やIAMDシステムをシミュレーションして訓練効果を高めたいと要望している
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イージスアショア紹介動画(ロッキード作成)
中国大陸から見て、日本列島より遥か遠方にあるグアム島でさえ、THAADとイージス艦では不十分で、更にイージスアショアとパトリオット等々が必要との太平洋軍司令官の要望です。
イージスアショア撤退後の日本国内の議論を見ていると、イージスアショア代替議論は重箱の隅に向かいつつありますし、敵地攻撃議論にしても、移動目標対処の難しさや、「数万個」と言われる攻撃目標数を踏まえない勇ましい議論が先行しています。
まず、グアム島へのイージスアショア配備要望に至った脅威分析を、米軍に質問・確認することから始めてはいかがでしょうか
イージスアショアやPDI関連の記事
「上下院軍事委員長が対中国抑止PDI推進」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-05-29
「イージスアショア撤退の日本に提言」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-28
「1年前の太平洋軍要望事項」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-04-29
3月中旬の太平洋軍の議会への要望
細部は以下のDefense-News記事を参照ください
→https://www.defensenews.com/global/asia-pacific/2020/04/02/inside-us-indo-pacific-commands-20-billion-wish-list-to-deter-china-and-why-congress-may-approve-it/