米国:MTCR解釈変更で無人機輸出緩和宣言

他のMTCR参加国にも同様の解釈変更求める
「米国の利害を他国の人質にはしない」と独自判断で

Cooper MTCR.jpg24日、米国務省のClarke Cooper軍政問題担当次官補が、「搭載能力500kg以上かつ射程300km以上の無人航空機」輸出を「原則禁止」としてきたMTCR規定の解釈を米国として変更し、同範囲の無人機でも「速度が時速800km/h以下の無人機」は輸出可能とすると発表しました

これはMTCR参加国全ての同意を得たものではなく、同日別のChris Ford軍備管理担当次官補が説明したように、「今後他のMTCR参加国が同様の解釈スタンスを取るように働きかける」との性質のもので、この一方的解釈変更の背景に「MTCRに関する、如何なる米国改革提案をも拒否する国の存在がある」と語って、暗に米国の無人機輸出を妨害するロシアの存在を非難しました

このMTCR解釈変更により、諸外国から要望が多いMQ-9 Reaper(巡航速度370 kph)やRQ-4 Global Hawk(同575 kph)の輸出がMTCRによって縛られなくなると同時に、米国と豪州で別々に進められている次世代制空のカギを握る「無人ウイングマン機」共同開発の縛りも取り除くことになります

改めてMTCRについて復習します
MTCR3.jpg1987年発足のMTCR(ミサイル技術管理レジーム:Missile Technology Control Regime)は、主に巡航ミサイル技術の拡散防止のために設けられた枠組みで、あくまで非公式&自発的な集まりで、国際約束に基づく枠組みではない
大量破壊兵器の運搬手段となるミサイル及びその開発に寄与しうる関連汎用品・技術の輸出を規制することを目的とし、1987年当時の技術的解釈で「搭載能力500kg以上かつ航続距離300km以上の無人航空機」を「category-1」と区分し、MTCR枠組みで最も厳しい輸出規制「原則禁止:presumption of denial」の対象としている

米英など西側諸国35か国(なぜかロシアも)が参加し、参加国は、アルゼンチン,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,ブラジル,ブルガリア,カナダ,チェコ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,ギリシャ,ハンガリー,アイスランド,インド,アイルランド,イタリア,日本,韓国,ルクセンブルグ,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,ポーランド,ポルトガル,ロシア,南アフリカ,スペイン,スウェーデン,スイス,トルコ,ウクライナ,英国,米国であ
MTCR2.jpg一方で、米国製無人機がミサイルに分類されて輸出が大きく制限されている中で、この枠組みに縛られない中国製コピー無人機が、ヨルダン、イラク、サウジ、UAE、エジプト、パキスタン、ナイジェリアなど西側同盟国を含む国々に大量に輸出されている

現代の戦いで重要な無人機を、米国が同盟国に十分に提供できないことは以前から問題視され、米国務省が窓口になって、「無人機をMTCRの枠組みから外す」ことや、「category-1」の縛りから「速度が時速600や800㎞以下」を除外することなどを参加国に提案するも、イエメンなどで中国製無人機による民間人の犠牲者が急増し、ロシアだけでなく、米国内の軍備管理派からの慎重論もあり、MTCRの議論が進めにくい状態が生まれている皮肉な現状がある

24日付Defense-News記事によれば
Ford MTCR.jpg「速度が時速800km/h以下の無人機」は輸出可能とすると発表したClarke Cooper次官補は、「制限緩和の対象となる無人機は、あくまで大量破壊兵器運搬のリスクがない無人機であり、高速の巡航ミサイル、極超音速兵器、先進の無人作戦機は緩和の対象ではない」と強調した
Cooper次官補による公式発表の直後、ハドソン研究所で講演したChris Ford軍備管理担当次官補は、米国政府は他のMTCR参加国に米国と同じ解釈で対応するよう働きかけていくと説明すると同時に、「米国の提案にはすべて反対するとの基本姿勢を頑なに取り続けるMTCR国が存在する」と表現し、講演後にそれがロシアであることを示唆しつつ、MTCR内での協議が成立しない状況を説明し、米国による独自解釈変更への理解を求めた

米国の軍需産業界はこの解釈変更を歓迎しているが、前述のFord次官補が、この解釈変更でどの程度無人機輸出が拡大するかに関する質問に明確に回答しなかったように、MTCR以外にも兵器輸出に関する様々な認可プロセスが存在することを懸念する関係者も存在する
MQ-9 4.jpg例えばある関係筋は、「2018年にも、手続きが煩雑なFMSではなく、通常の企業による無人機の直接輸出販売が許可されたが、大幅な輸出の伸びにはつながらなかった。輸出先地域の軍事バランス変更を懸念する勢力が存在し、また民間人への被害を懸念する声もあり、輸出拡大は単純に進まない」と今回の解釈変更にも慎重な見方を崩していない

また同情報筋は、「民主党のバイデン大統領が誕生したら、MTCRの解釈変更をそのまま継続するだろうか?」との疑問も提示している。実際、上院軍事委員会の主要メンバーで民主党のBob Menendez議員は今回の解釈変更を厳しく非難し、「世界中に人権侵害をまき散らす恐ろしい兵器を広めることにつながる、デタラメな解釈変更だ」と直ちに非難声明を出してい
Stimson CenterのRachel Stohl副理事長も、「再びトランプ政権は、中長期的な米国の安全保障及び外交的な利害を犠牲にして、短期的な選挙目当ての経済的利益を優先した」、「MTCRは単に、戦いの様相を大きく変化させ、その使用の合法性や戦略的効果に深刻な疑問や懸念のある殺傷兵器が野放しなるのを抑制するために存在するのだ」とその解釈変更を非難している
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RQ-4 Misawa3.jpg細かなことですが、「F-35を英国と共同開発しているのに、MTCRのために無人機の共同開発ができないばかげた状態にある」との問題意識が反映され、米空軍や豪州が検討を本格化している無人ウイングマンを考え、「600㎞/h以下」ではすぐに限界を迎えるので「800km/h以下の除外」が必要だと理解されたのは良いことなのでしょう

世界の動きが速くなってきました。INF全廃条約とオープンスカイ図条約に続き、MTCRについても縛りをなくす動きが急激に進みました。より大きな視点でいえば、米中対立はすごい勢いで、関係国を巻き込みながら進んでいます。日本の報道をだけを見ていては、この動きについていけません。注意しないと!!!

外務省によるMTCR解説
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mtcr/mtcr.html

米国の武器輸出管理の緩和問題
「国防次官:半年で武器輸出規制緩和へ」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-07-18
「MTCRの縛りで中国に無人機輸出で負ける」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2020-06-04
「2018年の武器輸出促進策」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-11-10-2
「中国無人攻撃機が中東で増殖中」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-10-06-2
「輸出手続きの迅速化措置」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-07-21-1
「肩透かし無人機輸出緩和」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-21-3
「4月にも武器輸出新政策か」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-03-18-1
「トランプが武器輸出促進ツイート」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-09-06
「違法?サウジに緊急武器輸出」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-05-25
「無人機輸出規制の見直し開始」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-04
中国と無人機
「中国がサウジで無人攻撃機の製造修理」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-29
「中国が高性能無人機輸出規制?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03
「輸出用ステルス機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-27

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