トランプ大統領が米砕氷艦計画の再評価指示

蒸し暑いので、涼しげな話題を
北極圏への覇権争い激化の中で
実質稼働砕氷船が1隻しかない米国が露中に対応

polar security cutters3.jfif6月9日、トランプ大統領が関係省庁(国防、国務、国土安全保障、商務省と予算管理室)に、現在進みつつある3隻の大型砕氷艦(PSC:polar security cutters)建造計画に関し、予想される様々な任務を踏まえ、本当に現在の計画が最適かどうか60日間で見直すように「Memo」を発出した模様です

北極海の氷減少に伴い、ロシアのみならず中国までもが北極圏での活動を強化し始め、ロシアが原子力推進6隻を含む10隻程度の外洋航行砕氷船(合計では50隻との統計も)を、プーチンの大号令の下、20隻体制に増強を進める一方で、米国は建造から40年以上経過した老朽の大型砕氷船「Polar Star」と中型の科学調査用砕氷船「Healy」しか保有がなく、共に2029年には廃艦予定で、実質唯一使用可の「Polar Star」も年間6か月間の稼働が精いっぱいのなさけない状態です

Arctic ship.jpgそんな中、沿岸警備隊やアラスカ選出議員の長年にわたる砕氷艦建造要望が少し実を結び、2019年4月には40年ぶりに大型砕氷船(PSC:polar security cutters)を約810億円で契約し、2021年度予算にも2隻目を要求して3隻建造計画がスタートしたところです

トランプ政権は北極海への関心を最近強めているといわれ、大統領は空母を減らして砕氷艦だと沿岸警備隊士官学校卒業式で述べたこともありました。「Memo」の背景がどこにあるのかは細部不明ですが、砕氷艦の話題は2017年以来放置していましたので取り上げます

9日付Defense-News記事によれば
9日付の大統領からの「Memo」は、まだ契約に至っていない大型や中型のPSCが備えるべき能力と必要なコストに関する、より広範な視点からのアセスメントを求めており、60日間で行うよう要求している
polar security cutters.jfifそして「Memo」は、現在計画されている3隻の中型PSC計画に関する変更を示唆しており、北極圏の資源探査や開発、海底ケーブルの敷設や維持整備などを含むより広範な安保&経済任務を想定した整備体制見直しを求めており、中型PSCだけでなく大型PSCでのケース分析も期待している模様である

いろいろケースでの分析を踏まえ、「Memo」は最適なPSCタイプの組み合わせや数量を見極めるよう求め、北極圏での永続的なプレゼンス維持と、南極圏での活用も視野に入れた方向性を追求しようとしている
「Memo」はまた、米国砕氷艦の拠点として米国内2か所と国外2か所の選定を求めており、今年度の国防授権法で求められている北極圏内1か所選定に続く拠点整備の動きである

polar security cutters2.jfif現在の砕氷艦3隻体制構築計画は、現有の2隻の砕氷艦が廃艦になる20209年完成を目指しているが、トランプ政権の危機感は、ロシアだけでなく、特に中国が北極圏に強い関心を示し始めていることから来ていると、カーネギー国際平和研究所のErik Brattberg欧州部長は見ている
砕氷艦をリースで借りる手法についても繰り返し話題になるが、現時点で候補国としてCanada, Finland、Swedenの3か国があり、各国が対応可能とのシグナルを出しているが、特定の一時的な任務を想定したレンタルなら利用可能性があるが、様々な任務と環境が想定される中では、現実的な選択肢ではないし、費用面でも高価になるとして、沿岸警備隊関係者は反対してい
///////////////////////////////////////////////////////////

ロシアの20隻体制と比べると、米国の3隻体制は寂しい限りですが、これが現実、現在位置です

Arctic2.jfif中国は砕氷艦の建造以外に、「一帯一路」構想の下、北極圏周辺地域に経済進出を試みており、例えば欧州の主要港湾の10%mの貨物スペースは中国企業が抑え、デンマークからの独立運動が起こりつつあるグリーンランドのかつて米軍基地だった土地への入札や飛行場建設入札に中国企業が食い込んだりと、油断も隙もありません

加えて、昨今のコロナ&人種問題に端を発する米国内の混乱に乗じ、様々に侵食を試みていることでしょう・・・・

北極に関する話題
「グリーランドに中国企業」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-09-08-4
「北極航路ブームは幻想?」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-13
北極圏:米国防省と米軍の動き
「米空軍2トップの寄稿;北極圏と米空軍」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-13
「トランプ:空母削って砕氷艦?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-19
「米国砕氷船実質1隻の惨状」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-07-16-1
「米軍北極部隊削減と米露の戦力差」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-11-02
「米軍C-17が極地能力強化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-02
「北極海での通信とMUOS」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-25-1
「米国防省の北極戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-23-1
「米海軍が北極対応を検討中」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-11-20
ロシアの北極圏活動
「ロシアが北極圏の新しい軍基地公開」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30
「露軍が北極に部隊増強」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-04-1
「露が北極基地建設を加速」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-09-09
「ロシア軍が北方領土に地対艦ミサイル配備へ」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-03-26

世界の安保・軍事情報を伝えたい ブログ「東京の郊外より」支援の会
米国を中心とした世界の軍事メディアが報じている、世界の標準的な安全保障情報や軍事情報をご紹介するブログ「東京の郊外より・・・」を支援するファンクラブです。ご支援お願いいたします。
ブログサポーターご紹介ページ: 東京の郊外より・・・
お支援下さっている皆様、ありがとうございます! そのお気持ちで元気100倍です!!! ●赤ちょうちんサポーターの皆様(3000円/月) ●ランチサポーターの皆様(1000円/月)  mecha_mecha様  ●カフェサポーターの皆様(50...
タイトルとURLをコピーしました