「高価な対策も功を奏していない」
一般の大学より事案が多いとの統計も
30日、米国防省は隔年でまとめる3軍士官学校での性的襲撃・暴行(sexual assault)事案統計を発表し、「2018-2019年度」の同事案の訴えが149件と、前回「2016-2017年度」調査時の117件から大きく増加したことが明らかになりました。この統計には、各士官学校入学前の事案も一部含まれているようですが、同条件での統計ですから増加傾向には変わりありません
「2018-2019年度」の学生数あたりの発生率は一般大学の発生率と同レベルだと言うことですが、事もあろうに、仮にも軍の指揮官を養成する士官学校の規律レベルが、一般大学生のそれと同レベルとの結果に、驚くばかりです。この問題は少なくとも7年ほど前から国防省内で問題視されており、各種の対策を講じてきた中で改善が全く見られない点で極めて深刻です
昨年4月には、陸海空軍長官が一堂に会し、一日かけて本件の分析と対策について協議しましたが、協議後の会見で「これ以上有効な対策が浮かばない。一般大学の取り組みに学びたい」と空軍長官が代表で述べるなど、全く光明が見えない状態です
この問題は士官学校に限らず、米軍全体の問題であり、米空軍から統合参謀本部議長が長年出ていないのは、特に米空軍内の性的暴力事案の増加が著しく、対策が不十分で改善が見られないとの批判が集まっているからだとも言われるくらいです
そういえば米空軍士官学校では、性的襲撃問題の対策を担うべく2003年に6名編成で設置された「性犯罪対処室」が、2017年に職務遂行不十分(細部不明)で室機能を停止され、1ヶ月以上捜査を受けるとの唖然とする事案まで発生していました
統計を発表する対策担当官は「対策の効果は部分的で、多くの課題が残っている」と述べ、この問題対策に立法を検討する米議員からは「国家的な失敗で不名誉なこと」と表現して批判する状態ですが、対策で言及されているのは、まず「被害者が申し出やすい環境整備」であり、問題の根深さを感じさせます
30日付Military.com記事によれば
●30日「Report on Sexual Harassment and Violence at the Military Service Academies」とのレポートが公開され、3軍の士官学校での性的襲撃報告件数が、「2018-2019年度」に149件と、前回調査時の117件から大きく増加した
●軍種別では、陸軍士官学校が57件、海軍が33件、空軍が40件である。事案には2つの区分があり、捜査につなげず、犯罪者の上司にも通報されない内密の報告「restricted report」と、制限を設けない捜査につながる「unrestricted report」の2つである
●同レポートによれば、女子学生の中で28.5%が望まない性的接触を受けた経験があり、前回「2016-2017年度」調査時の21.6%から上昇しており、一般大学女子の26.5%よりも高い被害率である
●男子学生も5.8%と、前回調査より3.3%上昇しているが、一般大学での数値7.1%よりは低い
●米軍全体での性的襲撃の報告数は、最新の統計がまとまっている2018年で20500件と、その前の2016年調査の14900件から大幅に増加している
●国防省担当部署のElizabeth Van Winkle博士は、「国防省は、士官学校での性的襲撃との戦いにおいて、高いコストに見合った成果が上がっていないと認識している」、「将来の軍指導者を育てる士官学校は、秩序と規律の場であるべきで、このような行為を一掃する必要がある。しかし我々の取り組みは一部の分野でしか効果が確認できず、多くの仕事が残されている。対処の手を緩めることなく、威厳と敬意を持って軍メンバー全員が扱われるべきだとの大前提を守るため、継続的に取り組んでいく」とコメントを出している
●このような厳しい結果を受け、米議会でも超党派の議員が対策の立法化に取り組んでおり、自らの小さな規律違反が暴露したり、復讐を受けるのではないかとの恐れから、性的襲撃被害の通報をためらうことがないような立法措置案を公表している
●提案議員団の一人である民主党のJackie Speier下院議員は、「現状の性的襲撃の状況は、国家としての失敗と不名誉である」と嘆き、「法案は、被害者が口をつぐんで被害を隠そうとする文化を変えるためのもので、国防省として犯罪者に責任を負わせ、被害者が小さな規律違反のために申し出をためらうことが無いよう仕向けるものだ」と説明している
●「Safe to Report Act:安全に通報できる法」は、性的被害を受けた被害者が、未成年飲酒や門限破りやお酒保持等のより小さな規律違反がばれることを恐れ、性的暴行被害を訴えないことを防ぐため、小さな規律違反を問わないことを規定する法案である
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被害を報告しやすい態勢を整えたから報告される事案数が増えているのかも・・・とも少しは思いますが、米軍の大佐レベル以上のセクハラ事案が報じられることも急増している印象があり、米国社会全体や米軍入隊者の質の低下を懸念する声もあり、本件に関し改善の兆しはないと見るべきでしょう
被害通報者への「復讐」防止も実効性を挙げるのは難しいようで、各レベルの指揮官が兵士を集め、「復讐などもってのほか」と訓示したり、セクハラや性的襲撃防止教育をする程度では、効果は薄いのが現状でしょう
ロシア軍や中国軍の状況も知りたいところですが、男性と女性が一緒に働くと言うのは、それだけ難しいと言うことでしょうか。人間はなかなか進歩しないようです。
米軍での性的襲撃事案多発を考える記事
「米3軍の長官が士官学校でのセクハラ問題議論」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2019-04-10
「現役パイロット時に上官にレイプされた」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-03-08
「空軍士官学校の内通者が反旗」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-12-10-1
「性犯罪対処室が捜査対象」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-04
「性犯罪は依然高水準」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-06-1
「性犯罪は依然高水準」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-05-06-1
「暴力削減にNGO導入」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-01-05
「国防長官が対策会見」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-19
「指揮官を集め対策会議」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-12-04
「海軍トップも苦悩」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-11-20
「女性5人に一人が被害」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-10
「空軍内で既に今年600件」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-19-1
「米軍内レイプ問題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-01-19