フロノイ元国防省政策担当次官等から意見聴取
「72時間」中国にリスクを与え続ける能力などを提言
15日、米下院軍事委員会がMichèle Flournoy元国防省政策担当次官(WestExec)やMichael McDevitt元海軍少将(Center for Naval Analyses)やAndrew Hunter元国防省緊急調達部長(現CSIS)を招き、対中国を考える上でとるべき政策について意見聴取を行い、核抑止を超えた創造的な中国抑止を考えるべきとの主張が語られました
内容は広範に渡り、米軍事メディアも様々な視点から「つまみ食い」紹介していますので全体像を掴むのが難しいのですが、「抑止における核兵器の位置づけ」、「海軍の355隻体制や空軍の飛行隊数増強案は時代遅れ」、「超超音速兵器の位置づけ」、「戦闘管理システムの重要性」、「中国軍の発展に伴う脆弱性」などなど興味深い視点で様々な意見が飛び交ったようですのでご紹介します
繰り返しになりますが、下院軍事委員会の議事録や事前提出資料を見たわけではなく、断片的な各種報道から推測も交えてご紹介するものですので、ご興味がある方は15日付米空軍協会web記事や16日付Defense-News記事のほか、下院のwebサイト等から正確な情報を入手されることをお勧めします
米空軍協会やDefense-News記事によれば
●Flournoy女史は、現代の抑止は冷戦時に形成された核抑止が中心となっているが、核戦力量が米国と比較して圧倒的に少なく、サイバーや宇宙能力に注力する中国には、ロシアとは異なる抑止の考え方が必要だと述べた
●また、中国が「一帯一路」構想を推進する中では、米国政府全体が多様な視点から創造的な手法で中国の安全保障感覚に働きかけていく姿勢が求められる。特に中国の指導層が何をどのように考えて意思決定しているか、他国からは把握しにくいことから、注意を要すると主張した
●同女子は、「中国も米国も、戦争による大きなコストを理解しているので、戦争には非常に慎重なはずだ。しかし、にもかかわらず、中国首脳が米国やその同盟国の行動の意図を見誤り、突発的な行動や侵略的な行動に出る可能性は残されている」と述べ、米国防省に対し、中国が危険な一歩を踏み出さないように「明確な一線」を引いておくことが最重要だ、と語った
●そして今後10年間に双方の誤解による米中紛争が生起する可能性が最も高いと述べ、その理由として、(中国と対峙する)ヴィジョンを明らかにしておきながら、実際の装備や兵器を入手してて戦力化するまでの空白期間が最も不安定であるからと説明した
●更に同女史は、核戦力に大差があり、サイバーや宇宙にドメインが拡大する中では、核が基礎にありつつも、軍備管理、通常兵器による南シナ海等での悪しき行動の抑止、新たなコンセプトでの抑止が重要であり、米国防省は多額の経費が必要な核戦力の維持近代化を行うにしても、他のオプションとのバランスをよく考えるべきと主張した
●また米海軍がぶち上げた355隻体制や空軍飛行隊の増加要求などは時代遅れのアプローチであり、時間と効果の規模で抑止への貢献度を把握すべきだと述べ、例として、72時間中国海軍艦艇を脅威リスク下に置くことが出来るかどうか、との視点を提示した
●そして具体策として、短期的にはB-2ステルス爆撃機に米海軍の長射程対艦ミサイルを搭載して在空させる手法を上げ、長期的には中国を取り巻く地域に陸軍や海兵隊の長射程砲や超超音速兵器を分散して地上配備する方法を提言した
●この際、「中国海軍艦隊を1日で撃滅する能力が必要ではなく、中国に対して、侵略行動を起こせば、全中国艦隊を危険にさらすことになると知らしめることが重要だ」と説明した
●その他、同女史は、本格紛争を強調するあまり注目度が最近薄れつつある特殊作戦部隊について、グレーゾーンでの作戦が対中国でも重要なことを注意喚起し、サイバードメインではサイバー行動規範を何らかの形で共有し、米中双方がレッドラインを意識して行動を抑制するように持ち込むべきだと語った
●超超音速兵器(hypersonic weapons)に関しては、既にICBMが存在することから、あくまでも戦術兵器としてとらえるべきとの意見や、戦いの上で重要性はそれほど高くないが、敵を混乱させるのに有効だとの意見が、元海軍少将とHunter氏から出された
●元海軍少将からは、攻撃原潜の配備数を、現在想定されている8隻から15隻にまで増加することや、豪州などの国に中国のA2ADに対処する能力を強化させるべきと主張し、フロノイ女史と同様に地上配備長射程ミサイルを西太平洋地域に分散配備することの重要性が提起された
●3名の専門家だけでなく下院軍事委員会メンバーからも、多様な兵器システムを結んで有機的な作戦運用に導く指揮統制システムの重要性が主張され、下院軍事委員長も最重要の課題の一つだとの見解を示し、専門家も、サイバー戦下でも強靭で、AIを活用し、最新技術で迅速に性能向上が可能な指揮統制システムの必要性を強調した
●フロノイ女史は、約9000億円を捻出してC2システムに取り組む米空軍の努力を讃えつつも、米議会もその重要性を理解して、従来なかった新規分野であるC2システム構築に資源配分すべきだと訴えた
●一方で、中国軍の近代化が急速に進む中、中国軍も目標情報の発見探知追尾や作戦指揮統制をネットワークに依存する度合いを強めており、米軍やその同盟国は、これを中国軍の弱点と捉え、電子戦や宇宙での戦いに備えるべきだと専門家たちは主張した。
●行政事務面でHunter氏は、米国防省の調達事務が煩雑で鈍重であるため、最新技術の導入に時間が掛かることや、資金繰りの厳しいベンチャー企業が予算承認業務で長時間待たされること嫌って国防省との契約を避ける実態を問題視した
●また、装備品購入と研究開発費、更には部隊運用経費間の相互流用が難しいことも問題で、柔軟で機敏な技術や装備調達を妨げていると指摘した
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だらだらとご紹介しましたが、色々な面で頭の整理になり、考えるきっかけを与えてくれる専門家の議会証言だと思います
米軍事メディアの記事の訳や理解に問題がある部分も多分にあると思いますが、雰囲気をご理解いただければと思います
ご興味のある方は、リンクの張ってある15日付米空軍協会web記事や16日付Defense-News記事をご確認ください
米空軍協会記事→https://www.airforcemag.com/experts-urge-us-to-develop-china-deterrence-strategy/
Defense-News記事→https://www.defensenews.com/congress/2020/01/16/congress-wrestles-with-deterring-chinabeyond-nukes/
21世紀の抑止概念を目指す
「新STASRT条約は延長の危機」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-02-21
「3本柱はほんとに必要か?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-22
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03
米国核兵器を巡る動向
「今後10年の核関連予算見積が23%増」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-01-26
「ついにINF条約破棄へ」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-20-1
「サイバー時代の核管理」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-05-02
「議会見積:今後30年で140兆円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-11-02-1
超超音速兵器関連
「攻防両面で超超音速兵器話題」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-09-08-1
「超超音速兵器への防御手段無し」→https://holyland.blog.ss-blog.jp/2018-03-21-1