衛星運用に関する国際規範がない中での疑心暗鬼
他国の静止衛星を渡り歩くように接近する露衛星への懸念
3日付C4ISRnetが、2014年9月にロシアが打ち上げた静止衛星軌道を渡り歩いて他国の衛星に接近する奇妙な衛星「Luch(Olymp)」を取り上げ、少ない情報や専門家の意見からその用途を推測し、あわせてこのロシア衛星が提起する宇宙に関する規範が存在しない問題を紹介しています
ロシアだけでなく、米国も中国も同様の能力を持つ衛星を宇宙空間に保持しているようですが、米国は怪しげなロシア衛星のような行動はせず、中国衛星は中国の他の衛星にのみ接近していることから問題視されていないようですが、潜在的な能力は各国保有しているようです
怪しげな動きのロシア衛星については、昨年8月と10月に、米国務省の軍縮担当次官補が軍縮会議や国連本部の会合で取り上げて問題視していましたが、その際取り上げられた衛星と同じものなのかはっきりしません。(国務次官補指摘の衛星は2017年に打ち上げとのことですから、異なるかもしれません)
「再び同高官が指摘」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-26
「米国務省高官が怪しげな露衛星を指摘」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-15
衛星通信会社Intelsatの衛星への接近事例が多いとの指摘があり、通信情報を傍受(盗む)しているのでは・・・との懸念があるようですが、良くわからないし、調べるすべもないのが現状の様ですが、知識不足の宇宙のことですので、とりあえずご紹介しておきます
3日付C4ISRnet記事によれば
●2014年9月に打ち上げられたロシアの秘密衛星「Luch(Olymp)」は、静止衛星軌道にある他の衛星に目的不明の接近を繰り返しており、衛星運用関係者の間で懸念が広まっている
●静止衛星は、互いに干渉や衝突を避けるため、相互にそれなりの間隔をとって打ち上げされるが、ロシアはこの慣行を無視し、他の商用や政府所有の衛星軌道をわらり歩くような行動をしている
●このロシア衛星は、理論的には接近した衛星から発信される情報や当該衛星に向けて地上や他衛星から発信された情報を傍受することが可能であるが、地上から22000マイルも離れた場所での出来事であり、公開情報も少なく、何が行われているかは判然としない
●衛星情報を収集して公表している「TS Kelso of CelesTrak社」の8月27日付レポートによれば、同ロシア衛星は現在、Intelsat17衛星に接近している
●同社は通常衛星の軌道上の変化を追っているが、衛星「Luch(Olymp)」に関してはいつも軌道間を渡り歩いているので、その動きが止まった時に注意喚起を行っている。他の専門機関のレポートによれば、同ロシア衛星は過去5年間に17回異なった経度の静止軌道に移動している
●ロシア政府は衛星「Luch(Olymp)」について何の情報も公開せず、将来計画についても関係者は議論しない姿勢を取っている。西側の衛星企業がロシア側に問いただしても、意味のある返答は得られない状態が続いている
CSISのTodd Harrison航空宇宙プロジェクト部長は
●米国でさえも、上空4万km以上にある衛星「Luch(Olymp)」については、最先端の望遠鏡から得られる情報も限られており、継続的にその行動を監視することで情報を得るしかない
●これまでの観測からは、静止軌道上の衛星を渡り歩いており、何らかの衛星チェックやデータ収集と見られる。他の衛星の接近観察やデータ収集が、直ちに攻撃的とか不安定化を招くわけではない。しかしロシアのような国が行っていることには当然懸念がある
●唯一のあり得そうな対策は通信の暗号化である。地上や他の衛星との全ての通信を暗号化することである。通信を暗号化せずに安心しているようではだめだ
●ただ当該ロシア衛星の動きをみていると、より大きな地政学的動きが背景にあるようにも思えるが、何の連絡もなく他の衛星に接近することは大きな災害へのレシピとも言え、非常に懸念している
Secure World基金のBrian Weeden計画部長は
●米国から見て中露の動きは、情報収集と宇宙状況把握の2つの活動に興味を持っていることを示しているようにみえる。当該ロシア衛星に関しては、電子情報収集を行っていると推測している
●また衛星「Luch(Olymp)」は、打ち上げ当初は何か月も一か所の軌道に滞在していたが、最近は移動間隔が短くなっている。
●接近対象の衛星の種別から見ると、全ての接近事例を把握しているわけではないが、衛星通信大手のIntelsat社の衛星に接近している事例が多い。本件に関しIntelsat社からコメントは得られなかった
●いずれにしても、地上から遠く離れたところでの出来事で、各衛星の運用者が全く同じデータを元に衛星の位置把握を行っているわけではないので、衛星が接近することは不測の事態を招くリスクを格段に高める
●別の大きな問題は、現存する法的枠組みでは、ロシアにこのような行動を止めさせることが困難である。このような衛星活動に適応できる広く共有された規範が国際的に存在しないのだ
●宇宙において、どの様な行動が正常か? どのような行動なら責任ある行動と言えるのか? 他の衛星に接近しすぎとは、どのくらい近づいた場合なのか? などなど判断基準がないのだ
●衛星「Luch(Olymp)」のような行動を縛る枠組みがない背景の一つは、ロシアだけがこのような能力の保有者ではないためである。米国は「Geosynchronous Space Situational Awareness Program」の中で、Luch(Olymp)」のような行動が可能な衛星を保有しているし、中国も同様であるが、中国の場合は自国の衛星にのみ接近しており話題になっていないだけである
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上記のロシア衛星と関係はありませんが、欧州宇宙機関(ESA)が3日、ESAの地球観測衛星が米企業スペースXの通信衛星と衝突する恐れが生じたため、高度を変えて緊急回避させたと発表しており、宇宙での衛星近接は「そこにある危機」になりつつあるようです
上記事案でのスペースXの衛星は、1万2千基で地球全域をカバーする計画の第1弾として5月に打ち上げた60基のうちの一つで、同様の衛星群構想は他の企業も構想しており、宇宙が混雑して人の操作による回避が追いつかなくなる事態が懸念されているようです。
ついでにESAは、「人工知能(AI)技術などを使って自動で回避させる新たな仕組みが必要だ」としているらしいです。
米国務次官補が国連等で指摘した露衛星の不審な動き
「再び同高官が指摘」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-10-26
「米国務省高官が怪しげな露衛星を指摘」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-08-15
宇宙アセットへの脅威分析
「別のレポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-15
「CSISレポート」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2018-04-14-3