激震!次期ICBM選定からボーイング怒りの撤退

現有ミニットマンⅢ製造企業が不満一杯決別レター
16日に提案要求書が出た直後に
Caret Boeing.jpg23日、ボーイング社の軍事部門CEOであるLeanne Caret(ボーイング全体の副社長)女史が米空軍に対し、16日に米空軍から発出されたばかりのGBSD(次期ICBM)提案要求書RFPが不公平な内容だと書簡で訴え、ボーイングとノースロップ・グラマンの2社のみが対象の機種選定から撤退すると怒りを爆発させました
先日ご紹介したように、次期ICBMであるGBSD(Ground Based Strategic Deterrent) は2017年8月に候補企業を2社に絞り込み(ロッキードがこの時点で脱落)、2社にそれぞれに約370億円を提供して基礎研究をやらせ、2018年後半から提案要求書RFPの内容を両企業の意見も聞きながら検討してきたものです
GBSD3.jpg米空軍協会機関紙が入手したボーイングから空軍への書簡は、提案要求書の内容が一方の企業に有利になりすぎていると懸念を伝えてきたのに改善されておらず、このような不公平な形での機種選定に多大な労力を投入するのは無駄だ、と訴えているようです
米空軍や国防省としては、2社が争って競争原理が働くことを欲しているのですが、一方で2社共同提案もOKするとの狭い業界の複雑な内部事情を示唆するような姿勢でもあり、ボーイング側も真に撤退を決断したものか、これを機会に提案要求書を有利に書き換えさせようとしているのか疑わしいところで、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の住む米軍需産業界の底知れぬ世界を垣間見る気分です
25日付米空軍協会web記事によれば
●米空軍協会が入手した23日付のボーイングから米空軍への書簡には、「GBSDの設計製造開発フェーズの計画は、2社の提案が公平に競争できる環境を提供していない>」、「(昨年からの企業意見聴取を踏まえた)修正RFPも、完全に公平でオープンな競争の条件を満たしていない」との言葉が並び、現有ミニットマンⅢ製造企業であるボーイングはGBSDに提案しないと記されている
Caret Boeing3.jpg●ボーイングは、競争相手であるノースロップ・グラマンが米国に2社しか存在しないロケットエンジン製造企業(Aerojet RocketdyneとOrbital ATK)のうち、Orbital ATKを2017年9月に買収したことで公正な競争環境が損なわれたと当時から訴えていた。
●ちなみに、Orbital ATKがノースロップに買収される前は、ボーイングとノースロップ・グラマンは両方とも、2つのロケットエンジン企業両方と取引を行っていた
ボーイング軍事部門CEOのLeanne Caret女史は、「政府機関にこの不公平の是正を訴えてきたが、企業間の競争を妨げ、スタート時点からコスト・資源・システム融合の面等で不公平にノースロップ側に有利な状況改善に、何ら対策が打たれていない」と訴えている
●また同CEOは、買収されたノースロップ配下の企業が、ボーイングにも同等に固体燃料ロケットエンジンを確実に提供するか政府機関が確認する必要があるが、米国政府のいかなる機関にもそのような動きが見られないと指摘している
GBSD2.jpg米空軍は2社が共同で提案することも認めているが、ボーイング側は「ノースロップ側が最初から持つアドバンテージへの対応がとられない限り、単独提案であれ、共同提案であれ、ノースロップ側に不公正に有利なことに変わりはない」、「既に始まっている競争の中で、これから5か月で共同開発を提案するのは非現実的だ」と突っぱねている
●そして、(米空軍から提供された約370億円の基礎研究費の成果を含む)ボーイングのミサイル技術は、他の分野への応用を検討する、としている
●国防省はGBSD開発の経費管理を厳格にするため、モデリングやシミュレーション技術を駆使して対応する予定だが、米議会のGBSD賛成派でも2社からは詳細な情報提供を求める声を上げているほか、反対派にはミニットマンⅢ延命を求める声やICBM自体の存在再検討を求める声がある
米空軍報道官は、現時点では選定は継続状態にあると述べ、ボーイングの撤退決定についてはコメントしなかった
専門家は米空軍は難しい選択を迫られていると述べ、ボーイングを再び選定に参加させるために提案要求書の修正をしてGBSD計画全体を遅らせるリスクをとるか、ノースロップ単独で進めて競争欠如によるコスト上昇のリスクを負うかの選択だと説明した
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Caret Boeing2.jpgボーイングの軍事分野CEOであるLeanne Caret女史は1966年生まれの53歳。父親もボーイング社員で、カンサス州立大学卒業後からボーイング一筋で、ボーイング軍事宇宙分野の売り上げ約30兆円をけん引する人物です
KC-46Aの開発トラブルが続き、完成機内部の隙間から放置された工具や部品が多数見つかり、5000億円近くの経費超過を出しつつも、フォーチュン誌とブルームバーグが発表する「Most Powerful Women50」等に選ばれるなど、剛腕ビジネスウーマンとして名を馳せている方です
負けてもタダでは終わらないということなのか、長期間にわたる安定したドル箱ICBM契約を何としても勝ち取るための泥沼戦略なのか、今後も生暖かく見守りたいと思います
ICBM後継に関する記事
「提案要求書RFP発出」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2019-07-18
「次期ICBM(GBSD)企業選定」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-08-27-1
「初のオーバーホールICBM基地」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-15
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1

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