新たな時代:サイバー攻撃に対し即座に武力で反撃

5月5日、静かに世界は新たな武力行使の歴史を刻む
土屋大洋4.jpg10日付ニューズウィークJapan電子版が、慶応大の土屋大洋教授によるコラム「サイバー攻撃にミサイルで対抗:イスラエルはサイバー・ルビコン川を渡ったか」を掲載し5月5日にイスラエルがパレスチナ武装勢力ハマスが行ったサイバー攻撃に対する反撃として、ハマスのサイバー拠点を同日中に無人機からミサイル攻撃したこと取り上げました。
この攻撃(反撃)はイスラエル国防軍が5日中にツイッターで明らかにしたもので、サイバー攻撃に対して火力を用いて反撃する可能性があることを明確に示した点で、武力紛争史における新たな時代を告げるものとして注目を集めているとコラムは紹介しています
コラムはハマスのサイバー攻撃について
●イスラエルは詳細を明らかにしていないが、「イスラエル市民の生活の質」を損なうことを目的としたサイバー攻撃だったとしている。おそらく重要インフラストラクチャを狙ったのだろう。
●しかし、ハマスのサイバー攻撃はそれほど洗練されたものではなかったためにすぐに阻止された。そして、すぐさまイスラエルがハマスのサイバー拠点にミサイルを撃ち込んでサイバー攻撃ができないようにした。
コラムは本攻撃の注目点として
土屋大洋.jpg●もはやサイバー攻撃は密かに行われるものではなく、米国もイスラム国などにサイバー攻撃を行っていることを公言しているし、程度や質の差はあれ、中国、ロシア、北朝鮮、イランなどはサイバー攻撃の黒幕として見られることが多い。しかし、それへの報復がこれほど短時間で、そしてサイバー攻撃ではなく火力を用いて行われたことが注目を集めた。
●今回のようにサイバー攻撃への反撃として火力を直接的に短時間で用いたことはおそらくなかっただろう。仮にそういうことがあったとしても、政府や軍がそれを明言したことはなかった。その点が今回の事件は新しい
短時間でハマスのサイバー拠点を反撃攻撃したということは、事前にその建物がハマスのサイバー攻撃の拠点であることをつかんでいたと見るべき。サイバー攻撃のアトリビューション(誰がどこからやったのかの特定)は一朝一夕にはできない
●数時間の単位で一気にアトリビューションを行えるとは考えにくい。普段からイスラエル軍は各種のサイバー攻撃グループを特定し、監視下に置いていた。だからこそ素早い措置がとれたのだろう。
サイバー攻撃への対抗措置の経緯について
●米国の例
土屋大洋2.jpg2014年末にソニーピクチャーズ・エンタテインメントがサイバー攻撃を受けた際、米国政府はすぐに北朝鮮政府に責任があるとアトリビューション(名指し)し、その後、北朝鮮のインターネットが一時不通になったため、米国が報復措置をとったのではと見られたが、米国国務省は「コメントしない」とした
2015年に米国政府人事局(OPM)から大量の個人情報が盗まれ、経済的なサイバースパイ活動も大規模に行われたことから、オバマ米大統領は習近平に詰め寄り、経済目的のサイバー攻撃を相互に行わないという合意を
2016年の米国大統領選挙でロシア政府が介入を行ったと判断すると、オバマ大統領は政治的制裁に踏み切り、スパイ活動を行っていたロシアの外交官を追放し、ロシア政府が使っていた米国内の拠点2カ所を没収
国際法上、制裁や報復には均衡性の原則があり、イスラエルの物理反撃を「Too Much」として批判する声も多い。かつてはサイバー攻撃に核兵器との声もあったが、さすがに行き過ぎだろうと多くの国際法学者は考えている。
●しかし、誰がやったのかわかりにくく、攻撃そのものが潜伏型で行われることが多いサイバー攻撃では、何をもって均衡がとれているとするのか、判断がきわめて難しい
「先例になるのか」に関しコラムは
土屋大洋3.jpgこれまでも、サイバー攻撃に対して物理的な攻撃による反撃があることは否定されていなかった。「あらゆる措置をとる」とする政府が多く、サイバー攻撃にはサイバー攻撃で対抗しなければならないとする政府はほとんどない。そこには選択肢を残しておきたいとする気持ちが表れている。
●(ただし、)サイバー攻撃が「武力攻撃」と認められるほど苛烈であることを前提とし、単に個人情報が抜かれたという程度では武力攻撃とはいえない。電力網が広範囲に停止させられたり、何かが爆発したり、あるいは非常に危険な事態になることが明白な場合に限定との考え方が一般的
日本についてコラムは
2018年3月の衆議院安全保障委員会で当時の小野寺五典防衛相が、他国からサイバー攻撃を受けた場合、対抗手段としてサイバー攻撃をすることは可能とする認識を示している。これはサイバー攻撃にはサイバー攻撃で対応することができるという解釈である。
2019年4月25日の参議院外交防衛委員会で岩屋毅防衛相は、さらに踏み込んで、日本が外国からサイバー攻撃を受ければ自衛隊による防衛出動もあり得るとの認識を示し、「武力攻撃の排除のために必要な措置を取るのは当然だ。物理的手段を講ずることが排除されているわけではない」と述べた
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Cyber-new1.jpg土屋教授はコラムの最後で、このような反撃やサイバー対処には、陸海空宇宙サイバーといったドメインの垣根を超えた作戦運用が求められていることを指摘し、昨年12月に決定された新しい防衛計画の大綱が「多次元統合防衛力」をキーワードにした点に期待を寄せ、さらある発展を求めています
サイバー攻撃に即時武力反撃を行ったイスラエルを、「ルビコン川を渡る判断をしたカエサル」に例える論調もあるようですが、人目に触れないように闇夜に紛れて川を渡ったり、その渡り方を検討しているのが中国ロシア米国などなど世界の国々ですから、何でもありを前提に、日ごろから備えに怠りなく・・・があるべき姿勢でしょう。
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