日本ではよく聞く「グレーゾーン」ですが
米海軍幹部の口から聞くのは初めてかも・・・
5日、米海軍人トップのRichardson海軍大将がDefense News主催のイベントで講演し、本格紛争に至る前のグレーゾーン段階(areas short of open warfare)での対応の重要性を強調し、米海軍は全ての段階の紛争において勝利しなければならないと語りました
米軍は中東やアフガンでの対テロ戦争を15年以上継続しており、今更何で・・・と思いながら読むと、Richardson大将の頭にあるのは、南シナ海やバルト海や黒海での、中国やロシア相手の「gray war」であることが分かりました
米軍は、長期に及ぶ対テロ対処作戦の結果、本格紛争への備えが疎かになっているとの大きな危機感を持ち、兵士に発想の転換を訴えているところですが、今頃になってグレーゾーンの重要性にも指導層が気づいて訴えるようになって来たということでしょうか・・・
5日付Defense-News記事によれば
●Richardson海軍大将は、紛争は初期の競争段階から全面的な武力対決までのすべてのスペクトラムで見る必要があり、米海軍はそのすべての段階で十分な体制でなければならないと強調した
●特に、本格紛争の前段階の「areas short of open warfare」でも大国に対応できなければならないと訴えた
●具体的には中国とロシアを取り上げ、中国の南シナ海での活動と、ロシアの東欧や黒海周辺でのハラスメント行為に言及し、中露それぞれが自国内で政治的ポイントを稼ぐ行為だとも表現した
●そして、「gray war」とか「competition below the level of conflict」とか「short of open warfare」と言われる競争から全面紛争に至る過程のスペクトラムへの取り組みが、勝利へのカギとなり、単に競争力があるレベルでは不十分であり、相手に先んじる必要があると訴えた
●また、現実には紛争のあらゆるスペクトラムを行ったり来たりすることことがあるが、ハイエンド紛争能力で相手に先んじることが、(グレーゾーンでの)エスカレーション緩和を確かなものにするので、米海軍は海から宇宙そしてサイバー空間でも先んじることを追求しなければならない
●ただ、我々は時に中国のローエンド戦術によって窮地に置かれることがある。例えば、中国が海軍艦艇でなく海警(中国の沿岸警備隊)艦艇を用いて領海主張を行い、我が海軍駆逐艦等で対応せざるを得ない場合である。中国は我々の行為を侵略者として指摘するような状況である
●これは長期にわたる競争的争いだと肝に銘じるべきである。終わりのあるゲームではなく、終わりなきゲームだと考えるべきだろう。
●そうなれば継続可能性や維持可能性が重要となってくるが、過重負担(Overextension)で対処しようとしてはいけない。過度な負荷や限度を超えた任務の拡大は、自己破滅への道だからである
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だからこそ、現在の300隻を切る米海軍の状態から、355隻体制を構築しなければならない・・・とRichardson海軍大将は言いたいのかもしれませんが、「long-term competition」とか「an infinite game」などの表現で、その特性を訴えています
直接の表現ではないようですが、「The Navy has at times been stymied by China’s low-end tactics:我々は時に中国のローエンド戦術によって窮地に置かれる」と趣旨の発言をしているということは、「航行の自由作戦」が限界に直面している証左でしょう
トランプ大統領の下で、高級将校としてマトモナ精神状態を維持するのは極めて困難かと思いますが、頑張って頂きたい・・・ただただそう思います・・・
Richardson海軍大将の関連
「文書「将来の海軍」発表」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-18
「曖昧な用語A2ADは使用禁止」→https://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-04
「同大将の初海外は日本」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-25
「海軍内では信頼薄い!?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-09-14