8月21日の週、米空軍は相次いで二つの大きなプロジェクト、つまり次期ICBMと次期核搭載巡航ミサイルの発注候補企業を発表しました。
いずれのケースも、提案して敗れた企業は10日以内であれば訴えを起こす権利を与えられており、今後ごたごたの可能性を残していますが、2つの事業に各2企業が選ばれ、合計4企業がチャンスを得たわけですが、4企業すべてが異なる企業で、結果的には事業の分散も図られた形になっています
結論は以下の通りです
次期ICBM(計画名GBSD)
●8月21日、正確にはGBSD(Ground Based Strategic Deterrent)との計画に、ボーイングとNorthrop Grumman(現有ミニットマンⅢ担当)が選ばれ、ロッキードは選定から漏れた
●選ばれた2つの企業は、今後36か月間かけ、「technology maturation and risk reduction」活動を行う。ボーイングは約380億円、NG社は約360億円の契約を結ぶ
●具体的な要求性能等については非公開となっており、ほとんど情報がない
●2企業から最終的な1社に絞り込まれるのは2020年度で、1970年代から使用中のミニットマンⅢの後継ICBMが初期運用態勢を確立するのは2020年代後半と予期されている
●F-35、次期爆撃機B-21や次期空中給油機KC-46Aに続く、最後の大物事業を言われる次期ICBMであるが、その経費規模は米空軍見積もりで6.8兆円だが、国防省のコスト評価部署は10兆円以上に膨らむと早くも警告を発している
次期核搭載空中発射巡航ミサイル(LRSO)
●8月23日、正確にはLRSO(Long Range Standoff weapon)との計画に、Lockheed MartinとRaytheon が選ばれ、ボーイング(現有ALCM:AGM-86B担当企業)や参入を狙っていたNorthrop Grumman は選定から漏れた
●選ばれた2つの企業は、今後54か月間かけ、「technology maturation and risk reduction」活動を行う。Lockheed MartinとRaytheonはそれぞれ、約1000億円の契約を結ぶ。
●2企業から最終的な1社に絞り込まれるのは2022年度で、1980年代初めから使用中のALCM:AGM-86Bは約10年で耐用年数が来ると見積もられており、後継ミサイルが初期運用態勢を確立するのは2020年代後半と予期され、B-52, B-2 とB-21に搭載予定である
●次期ICBM以上に具体的な要求性能等について、情報が厳しく管理されており、ほとんど実態が明らかになっていないが、特に民主党議員からは、経費が膨大なる可能性と、通常兵器も搭載可能となることから核攻撃との誤解を与える等から、厳しい反対意見が出ている
●一方で共和党議員ら支持派は、現ALCMも核と非核弾頭両方が搭載可能で何ら変わりなく、敵の防空能力が強化される中、より遠方から発射できる突破力のある核巡航ミサイルが必要だとの声が出ている
///////////////////////////////////////////////////////////
核態勢見直しNPRが行われている最中で、ICBMとLRSOに国防省がどの程度の能力や性能を求めるかも流動的だと考えられます。
現段階では米空軍の意向を反映した形で進んでいるのでしょうが、NPRをまとめる過程や結果で明らかになる国防省の考え方次第の部分の多分に残されていると思います。
マティス長官はLRSOに慎重な発言をした経緯があり、、またICBMが今後も本当に有効な投資なのかとの有力議員のアピールもあり、更に抑止の在り方全体をサイバーや宇宙戦を含めて考え直す時だとのもっともな提案もあり、どう転ぶかが注目される大きな案件です
軍需産業政策の観点からすれば、F-35計画という史上最大の装備品計画を担当のロッキードはICBMから外れ、その慰めにLRSOに可能性を残しつつ、レイセオンとしっかり競い合ってもらって力を発揮してもらおうとも読めなくもありません
ICBM後継に関する記事
「ICBM必要性に疑問」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-07-22
「初のオーバーホールICBM基地」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-05-15
「ICBM経費見積もりで相違」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-26
「移動式ICBMは高価で除外」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-06-16
「米空軍ICBMの寿命」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16
「米国核兵器の状況」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25-1
21世紀の抑止概念を目指す
「米戦略軍も新たな抑止議論」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-11
「21世紀の抑止と第3の相殺戦略」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-03
「相殺戦略特集イベント」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-29-1
「期限を過ぎてもサイバー戦略発表なし」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-04-25
NPR(核態勢見直し)関連
「マティス長官がNPRに言及」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-06-15-1
「トランプ政権NPRの課題」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-02-09
「2010年NPR発表」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-04-07
「NPR発表3回目の延期」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-03-02
「バイデンが大幅核削減を公言」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-02-19