3日付Defense-Newsが、米政府関係者に確認した情報として、2015年にオバマ政権が定めた無人機輸出指針の見直しを開始したと報じています。
アメリカ製品売込みがアメリカ・ファーストであるトランプ大統領の大方針ですが、米国製無人機のコピー製品で世界市場に猛烈な売込みを行っている中国や、無人機利用の先駆者であるイスラエルなど、競争相手が猛烈な売込みを行う中、米軍需産業から見直し要求があるのかもしれません
一方で無人機輸出は、国際的な兵器技術管理枠組みであるMTCR(ミサイル技術管理レジーム:Missile Technology Control Regime)の制約を受けており、主要な西側35カ国が加わる本枠組みが表現する「輸出規制想定:presumption of denial」の解釈を変更することは、極めて慎重な判断を要することとなります
ちなみにMTCR枠組みでは、「搭載能力500kg以上かつ射程300km以上の完成したロケット・システムや完成した無人航空機システムの輸出に最大限の慎重さを求める。かかる輸出は不許可となる可能性が極めて大きい」としています。加えて今年4月に創設30周年を祝ったばかりのタイミングでもある
3日付Defense-News記事によれば
●米国政府高官はDefense-Newsに、2015年の無人機輸出政策の見直しを進めていると認めた。同政策の見直しについては、6月にインド首相が訪米した際に公にされるのではと噂があったが、米当局は否定していた
●そして同高官は、まだ政策見直しは初期段階にあり、何も決まっていないと強調しつつ、「鍵となるゴール、同盟国などに最高水準の米国製装備を提供しつつ、米国軍需産業の最先端技術を保護し、しかも非拡散と国際安全保障の推進において米国が指導力を発揮することの間に、適切なバランスを保つことだ」と語った
●米国の軍需産業にとっては政策変更は既に遅れている。同産業界は長年、中国やイスラエルに比べ、世界市場で米国が手足を縛られていると不満の声を上げてきた。
●そしてそんな声が一段と高まったのは、米国製をコピーしたかのような中国製無人機が、昨年、米国の戦略的パートナーであるUAEやヨルダンやエジプト軍に導入を開始されるようになってからである
●しかし政策見直しのスケジュールは不明確である。軍需産業筋の中には9月から10月に終了するのではとの観測もあったが、最近のトランプ政権の混迷振りから、そんなに早くは期待できないとの見方が広がっている
●それでも米軍需産業界は、輸出規制の緩和は多くの雇用と売り上げをもたらすと期待しており、更に「今は無人機技術の民生への応用など考えていないが、輸出が緩和されれば考え方が変わる」と関係者は語っている
MTCRとの関連をどう整理するか?
●ただし見直しは単純ではなく、特に攻撃用無人機の輸出を極めて厳しく規制しているMTCRの「輸出規制想定:presumption of denial」を、どのように解釈変更するかが課題となろう。
●仮にMTCRの変更に動こうとすれば、30カ国以上から賛同を得る必要があるが、単に米国政策の修正であれば容易である。
●ただしその場合、MTCRの目的である非拡散より、政治的&軍事的利益を優先するとの解釈変更を世界に発信することになる。
●一方で、他の参加国にも「輸出規制想定:presumption of denial」を乗り越えろと促し、MTCRへの参加国を増やす手法を提案する者もいる
●いずれにしても、米軍需産業側から見れば、なぜ元々ミサイルが対象のMTCRで無人機まで縛るのか理解できないし、オバマ政権が2015年に責任ある国への輸出拡大に踏み出した流れがあるものの、依然として個々のケースで全く明確でない長期にわたる官僚手続きに苦しめられている実態がある
●トランプ政権の政策実行力が問われる課題となろう
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INF全廃条約にしても、このMTCRにしても、軍事技術の拡散を背景に、指導者が独裁的力を持つ中国や北朝鮮やイランが好き放題な中で、岐路に立たされています。
笑えるほど米国製と似ている中国製の無人機を見ていると、それがUAEやヨルダンやエジプトに輸出される様子を見ていると、米軍需産業界の怒りのほどが想像できます。
日本の場合、安くて効果が確認されていても、戦闘機数と飛行対数とパイロット数を死守するために、無人機導入には消極姿勢を保ち続けるでしょうから関係ないのでしょうが、「安全保障感覚の体幹」を鍛えるには必要な報道ですのでご紹介しました
中国と無人機
「中国がサウジで無人攻撃機の製造修理」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2017-03-29
「中国が高性能無人機輸出規制?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-08-03
「輸出用ステルス機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-12-27
外務省によるMTCR解説
→http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mtcr/mtcr.html