6日、Work国防副長官が講演し、国防予算の現状を説明しつつ、トランプ氏が大統領選挙戦を通じ叫んでいた「米軍艦艇や作戦機の増強」が非現実的で、現状維持に必要ながら既に欠落している予算や規模維持に必要な予算だけを計算しても、現状から年間10兆円の国防予算増額が必要だと語りました
また、現状の欠落予算や規模維持を後回しにしても、喫緊の課題であるサイバー関連の脆弱性に投資し、指揮統制システムの強靱性を高める取り組みを始めるべきだと、現場感覚溢れる地に足のついた主張を展開しています
そもそもトランプ氏は、選挙期間中も選挙後も、ほとんど具体的に安全保障政策を語っておらず、9月の「米海軍艦艇を350隻体制に」等との意図不明な発言だけが残っているわけですが、厳然たる事実を前に、どのような政策を打ち出すのか注目されているところです
既にトランプ政権移行チームとの国防省とのミーティングが始まっており、第3の相殺戦略への取り組みや諸計画について説明したようですが、Work副長官はトランプ側の反応については言及を避けています。
6日付米海軍協会web記事によれば副長官は
●トランプ氏は、予算の強制削減を規定した2011年の予算管理法破棄を主張しており、これは素晴らしいことだが、同法を破棄して得られた予算増額はまず現状の「穴埋め」に充当されることになるだろうし、米軍艦艇や作戦機を増強する余裕があるか疑問である
●私の計算では、既に予算不足で穴が開いている部分を埋め、老朽装備や施設を更新して現状維持するだけでも現状予算規模より追加で年10兆円が必要であり、まず現状をよく把握して考えるべきである
●まず、国防省は規模を維持しながら最低限の装備更新等を図るための5カ年計画を立てているが、これを遂行するために追加予算が年2.5兆円が必要である。これが確保できなければ、艦艇や航空機の数削減に手を付けなければならない
●次に、予算管理法で規定された上限ではまかなえない部分を、「海外緊急作戦予算OCOA」で例外的に議会の承認を得て確保しており、欧州での対露緊急対策(European Reassurance Initiative)など重要施策を進めているが、この経費年3.2兆円の基礎予算化して正常化する必要がある
●第3に、2022年から約20年間を掛け、核抑止3本柱の近代化・再構築を始める必要があるが、このために年間2兆円の追加予算が必要になる見積もりであり、抑止戦略の根幹をなす不可欠な投資確保は最優先事項である
●最後は現在リスクを負いつつ、リスクに目をつぶるような形で不足を許容している装備品の維持整備や弾薬調達予算である。現状の装備品規模に比し、現在の維持整備予算は年間2.3兆円不足している。これには削減している弾薬予算や停滞している危険な老朽インフラの更新予算も含んでいる
●繰り返すが、現在出血している傷を埋め、何とか老朽装備やインフラを更新して現状の規模を維持していくだけで年間約10兆円の追加予算が必要なのである。艦艇や航空機を規模を増やす余裕があるとは思わない
●これが私が見た国防省の現状であり、政権移行チームに伝えた現状である。移行チームとのやりとりや反応については言及しない
●個人的な意見ではあるが、仮に私が、追加で年間2兆円の予算を与えられたら、艦艇や航空機規模の拡大ではなく(現状の維持を多少犠牲にしても)、サイバー関連の脆弱性に投資し、指揮統制システムの強靱性を高める予算を編成する。それほど緊急に対処が必要な課題だと考えるからだ
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非常に分かり易いWork副長官の解説でした
強制削減を生んだ2011年の予算管理法は、国防省だけでなく他省庁も縛っており、この縛りが無くなれば一斉に「穴埋め」要求が全米からわき上がることになります。
米国防省の予算は年間60兆円だったので、年10兆円追加が如何に大きいか御理解いただけると思いますが、これが現状維持予算の最低レベルだと言うことです
この現実に対処するため、現国防省幹部や関連議員の中に「F-35の調達数削減が必要」「次期政権の第一課題」との認識が広がりつつあるわけです
Mattis次期国防長官やスタッフも十分現状を認識するでしょうから、多かれ少なかれ、同盟国への要求が強くなるのは避けられないことだと思います
日本では米軍駐留経費がどうのこうの・・・との報道や議論がありますが、もっと大きな視点で世界の軍事や安全保障環境を見つめ、置かれている立場を認識する必要があります。
トランプ政権がどうのこうの・・レベルの話ではないのです・・・
死屍累々の装備品開発
「ズムウォルト級ミサイル駆逐艦」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-10-22
「F-35の主要課題」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-12-17
「次期SSBN基礎技術要求」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
「空母建造費の削減検討に30億円」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-07-07
「沿岸戦闘艦LCSがF-35化」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2012-04-09
「米会計検査院が空母に待った」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-12
「新空母フォード級を学ぶ」 →http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-07-20
「映像で学ぶB-2爆撃機」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-03-01
ロバート・ゲーツ語録70
(ロシアでの講演で、)軍事官僚制の2つの病巣、つまり兵器システムの継続的価格
高騰と納期の遅延、を危惧する点でセルジュコフ露国防相と意見が一致した→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2011-03-28
オハイオ級の後継艦計画ORPと関連事業
「次期SSBNの要求固まる」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-08-2
「オハイオ級SSBNの後継構想」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-01-25-1
「あと25年SLBMを延命!」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-04-13
米潜水艦関連の記事
「攻撃潜水艦SSNの将来」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-10-28
「バージニア級SSNの内部映像」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2013-09-10-1
チョット関連の記事
「国防長官が暫定予算を批判」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-23
「新政権の国防予算はF-35が鍵」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
「米国防予算のグダグダ解説」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2016-04-25