12日付Defense-Newsは、米下院の軍事や宇宙政策に関連する委員会に所属するJim Bridenstine議員(共和党:オクラホマ)が発表した、混雑や競争や脅威が高まる宇宙政策に関する法案の概要を紹介しています。
軍民間の縦割り排除、小型多数衛星への方向変換、衝突防止の民間委託、国産ロケットエンジン使用の推進施策などのアイディアを含んだ法案(American Space Renaissance Act)で、その実現可能性や方向の正誤については細部コメントできませんが、現在の米国宇宙政策の課題を理解する一助としてご紹介します
12日付Defense-News記事によれば
●12日、宇宙政策をリードする立場にあるBridenstine議員は「Space Foundation」の年次総会で、過去米国が独占してきた宇宙が、より「congested, contested, and competitive」になる宇宙環境を踏まえ、民間企業の革新的技術を背景に、米国が将来も宇宙で主導権を握れるように同法案を作成したと語った
●同議員は最近のインタビューでも、再利用可能なロケットから衛星の掘削、宇宙居住に渡る多様な企業の取り組みに触れ、米軍や国の負担を削減しつつ、兵士の活動効果を最大限にする事が法案の狙いだと語っていた
通信衛星の軍民縦割り排除
●商用衛星がC-bandやKu-band周波数帯を使用し、軍事衛星がX-bandやKa-band帯を使用しているが、紛争の最前線で使用されているアセットは、多くの場合どちらか一方の衛星周波数しか使用できない
●言わばこの縦割り(Stove-Piped Communications)は、作戦実施の柔軟性を著しく制約しており、我々としては、例えば無人機が軍民両方の使用でき、地球上の如何なる場所でも最良の通信環境を確保できるようにしたいと考える
●同法案は国防長官に対し、商用と軍用衛星通信の何らかの融合を計画するよう求めるもので、衛星通信端末をマルチ周波数帯への対応能力を要請するものである。この実現を軍用の「Wideband Global Satellite」で実現するか、商用の「ViaSat」で実現するかには拘らない
●同議員は「容易ではないし、安価には実現出来ないし、直ぐに実現出来ないことは理解しているが、必要なことである。そして、今始めなければ何時になっても実現できない。段階的にでも監視しなければならない」と表現している
●同時に同法案は、国防省が運用している5つの衛星システムの地上・宇宙システムの共有共同性を改善するよう求めるものとなっている。
●5つのシステムとは、「ミサイル警報赤外線衛星」「AEHF核ミサイル指揮統制」「GPS」「WGS:前述」「国防気象衛星」である
多数の小型衛星からなるシステム
●少数の高価な衛星に多機能を詰め込むのではなく、多数の小型衛星に機能を分散し、コストを削減しつつ抗たん性・強靱性を増す
●米国が多数の衛星の「系や雲」を形成し、地上にしっかりとした生産ラインを保有すれば、中国やロシアも対衛星兵器への投資意欲が減殺されるだろう。
●対衛星兵器を開発して使用しても、その影響が大したことがないと理解させれば良いのであり、「多数で小型」は宇宙拒否システムの抑止につながる
衝突防止の民間委託
●歴史的に、米空軍が宇宙情勢把握や宇宙アセットの衝突防止を担い、衛星の状況やデータを分析し、衛星やデブリの衝突防止指示や助言を行っている。しかしその様な役割は文民組織に移管し、米軍兵士は様々な新たな宇宙の脅威対処に集中させるべきである
●現在はJSPOC(統合宇宙作戦センター)が世界からデータを集め、衝突警報を発しているが、外国政府や一般企業もその能力を有しており、商用の仕組みに移管すればより安価に可能であろう
●同議員は「国防省の一員であるJSPOC勤務員が、一日の半分を費やして宇宙での衝突防止情報を無料で提供しているが、これは我が兵士が力を入れるべき分野ではない」と語っている
●具体的に同議員は、連邦航空局FAAの商用衛星交通室が、JSPOCや商用データを用いて本業務を引き継ぐべきだと法案で提起している
安全保障衛星の打上は国産エンジンで
●2022年末からスタートする軍事衛星打ち上げの競争入札において、米国産ロケットエンジンを使用する場合は25%入札価格を割り引き、更に搭載衛星の保健料金に税金の割引を与える法案となっている
●法案では現在関与して苦しい立場のにあるものを懲らしめようとするのではなく、新たな参入者を動機付けるようなインセンティブの仕組みを盛り込んでいる
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Bridenstine議員はかつて米海軍のパイロットとして、E-2CやFA-18で約9年間の勤務経験があり、その後州軍でも麻薬取り締まり監視の航空機操縦を行っていたようです。2012年に下院議員に当選とか。
衛星を、小型・多数・分散する方向は共通の認識でしょうが、それで本当にコストが下がるのか、私にはよくわかりません。
Work副長官が、150個地上監視衛星を打ち上げる構想を民間企業と暖めていると講演していましたが、今後の成り行きに注目です
JSPOCで検索すると、自衛隊の統合幕僚長らが訪問した写真も表れ、日本も関与せよとの声が米国から上がっていることが伺えます
恐らく同法案にも、同盟国を巻き込むことを促す条項もあるのでしょう。悪いことではありませんが、限られた予算もあり、日本としては苦しいところでしょう
宇宙関連の記事
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→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/archive/c2302888136-1