H2A打ち上げ成功の中、米国では・・・
23日付Defense-News記事が、米国の軍事衛星(GPS、軍事通信、偵察衛星等々)打ち上げを担ってきたULA(ロッキードとボーイング合弁企業)と、米国防省&議会が正面対決の様相を呈していると報じています。
ULAの主力ロケット「Atlas V」がロシア製エンジンRD-180を使用していますが、政府と議会が2019年以降は輸出拒否される恐れのあるロシア製エンジンを使用するなと決定し、代替ロケットの開発を推進しています
しかし代替ロケットの開発に時間的余裕が不足していると訴えるULAや米空軍は、2019年以降の露製エンジン使用に関し緩和を要求していますが、国防省や議会はこれを拒否しています
そんな中、軍事的に重要な「GPS III衛星打ち上げ入札」に、ULAがRD-180エンジンの不足を理由に「応札出来ない」と18日発表し、6月に国際宇宙ステーションへの資材打ち上げに失敗した新規参入「SpaceX社」の「Falcon 9 rocket」のみが候補に残る状態で、「10年ぶりの競争入札復活」に期待を掛けていたマケイン上院軍事委員長が看過出来ないと怒りを表明している次第です
打ち上げロケットを巡る一般的事項
●今年軍事衛星打ち上げの承認を受けたSpaceX社の「Falcon 9」ロケットは、打ち上げ可能重量がそれほど大きくなく、軍事衛星の6割程度の打ち上げしかカバーできない。
●同社は「Falcon 9」の推力強化型「Heavy」を開発しており、完成すれば100%軍事衛星打ち上げをまかなえるし、そのような能力が必要な打ち上げまでには間に合うと述べている
●ちなみに「Falcon 9」で打ち上げが不可能なのは、Advanced Extremely High Frequency (AEHF) system、 WideBand Global SATCOM、Mobile User Objective System (MUOS)、更に非公開の5種類の任務用衛星である
●米空軍は、国産ロケット開発のリスクに考慮し、18個のRD-180エンジンを確保し、2022年までの移行期間に備えることが議論のスタートになるべきと主張している
●ULA関係の議員(米空軍もこのライン)は、現在議会や国防省が決定した計画では、国産ロケットが完成するまでに、最大6年間のロケット不足が発生する可能性があると懸念
マケイン議員らの主張(国防省もこのライン)
●国産ロケットへの移行猶予を与えるため、移行期間中に、ULAには従来計画より4個余分に多い9個のRD-180を使用して良いと承認している
●ULA社は、これらのRD-180を使用して、「GPS III衛星打ち上げ」に入札することが出来るはずだ
●軍事衛星の打ち上げに限定してRD-180の使用を2019年以降制限するのであって、民間や一般公用の衛星打ち上げ用にRD-180を購入することを制限はしていない
●ULA社(米空軍も含め)は、この応札辞退によって、RD-180使用禁止決定の緩和を求めるつもりではないか
ULA側の主張(同社ロケット工場地元議員の主張含む)
●GPS III衛星打ち上げに参画したいが、使用が許されたRD-180は既に他の用途が決まっており、応札できるロケットがない
●民生用にはRD-180をロシアから新規調達して良いと言うが、新規調達には1年半から3年が必要だ
●ULA社は他に「Delta IV」ロケットも製造しているが、Delta IVは大きく重く非常に高価で、「トヨタ車でまかなえる任務をロールス・ロイスで行うようなものだ」
●ULAは、米国Blue Origin製の「BE-4エンジン」を使用した「Vulcanロケット」の開発を開始しているが、BE-4エンジンの完成には数年を要するとしている
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ウクライナや中東で好き放題のロシアに、米国軍事衛星の打ち上げを担うロケットの心臓部であるエンジンを頼っていていいのか?・・・との疑問は至極当然ですが、国産ロケットをエンジンも併せて開発するのにどれくらいの期間が必要か、それまでに露製RD-180がいくつ必要か、については色んな意見があるようです
また、「SpaceX社」だけによる応札だと競争原理が働かず、国防省が狙う競争による価格性能の向上に反します。
この騒動はロシア側も興味深く見ているでしょうから、国防省もULAの辞退には現時点で「コメント無し」の姿勢です
日本のH2Aロケットによる商用衛星打ち上げ成功で盛り上がっているところですが、世界がお世話になっている米国の軍事衛星打ち上げは「波高し」状態です
米軍事衛星打ち上げ関連
「10年ぶり米軍事衛星打上げに競争導入」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-10-03
「国産開発が間に合わない」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-06-29-1
「露製エンジンを何基購入?」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2015-04-30-2
「米国安堵;露製エンジン届く」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-08-22
「露副首相が禁輸示唆」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2014-05-22