イラクやアフガンでの戦訓を基に編纂され、米陸軍・海兵隊が2007年から使用している「反乱・反政府活動対応マニュアル」(Counterinsurgency(COIN)Field manual)は、全く明るい兆しの無かったイラク情勢を劇的に改善し、アフガンでもその応用が図られている米軍戦術のエッセンスが詰まっています。
米軍にとって忘れてしまいたい「ベトナム戦」・・・そこで培われたCOINのノウハウは、その敗北の記憶と共に、その後の陸軍内では誰も目を向けないモノとなって行きました。
ベトナム戦争後、陸軍はワルシャワ条約軍との大規模地上戦を想定した新たな戦い方に目を向け、ベトナムでの忌まわしい記憶を振り払い、大きな犠牲を払いつつも蓄積されていったCOINの教訓を(半ば意図的に)忘れていったのです。
本マニュアルの序文には、「最近の米軍のCOINの戦いは、スープをフォークで食べるようなモノだ」との表現があり、「本マニュアルを特徴付けるのは、禅問答のようなパラドックスに満ちた、反乱・反政府活動対応における心得である。」との記述があります。
そして本文には・・・
●あなたがあなたの部隊を守ろうとすればするほど、あなたの部隊は不安全な状況に置かれる。
●あなたが力を使えば使うほど、その効果は薄らいでいく。
●時には、何もしないことが最高の対応である場合もある。
●反乱・反政府活動対応においては、時に引き金を引かないことが、最高の武器である。
・・・等々、非対称な戦いの現場におけるパラドックスが述べられています。
紹介した序文の著者は、民主党政権下で日の出の勢いのシンクタンク「CNAS:Center for a New American Security」の若きプレジデント・John Nagl博士45歳(写真左)。
イラク戦争にも戦車大隊長として参加した彼は、今や不正規戦闘やアフガン関連軍事情勢のピカイチ専門家として超多忙な日々のようです。
「仏教には個人的に興味があって勉強していた。あのマニュアルは、米だけでなく日本を含む各国の教訓から生まれたものだ。」と、かつて語ってくれたことがあります。
イラクにおける戦訓収集で、陸上自衛隊にも多国籍軍の関係者が多数訪れており、米陸軍の教育訓練コマンド関係者と陸上自衛隊も意見交換をしていた模様ですので、陸自のサマワでも教訓も、本マニュアル作成に大いに活用されたかもしれません。
本マニュアル編纂の先頭に立った当時のTRADOC司令官ペトレイアス将軍が「はしがき」を。米軍切っての対テロ・COINのエキスパートとして知られたペトレイアス氏(9月からCIA長官)の足跡を知る上でも貴重な資料です。
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「ゲーツ改革のまとめ」→http://holyland.blog.so-net.ne.jp/2010-06-17
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